ONCE、東京公演で届けた圧巻のパフォーマンス 枠に囚われず新たなスタイルを体現したステージに
杉本雄治(ex.WEAVER)のソロプロジェクト ONCEが、2ndアルバム『Wandering』を携えたワンマンツアーを開催した。本来ならば8月31日に愛知で開幕し、大阪公演を経て東京でファイナルを迎えるはずだったが、台風10号の影響で愛知、大阪2公演が延期に。図らずも初日となった9月7日、東京公演の模様をレポートする。
アルバム同様、アンビエントなピアノインストゥルメンタル「Overture~Wandering~」に乗せてライブは幕開けた。サポートを務める小栢伸五(Ba/MEMEMION)、岡本啓佑(Dr)に続いて杉本が登場。手を挙げて挨拶した後、ピアノを奏でながら「Flyby」を歌い始めると、ファンはすぐにクラップで盛り上げていく。間奏でフロアを見渡し、「会いたかったぜ、東京! 最高の一日にしような!」と朗らかに呼び掛けて笑顔を見せた。
続いて、2023年9月にリリースした1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』収録の「Stay With Me」を、ボコーダーを用いた独唱からスタート。爪弾いたピアノリフをその場で録音してループさせ、音を積み重ねていく。木漏れ日のようなライトの下、小栢、岡本らが加わって編み上げていくアンサンブルに身を委ね、心地良さそうに歌い終えた杉本。序盤の2曲、曲調はまったく異なるのだが、共通しているのはライブ空間ならではの喜び、ステージとフロアとの熱が混ざり合う尊さを実感できるナンバーという点である。
「『Wandering』TOURへようこそ! ファイナル~!……って言うとこやった、今(笑)。初日です。東京、皆さん元気ですか?」と、日程変更のハプニングを笑いに変えた杉本。「初日、皆さんと最高の夜を過ごせたらな。楽しんで行ってください」とファンに呼び掛けた。メランコリックな前奏から『Wandering』収録の「Nocturne」が始まると、それまでの和やかなムードから一変、切なさを湛えた歌声に惹き込まれていく。今年2月に東京、大阪で開催したビルボードライブ公演『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』のために作られたロマンティックなワルツで、同期のストリングスが鳴り始めると、まるで舞踏会の情景が脳裏に広がっていくようだった。続いて披露した配信限定シングル第一作目「Amazing Grace」では、杉本の声色が一層艶やかになっていき、それと連動するようにライトも眩さを増していった。2曲の連なりは厳かで美しく、作曲家としての杉本の、ある種の格調高さのようなものを実感するパートだった。
ピアノに乗せてMCを始めると、オーディエンスに「皆、聴きたい曲ある?」などと気さくに問い掛け、飛び交うリクエストに応答してやり取りを楽しんだ後、Radioheadの「High and Dry」を届けた。自身のルーツにまつわるカバー曲を盛り込むのは1stツアー同様。Radioheadの代表的な人気曲の一つではあるが、歌詞を改めて読み返すと、これが現在の杉本の心境と通じ合うのだろうか? とやや気掛かりになる。披露し終え、またすぐにピアノを奏でながら、作詞を多く手掛けるようになって「もっと自分の今感じていることを皆に伝えていかなきゃな」と思うに至った胸の内を明かしていく。過去を振り返り、「歩いて来て、“次こういうふうに生きていきたいな”というターニングポイントになるのは、夢が叶った瞬間よりも、大切な人に裏切られたり、失くしたり、いなくなったりした時。(そういう時に)“自分はこんなにも身近な人たちに、いろいろなものを与えてもらっていたんだな”とすごく感じられて」とコメント。「そんな僕が今までに出会った大切なもの、すべてへの愛を詰めて歌えたらなと思います」という言葉から歌い始めたのが、『Wandering』のラストを飾る温かなバラード「この手」。Radioheadの選曲理由は、あえて語らなくとも、この曲の並べ方から推し量るべきなのかもしれない。降り注ぐ光を浴びながら杉本は、体温が伝わってくるようなハートフルな歌を届けた。
ライブは折り返し地点を迎え、「Right Now」ではピアノから離れてハンドマイクで熱唱。小気味よいダンスビートでフロアを沸かせると、間奏では観客をしゃがませ、カウントで一斉にジャンプするよう呼び掛ける。演奏は昂っていき、カットアウトから「愛とか恋とか」へと鮮やかに繋げると、観客は沸き立った。ギターで切れ味鋭いカッティングを刻んだかと思えばピアノも奏で、華麗な二刀流で魅了していく杉本。フュージョンバンドのような音と音との対話が生む一体感と、バンドとフロアとの一体感、双方がうねりと熱気を生み出していく。ラストの掻き回しの最中からすでに大きな拍手が巻き起こり、そのまま「Dusk」へと切れ目なく繋げると、〈赤く染まった〉という歌詞を先取りするように照明が青から赤へと切り替わる。ミニマムなループが高揚を生んでいくタイプの原曲だが、バンド編成で演奏することで躍動感が格段に増していた。印象的だったのは、杉本が前へ出てギターソロを奏でる、ロックミュージシャン然とした姿である。
「Nocturne」同様にビルボードライブ公演のために作った「夢でもし逢えたら」を放つと、「皆一緒に歌うよ?」とシンガロングを呼び掛け、ハンドマイクでパフォーマンス。全身を伸びやかに駆使したステージングにハッとし、惹き付けられる。杉本はファンを煽りつつ自身も音楽に没入している様子で、自己を解き放っているようにも見受けられた。ピアノの前へ戻り、ギターを掻き鳴らして曲を締め括り「どうもありがとう!」と叫ぶと、会場は大きな歓声に包まれた。
「後悔しない人生、好きなものをちゃんと楽しめる人生を送っていきたい」という想いを述べながら、集まったファンに対しても「皆もいろいろ大変なことがあると思うんですけど、その中でも、自分が好きなものを大切にしてほしいな、と思っています。それが、僕が作る音楽、この場所だったらすごく嬉しい」と語り掛ける。『Wandering』収録の「いつか」を本編ラストに届けると、メンバーとアイコンタクトを交わしながら生き生きとした表情でセッションし、杉本は力強い歌声を響かせていた。