ONCEが届けた他者と共有・共感した先にあるポップス ビルボードライブ公演レポ

ONCEビルボードライブ公演レポ

 杉本雄治(ex.WEAVER)のソロプロジェクト・ONCEが、ビルボードライブ公演『ONLY LIVE ONCE in Billboard Live』を東京、大阪で開催した。ONCE始動の年となった2023年を経て、今年は曲をたくさん書きたいし、ライブもたくさん行いたいと意気込んでいた杉本。そんな2024年のキックオフライブだ。

 昨年9月に1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』をリリースしたONCE。同作が、作詞作曲から演奏まで自分一人で完結させた作品となったのは、「一人でどれだけできるかチャレンジしてみよう」という想いから。同じ考えから、初のワンマンツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』ではサポートミュージシャンを迎えず、一人でステージに立った。

 対して、今回のビルボードライブ公演では、以前から関わりのあるミュージシャン=阪井一生(Gt/flumpool)、月川玲(Ba)、雨宮麻未子(Vn)、神宮司治(Dr/レミオロメン)を迎え、バンド編成で楽曲を披露した。「アルバムの完成形を見せられたら」という気持ちでバンド編成に臨んだというONCE。また、アルバム制作中に、自身の音楽表現の核はピアノにあると再確認したことから、ビルボードライブ公演開催を目標とし、ここまで活動してきたそうだ。

 2月11日の20時に開演した、東京公演2ndステージ。バンドメンバーとともに登場した杉本が、グランドピアノの前に座り、最初に奏でた音色を聴いて、「やっぱりこれだ」としみじみ思ったファンも多かっただろう。1曲目は、ビルボードライブで演奏することをイメージして制作した新曲「Nocturne」。WEAVERのライブや他アーティストのサポートでビルボードライブのステージを複数回経験している杉本は、「1年頑張ってきたご褒美のような空間」とし、「みなさんにとっても特別な場所になれば」と語っていたが、新曲を冒頭に持ってきたところに「このライブを特別なものにしよう」という意気込みが表れていたように思う。一聴すると明るいがマイナーに終止する切ないメロディを、ワルツのリズムに乗せて歌うバラードだった。

 2曲目は、アルバム収録曲「Stay With Me」だ。ボコーダーを駆使しながらの歌い出しこそ音源を踏襲したものだが、やがてバンドが合流。1サビではボーカルとボコーダーとキックのみが残り、静の場面を作るなどメリハリを効かせつつ、トリッキーなリズムによる間奏でバンドが一気にスパーク。そしてラスサビは全員で豊かなサウンドを鳴らし、複数人でのアンサンブルならではの幸福感に包まれた。気の置けないミュージシャンとのセッション、しかも計4本中最終公演ということでバンドは温まっていたほか、客席と距離が近いこともあり、ステージ上は和やかな雰囲気。一方、一筋縄ではいかない楽曲構造が適度な緊張感をもたらすのか、バンドの音はキリッと締まっている。リスナーに対して開かれているが弛緩しきっているわけではない、絶妙なテンションだ。

 最初のMCでは観客と一緒に乾杯し、リラックスしながらトークをした。MC後に披露された「ツキニウタウ」は、阪井が作曲&プロデュースを、月川が作詞&歌唱を、杉本が編曲を手掛けた曲。3人が同じステージに揃ったことで、リリースから約2年を経てライブ初披露が実現。しかも1番は杉本が、2番は月川がボーカルをとる貴重なバージョンだ。貴重といえば、「Woman“Wの悲劇”より」(薬師丸ひろ子)のカバーもそう。秘めていた想いを次第にさらけ出していくような、温度と湿度を感じさせるアレンジで、雨宮の情熱的なフレージングも印象的。薬師丸ひろ子歌唱の原曲とはまた違う主人公像が浮かんだ。

 アルバム『ONLY LIVE ONCE』にはループミュージック的な構造を持つ曲が多く、バンドで演奏すると、回を増すごとに熱量が段階的に上昇するような盛り上がり方になる。ピークに達した頃には、音を全身で浴びるような喜びが。心象風景を描いたインスト曲で、音源ではピアノのレイヤーによって構成された「Squall」は、生バンドによってさらにドラマティックに変貌。違う絵の具を持ち寄って一つの大きな絵を完成させていくような、バンドアンサンブルの醍醐味満載の快演だった。次の曲「Amazing Grace」もバンドのフィジカルが感じられる演奏。サポートメンバーに背を預けながら、杉本も歌声を力強く響かせる。

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