ONCE、たった1人で完遂した多彩なサウンドのステージ 視覚的にも興味の尽きないライブに

ONCE、たった1人で作り上げたステージ

 10月4日・5日、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて、杉本雄治(ex.WEAVER)のソロプロジェクト ONCEの初ワンマンツアー『ONCE 1st Tour 〜ONLY LIVE ONCE〜』がファイナルを迎えた。セットリストは9月にリリースした1stアルバム『ONLY LIVE ONCE』収録曲とカバー曲とで構成。本稿ではDAY2、オーラス公演をレポートする。

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 向かって右手にはキーボード、左手にはキーボードにPCや様々なマシンを組み合わせたラックが設置され、中央にはアコースティックギターとエレキギターが立て掛けられている。定刻をやや過ぎて雑踏の環境音が響き始めると、ブルーの光の中、ONCEが登場。ライブの1曲目を想定して作ったとインタビュー(※1)で語っていたインストゥルメンタル「Crossroad」で幕開けた。奏でたピアノをその場で録音し、再生しながら次はフィンガークラップを録音。続いてエレキギターを構えると、指でマシンを操作しシンセベースの音を出す。そのように多重録音を繰り返しながら、ピアノ、ギターで次々と旋律を奏で、重層的なサウンドスケープを一人きりで立ち上げていく。彼の姿は、白いロングジャケットの衣装も相まって、実験室で薬品を配合する科学者のようにも見えた。

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 「Stay With Me」は歌詞に地名を織り込んでアレンジし、〈渋谷で過ごす今日が一度きりでも/この瞬間 重ねた声だけは/変わらず残っていく〉と歌い、「最高の1日にしようね、渋谷!」と呼びかける。曲間では観客にクラップを求め、そのリズムに乗せて奏でるピアノソロが生き生きとして印象的だった。

 「改めて自分を見つめ直して、眠っている可能性、今まで出てこなかった音楽を、この作品を通してたくさん出せた」とアルバム制作を振り返り、「一度きりの最初のこのツアー、一人でできるところまでやってみたいなという気持ちが強かったので、こんな盛大な装置や楽器をいっぱい置いてやっているわけなんですけども……伝わってますか?」「限界突破をしようと思っています。皆の応援が力になるので、どうかよろしくお願いします」とファンに呼びかけた。

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 続いて、ピアノ伴奏、エレキギターのリフを多重録音し、シンセベースやチャイムも加えて作ったトラックに乗せ、TWICE「MOONLIGHT SUNRISE」のカバーを英詞で軽やかに歌唱した。選曲の理由として、ONCEでエゴサーチしたところ、「TWICEのファンの総称“ONCE”がヒットした」という微笑ましいエピソードを語り、場を和ませていた。2曲目は「ルーツとなるものを知ってもらいたい」との想いから「真っ先に浮かんだ曲」と紹介。「今の自分の気持ちにリンクする」と披露したのは、U2の「With Or Without You」だった。アコースティックギターを掻き鳴らしながら伸びやかに歌うのは初めて見る姿で、この上なく新鮮だ。アウトロのギターを残したまま次曲「ロストマン」(BUMP OF CHICKEN)へなだらかに繋げ、ピアノを奏でながら熱唱。〈これが僕の望んだ世界だ〉〈ここが出発点〉という歌詞がONCEの“今”とシンクロし、胸を打たれた。

 MCでは、「本当に自分は暗い人間なんだなって……(笑)」と、この2〜3年を振り返った実感を語りながら、「ポジティブな気持ちは、そのネガティブな感情から生まれているんだな。無理して変わらなくてもいいなと思えた」と、心境の変化を明かした。そのきっかけになったという、葛藤を音にした曲としてピアノインスト「Squall」を披露。背後のスクリーンには降りしきる雨のようなイメージ映像が投影されている。ONCEは両腕をクロスさせて鍵盤の高低をダイナミックに鳴らし、激情を美しい音楽に昇華した。

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