Adoが初めて明かした“誰も見たことのないAdo” 自愛の道へ続く転換点、『モナ・リザの横顔』の真の意味

Ado『モナ・リザの横顔』千秋楽レポ

 ポップな映像とともに「オールナイトレディオ」を届けると、「Value」を経てライブはラストスパートへと突入していく。ここで披露されたのが、2022年のまふまふのトリビュートアルバムでAyase(YOASOBI)とコラボレーションしてカバーしていた「立ち入り禁止」。言うまでもなくまふまふはAdoにとってとても重要なクリエイターであり、その歌声にもさらに力と感情が乗っているように聴こえる。さらにその「立ち入り禁止」に続いて聴こえてきたのは「0」。アルバム『残夢』のラストに収められた楽曲だが、これまでライブで歌われることは一度もなかった。イントロが鳴り出した瞬間に場内にどよめきのような声が起きたのも当然だが、それ以上に驚いたのがAdoのパフォーマンスだ。スキャットのような早口ボーカルと、トライバルなリズム。かなり複雑な楽曲だが、それを彼女はノリノリで超えていく。あらためてAdoというアーティストの底力を見るような瞬間だった。

 「0」を終え、ついにAdoが話し出した。「みなさんこんばんは、Adoです」という挨拶から始まったMCは、「私の新たな一歩を見届けていただいて嬉しい気持ちでした」とライブを駆け抜けてきた感慨へと続いていった。初のワールドツアーに国立競技場でのワンマンライブなど、彼女はこの2024年も数々の挑戦を重ねてきた。そのなかでたくさんの意見や言葉に触れ、「自分がどう見られているか、どう思われているかに向き合って過ごすことができた」のだという。数々の金字塔を打ち立ててきたAdoだが、その挑戦はまだまだ終わらない。「今を人生の最高点にはしたくない。私はまだまだ私のことが嫌いです。昔よりはマシだと思っていますが、私はいつか、ちゃんと自分を愛せるようになって、たくさんの人のためになりたいと思っています。自分の存在が誰かのためになれたら、私は私を好きになれる」――。自分を愛するために、自分を知り、その自分を塗り替え、今まで見せていなかった“横顔”も見せていく。それがこの「モナ・リザの横顔」というツアーに込められた思いであり、この日Kアリーナで彼女が繰り広げたパフォーマンスの意味だ。

 「“できない”を“できる”にして未来に進んでいきます。みなさんが考える私とは違う一面が出てくるかもしれません。わがままなお願いですが、ちゃんと未来に進んでいるんだなと思ってもらえたら嬉しいです」。そう伝えると、Adoは深々と一礼。そうして歌われたのが「FREEDOM」だった。〈嫌われないように/ビクビク下ばかり見ていたって/何も変わんないさ/迷わずに突き進め STEP & STEP〉――Adoの姿勢を楽曲が支え、補強するようにして、ライブ本編は終わりを迎えた。

Ado(撮影=Viola Kam[V’z Twinkle])

 だが、Adoの「新たな一面」はこれでは終わらなかった。アンコール、スクリーンに青いストラトキャスターをかき鳴らすAdoの手元が映る。ボックスが取り払われたステージに立つ彼女のシルエット。文字通り今まで見たことのないAdoの姿に、驚きと感嘆の入り混じった歓声が上がる。そうして突入した「Hello Signals」から始まったパフォーマンス、続いて演奏されたのは結束バンド「あのバンド」のカバーだった。ステージに立ってギターを弾いて歌うというまさに“バンド”な姿に、これほどぴったりな楽曲もない。さらにAdoはアコースティックギターに持ち替えて「向日葵」を披露。シンガーソングライターのみゆはんが提供した楽曲だが、その美しいメロディはAdoがこうやって歌うことを待っていたかのようだ。当然、歌い方が変わればその印象も変わる。感情を溢れさせるようないつものAdoの歌もいいのだが、ギターに託しながら丁寧に音を紡いでいくようなその歌唱には新鮮な魅力がある。

 先ほど弾いていたストラトは彼女が13歳の頃に初めて買ってもらったギターだと明かし、「自分が背を向けてきたことにもう一度向き合う」という思いを語るAdo。さまざまなイメージがひとり歩きするなかで高まった「私はここにいてちゃんと自分の足で立っている。過去の自分も未来も愛したい」という思いを消化するべく、ライブの最後に「私の横顔とともに」歌われたのが、Adoが初めて世に発表した自作曲「初夏」だった。思いの丈を曝け出すような歌詞と、感情を込めた歌がKアリーナに広がる。誰も見たことのないAdo、しかし間違いなくAdoそのものがそこにはいた。これまでも自らの手で未来を開いてきた彼女だが、このツアー、そしてそこでこの曲を歌ったことは、Adoの物語の新たな転換点となるだろう。そんな確信とともに『モナ・リザの横顔』は終幕を迎えたのだった。

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