小田和奏が新作に込めたメッセージ 音楽を続けてきた理由、「成功と失敗で判別しない」あり方を語る

 小田和奏がアルバム『back in the forest』をリリースした。フルアルバムとしては7年ぶりとなるが、その間にも3枚のEPやインスト作品、ピアノ弾き語りによる一発録りの映像作品など、精力的に活動をしてきた。自身のソロ活動に加え、作家活動やプロデュースワーク、Coda名義(TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』の歌唱・作曲)における海外での公演なども含め、まさに世界中を周りながら多忙を極めている状況だ。

 そんな中で生まれた今作は、美しいピアノの音色で奏でられる穏やかなミディアムナンバーから、エモーショナルなバンドサウンドの楽曲、遊び心のあるジャジーなアップナンバーまでバラエティ豊かでありながら、その声も言葉も旋律も味わい深く人間味に満ちている。かつてギターボーカルを担当したスリーピースバンド、No Regret Lifeの解散から11年が過ぎ、ソロとして充実のキャリアを歩んでいる彼に、今作に込めた想いと「ミュージシャンに定年はないからね」と冗談めいて話す、音楽とのエネルギッシュな向き合い方について語ってもらった。(上野三樹)

手間・時間・労力……小田が伝えたい“面倒くさいようなこと”の温度感

――7年ぶりのフルアルバム『back in the forest』をリリースされたということでお話をお伺いできたらと思います。このアルバムを携えての地方キャンペーンで日本全国を飛び回っているということで、かなりお忙しそうですよね。

小田和奏(以下、小田):そうですね。自分が20年前にソニーミュージックからバンドでメジャーデビューしたときも、「月曜日から金曜日まで東京にいないからね」みたいにざっくりとしたスケジュールをもらって(笑)、地方キャンペーンって何? っていう感じのままラジオ局などを細かく回ったりしていたんです。もちろんアーティストによって色々なやり方があると思うし、今の時代にはそぐわないスタイルなのかもしれないけど、もう一度、地方の新聞社さんやタウン誌だったりを含めて行けるだけ行ってみようと思っているんです。

 そんな中で、お互いの立場を越えて音楽が好きっていうことで繋がる人たちがいて。メジャーとの契約が終わったとか、バンドが解散したとか、そういうの関係なく、新譜を出すたびに喜んでくれたりする人たちが色んなところにいる。それが僕にとってすごく刺激になるし、会いに行く理由なんですよね。今はラジオ局にCDを持っていかないって言うじゃない? データで送って「聴いてください」って。もちろんそれはそれでいいと思うけど、CDを1枚ずつ手渡して、ポスターやフライヤーも持って行くっていうのを、また一歩ずつやっていこうと思って。もっと簡単なやり方はいくらでもあるんだけど、でも実は自分が音楽を通して形にしたいものって、いわば“面倒くさいようなこと”の温度感だったりすると思うんですよね。もちろん手間も時間も労力も、なんなら経費だってかかってるんだけど、自分の中で色んなアイデアも効かせながら組み立てていくんです。たとえば広島に行ったらラジオに出る、取材してもらう、1日で終わらないなら翌日にライブをやる、じゃあその前にまたラジオも出ようか、みたいな感じで(笑)、そういうことが好きだからやってます。

小田和奏(撮影=林将平)

――ちなみに今の和奏くんのライブに来てくださる方やリスナー層って、どういうきっかけで知ってくださってる方が多いんでしょうか? バンド時代からなのか、ソロ活動からなのか、それともCodaでの活動を通じてなのか。

小田:それで言うと、僕のライブに来てくれている人たちって今、人種のるつぼですよ(笑)。バンド時代からの人、ソロになってからの人、Coda名義での活動から興味を持ってくれた人、自分がバンマスとしてアーティストに関わる中で知ってくれた人から、演歌や歌謡系のアーティストと関わる中でとか……色んな人たちが興味を持ってくれて、大事にしてもらってるなと思います。色んな入口があるので、どの層が一番多いかとか自分でもわからないですね。お母さんが子どもと一緒に来てくれたりとかね、そういうのも嬉しかったりします。

――どのタイミングの和奏くんを知っているかで、今作における印象もずいぶん違うのかなと思います。ピアノを弾きながら歌うの? って思う人もいるだろうし。でもご自身の音楽ルーツってもともと幅広いですよね。

小田:基本はバンドが相変わらず好きなので、バンドやアンサンブルで人と何かをやりたい、というのが大前提にあります。ハードコアなものも好きだし、真逆で言うとクラシックも好きだし。オアシスの復活も気になるし(笑)、ピアノで言うとビリー・ジョエルやエルトン・ジョンも好きなんだけど。でも、確かにNo Regret Life時代にはピアノを弾く姿ってほぼほぼ見せてないから、「え、そうなの?」って驚きはあるかもしれないですね。

――今回のアルバムは『back in the forest』というタイトルで、森の中で撮影されたジャケット写真も印象的ですが、どんなコンセプトで作っていった作品ですか?

小田:年齢を重ねるごとに、毎年春に桜を見ることが楽しみになってきた自分がいて。桜って一週間くらいしか咲いていなくて、それを逃したらまた1年後まで見れないような、そんな木々の姿に喜怒哀楽を抱えて生きている人の姿を重ねたりしていました。夏に葉をつけて、秋に色が変わり、冬に葉が落ちて、寒い冬を耐えて、春になって、この繰り返しを何千年もやってるんだよなみたいなことを思って。だから、今回は木々が生い茂る森をイメージして『back in the forest』、「森に帰る」というタイトルにしました。このアルバムのリード曲として「evergreen」という曲ができた時に、自分の中で腑に落ちた感覚があって。だからこのアルバムは流行り廃りではなく、自分が口ずさんだメロディと自分から出てきた言葉を紡いでいった作品です。曲調はバラバラなんだけど、それが自分っぽいなとも思っています。

――確かに1曲目「はじまりは月燈の下で」はこのアルバムのプロローグ的な雰囲気で静かに始まり、2曲目の「Get movin’」はバンド時代を彷彿とさせるエネルギッシュなナンバーという、まさに今の小田和奏の“静と動の振り幅”を感じさせる2曲ですもんね。

小田:そうですね。そういう物語のプロットを作るような構成はフルアルバムならではですね。面白いことに、作れば作るほど次はこんなことやってみたいっていうのが浮かんでくるんですよ。

――先ほど「evergreen」のお話がありましたが、この曲はピアノの音色が爽やかな1曲ですが〈僕は僕らしく 歩こう〉と穏やかに決意表明をされている内容です。どんな想いを込めて作りましたか。

小田:ある本を読んでいたときに「鏡の中の自分からは笑いかけてこない」というようなことが書かれていたんです。要は自分が笑わないと相手も笑ってこないよねって、実際に人間関係ってそうなんじゃないかなと思って。僕自身、照れを包み隠さず言うと、やっぱり人が笑ってる顔が好きなんですよ。だからこそ自分のご機嫌も自分で取って、笑いかけて、笑い返してくれたら、気持ち良い関係性でいられるんじゃないかって。そんなことを考えてたら、するすると歌詞が書けました。これは音楽をやってる人だけじゃないと思うけど、人ってやっぱりみんなリアクションが欲しいと思うんですよ。それは評価なのかもしれないし「良い曲だね」って言われることかもしれないし、雑な言い方だけど売れるってこともリアクションの塊だったりするから。でも、リアクションっていうのは常にアクションの後にしかこない。僕もそうですけど、このことってみんな忘れがちな気がしていて。どうしたら良い評価を得られるかじゃなくて、どうしたら自分が良いものを作れるかが重要なわけで。まずは自分がどうありたいのか、自分がどうしたいのかっていう根っこがやっぱりないといけないなと、そういう想いがきっかけで書いた曲です。

ーーそこで光が降り注ぐようなピアノの音が響く、風通しの良い曲ができたんですね。

小田:音楽的な話でいくと、今まで作ってきた作品では周りのスタッフが「これでいきたい」と言ってくれたリード曲って、バンド時代から変わらず熱唱系の感情一直線みたいな曲が多かったし、それが魅力だって言われてた。でもソロになって弾き語りを始めたときに、自分の歌ってる声のスイートスポットっていうんですかね、そこがバンド時代のガッと歌い上げるところだけじゃないよなと思ったりしたから。そういうことも色々と試しながら、今の自分の心意気がすごく乗った曲になりました。

――そして「ハヤテ」では〈手に入れたものと 手放したものと 同じように輝いてたんだ〉という、今の年齢だからこそ書けるメッセージ性が込められています。40代って、どうやって今を受け入れて、これからを楽しみに生きていくかが課題でもあると思いますが、どんな考えですか。

小田:年齢は気にしない、というのはちょっと嘘になるよね。やっぱり体のエラーが出やすくなったりして、気をつけなきゃいけないものは増えていったりする。それでもいつだってなりたい自分に向かっていくしかないじゃんと思っていて。ミュージシャンに定年はないっていうのは半分本気で、もっと言うと、何がきっかけで注目されるかとかーーまあ、バズるっていう言葉はあんまり僕は使いたくないんだけど、そういうことが起きるのって何歳になってもあると思うんですよ。そのぐらい人の数だけチャンネルがあるような時代だから。40過ぎたおっさん、おばさんの歌なんて誰も聴かないよなんて誰も思ってないと思うんだよね。

――そういう考え方なんですね。たとえば、若い人たちばかりの野球チームに混じってプレイすることに引け目を感じるっていう人もいると思うんですけど。

小田:それも一瞬考えるけど、でもやりたかったらやればいいんじゃないかな。そういう方が逆に目立って美味しいと思えるから(笑)。

――いいですね(笑)。そして今回のアルバムには「コーディの苦悩は今日も続くⅡ」というジャズの跳ねたリズム感が楽しいアップナンバーも収録されています。これは和奏くんにとってどんな1曲ですか。

小田:お遊びです(笑)。何かスウィングする曲がやりたくて。前回のアルバムに「コーディの苦悩は今日も続く」という曲があって、その続編を書いたら面白いんじゃないかなと。アルバムの中に1曲はこういう曲を入れようと決めてました。シリーズ化してるので、そのうち「コーディの苦悩は今日も続く」だけを収録したアルバムができたら面白いですね、10年後とかに。

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