「ヒビカセ」「ECHO」から10年 ボカロシーンのエレクトロサウンド隆盛の原点、2014年投稿曲を振り返る

 音声合成ソフトウェア・VOCALOIDを用いた音楽シーンが日本に誕生してから、20年ほどが経つ。2007年登場の初音ミクの爆発的なヒットから紆余曲折を経て、今や大衆にも認知の広がる一音楽ジャンルとして人気を集めるボカロシーン。他の音楽ジャンルと比較した際の最たる特異点としては、ロックやポップス、HIPHOPに歌謡曲といった様々な音楽カテゴリが、“VOCALOID”の中にすべて内包される点にある。

 そういった特性ゆえに、時代ごとに多彩な音楽ジャンルの入れ代わり立ち代わりを繰り返して、ボカロシーンは今に至る。過去にシーン最盛期と呼ばれた頃にはVOCALOIDによるロック「VOCAROCK」とも呼ばれるジャンルが一時代を築いていたが、2020年代突入以降はEDMをはじめとしたエレクトロミュージックが時代を率いている印象だ。

 シーンにおける電子サウンド曲は、その大元をたどれば黎明期より「ミクノポップ」と呼称されたテクノポップなどの人気が発端。しかし、時代の変遷の中で徐々にビート感を強調するダンスエレクトロが主流となってきたのが、ここ20年の大まかな変化だ。

 では、そんなトレンドの移行の兆しが表れたのはいつ頃だろうか。リスナーによって見解が分かれる面もあるだろうが、ひとつの座標点として見るべきはちょうど10年前。ギガP(現名義・Giga)「ヒビカセ」、Crusher-P「ECHO」の両曲が投稿された2014年は、いわば現在に繋がるボカロエレクトロ元年と呼んで差し支えない年でもあるだろう。

【初音ミク】 ヒビカセ 【オリジナル】

 今やシーンのエレクトロミュージック、特にEDMジャンルにおいては第一人者とも呼べる存在のボカロP・Giga。当時、作詞担当・れをるとのタッグもシーンでは一定の知名度を誇っていた中、リリースされた「ヒビカセ」。10年経った今なお色褪せることのない先進的なエレクトロサウンドに、VOCALOID・初音ミクの存在を詞の文脈として描いたナンバーである。

【オリジナル】ECHO【GUMI English】

 一方の「ECHO」もスタイリッシュな音像はもちろんのこと、当時まだ非常に稀少だった海外在住ボカロPの作品という異色さも、大きな話題を呼んだ要因のひとつだろう。楽曲は幅広いシーンで長く愛され続け、YouTube再生回数も現在1億回を突破。YouTubeにおいて再生回数1億回を突破しているボカロ曲は、現状Chinozo「グッバイ宣言」、椎名もた「少女A」、 そして今作のわずか3曲という点を鑑みても、いかにその支持が圧倒的なのかがよくわかる。

 だが、「ヒビカセ」と「ECHO」が登場した2014年を改めて振り返ると、今ほどエレクトロミュージック自体がシーンで興隆を迎えていたわけではない。同年の投稿作を振り返ってみても、Orangestar「アスノヨゾラ哨戒班」とn-buna「ウミユリ海底譚」の圧倒的存在感たるや、という印象が強い。

Orangestar - アスノヨゾラ哨戒班 (feat. IA) Official Video
【初音ミク】 ウミユリ海底譚 【オリジナル曲】

 以降も「夜明けと蛍」「メリュー」「アイラ」などのヒットを連発し、今やヨルシカのコンポーザーとしてn-bunaが大衆的認知を得るボカロPの一人であることは言わずもがな。また、Orangestarも今作に限らず多くの話題作を生み出すボカロPだが、こと「アスノヨゾラ哨戒班」は、二次創作界隈へ及ぼした影響も非常に大きい。翌年投稿された歌い手・ウォルピスカーターによる歌唱動画は、ニコニコ動画内で最も再生された「歌ってみた」動画として、発表からまもなく10年となる中でも今なおその地位を確立し続けている。

【初音ミク】恋愛裁判【オリジナルMV】

 この他にも同年には、上記作に類似するポップ性を打ち出した40mP「恋愛裁判」やTOKOTOKO(西沢さんP)「夜もすがら君想ふ」、従来のトレンドであるロックテイストを残したみきとP「バレリーコ」やkoyori(電ポルP)「スキスキ絶頂症」などが登場。ハチ(米津玄師)「ドーナツホール」やじん(自然の敵P)「ロスタイムメモリー」「夜咄ディセイブ」、Neru「ロストワンの号哭」「ハウトゥー世界征服」といった前年に投稿された人気曲と比較すると、サウンドの系統は明らかに多様性を孕み始めていたことがよくわかる。

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