『五等分の花嫁』5周年を祝して 割り切れない“好き”の気持ちを紡ぐ名曲、五つ子の恋の軌跡を振り返る

『五等分の花嫁』恋の軌跡と名曲を振り返る

 貧しい家庭で育った秀才の上杉風太郎は、家の借金を返済するために家庭教師のアルバイトをすることになる。しかし、その教え子はいずれも美少女ながら落第寸前の五つ子だった。衝突しながら勉強を教える中で、風太郎と五つ子の間には淡い恋心が芽生えていくーー。

 2019年にTVシリーズが放送開始されると、その魅力的なキャラクターたちが織りなすラブストーリーはもちろん、花澤香菜(中野一花役)、竹達彩奈(中野二乃役)、伊藤美来(中野三玖役)、佐倉綾音(中野四葉役)、水瀬いのり(中野五月役)といった豪華キャスト陣も話題を集め、一気に人気シリーズとなったアニメ『五等分の花嫁』。2022年、映画『五等分の花嫁』にて風太郎の“花嫁”が決するメインストーリーは完結したが、9月20日にはTVスペシャルアニメ『五等分の花嫁*』が劇場公開を控えるなど、アニメ化から5周年を迎えた現在もいまだその熱量は衰えることがない。

TVスペシャルアニメ「五等分の花嫁*」本予告動画

 また、アニメ『五等分の花嫁』の魅力としては、中野家の五つ子の歌唱を中心とした楽曲が挙げられる。その多くは五つ子が風太郎に対する思いを綴ったものになるのだが、ポイントとしては、“最悪の出会いから恋の結末を迎えるまでの5人の心情”が丁寧に描かれているところにある。アニメにおける音楽が作品のストーリーとリンクしながら鳴っていくという、キャラクターソングとしても理想的な在り方として作られているのが『五等分の花嫁』の楽曲たちなのだ。

TVアニメ「五等分の花嫁」5th Anniversary Best Album トレーラー

 そんな『五等分の花嫁』の楽曲を知るうえで打ってつけの音盤が、このたびリリースされる。歴代の主題歌を含む楽曲たちを余すことなくコンパイルした「TVアニメ『五等分の花嫁』5th Anniversary Best Album」、そして公開を控える『五等分の花嫁*』の主題歌を集めた「五等分の笑顔 EP」だ。風太郎と五つ子の“これまで”と“これから”を音楽で体験できるこのタイミングに、2作からセレクトした楽曲たちを紹介していきたい。

TVアニメ『五等分の花嫁』5th Anniversary Best Album

「五等分の気持ち」

 まずは記念すべき最初のTVシリーズOPテーマから。以降の楽曲にも継承される五つ子が風太郎に呼びかけるイントロから、ポップなサウンドとキュートなメロディというまさに教科書通りのキャラクターソングで、五つ子が自己紹介的に自身のキャラクターを説明しながら、風太郎へのファーストインプレッションを語るという構成だ。この段階では風太郎とはまだ距離感がある中で、すでに〈大嫌いから大好きへと〉変わりつつある心情を写している。しかしその気持ちもまだ五等分できているあたり、今振り返っても実に“最初の主題歌”らしい仕上がりだ。

「五等分のカタチ」

「五等分のカタチ」Music Video Full size (歌:中野家の五つ子)

 TVシリーズ2作目『五等分の花嫁∬』OPテーマ。前作同様にイントロでの風太郎への呼びかけもアタック感が和らいだというか、ここで一気に風太郎との距離も詰まったとわかるようになっている。そして以降の歌詞でも〈五等分じゃ イヤだから〉と前作から一転してそれぞれが恋を独占したい気持ちにあふれている。ピアノ主体のサウンドもエモーショナルなメロディラインも引き続き軽快ながら、五つ子の複雑な心の揺らぎを表現しているようだ。

「はつこい」

 『五等分の花嫁∬』より、EDテーマをピックアップ。「五等分のカタチ」で見られた心情の変化、また、その揺らぎというものがこちらではより克明に描かれており、ピアノ主体のゆったりとしたサウンドの中で、風太郎への淡い想いを綴っている。ここでも一花の〈なんで君なんだろ…〉という歌い出しからしてそうだが、好きという気持ちを持ちながらも、まだそこに〈綺麗じゃない気持ち〉を重ねている。“好き”への戸惑いーー仲良しの五つ子だからこそ持つ切なさが見事表現された一曲だ。

「五等分の軌跡」

「五等分の軌跡」Μusic Video(歌:中野家の五つ子)

 映画『五等分の花嫁』OP主題歌である本楽曲は、これまでのOPテーマと同じく風太郎に語りかける五つ子の言葉が、ついに“好き”という直球の感情となる。物語に決着をつける劇場版に辿り着き、五つ子の言葉にも〈割り切れない〉という複雑な想いを抱えながらも、それを認めたうえでストレートに風太郎へ気持ちが向けられている。そうした迷いが晴れたあとに、今まで以上にゴージャスなサウンドの中で〈君が 大好きなんだ〉と叫ぶ五つ子の成長をしっかりと感じ取ることのできる、実に感動的な仕上がりになっている。

「五等分の花嫁~ありがとうの花~」

「五等分の花嫁~ありがとうの花~」Μusic Video(歌:中野家の五つ子)

 映画『五等分の花嫁』を締め括る主題歌。風太郎と五つ子の複雑な恋に決着が見え、そのあと彼女たちに残った感情は「ありがとう」の気持ちだった。ピアノとストリングス主体の美しいサウンドの中、三拍子のメロディに乗せて五つ子たちがこれまでを振り返る、まさにエンドロールのような一曲で、晴れ晴れとした彼女たちの表情が浮かぶような歌唱が素晴らしい。最後にはまだどこか寂しさを残すような言葉が見られるが、一方でまるで物語が完結した我々の寂しさも表現しているようで、だからこそ五つ子たちの日常が続いていくことを示唆した〈これからも…〉という言葉で締め括られるのはグッとくるものがある。

「五等分の未来」

「五等分の未来」Music Video(歌:中野家の五つ子)

 2023年に放送されたTVスペシャルアニメ『五等分の花嫁∽』OPテーマ。劇場版で完結した『五等分の花嫁』が帰ってきた。そんな喜びを表すように、冒頭は五つ子の〈会いたかった〉という言葉から始まる。そして、サウンドもどこか第一作「五等分の気持ち」を彷彿させるようなポップな仕上がりであるのも印象的だ。しかし歌詞においてはやはり劇場版を通過したかのような風太郎への想いがストレートに表れており、改めて成長した今の五つ子たちを感じさせるものになっている。

「たからもの」

「たからもの」Music Video(歌:中野家の五つ子)

 TVスペシャルアニメ『五等分の花嫁∽』EDテーマ「たからもの」もまた、“初恋”を通過した、今の五つ子たちの心情がピュアに描かれている。三拍子のリズムの中で流麗さもありながら、どこか力強いリズムを感じさせるのも、地に足のついた彼女たちの成長を感じさせるものだが、一方でこれまでは風太郎への想いを中心に描かれていた歌詞も、終盤には〈お母さん〉というフレーズが登場する。恋が終わったあとの日常を歩む中で、自身のルーツをしっかり振り返るという、5人の頼もしい姿を見ることができる一曲だ。

「君だったから」

「君だったから」Music Video(歌:中野家の五つ子)

 『五等分の花嫁』アニメ5周年記念ソング。これまでアニメのストーリーに即した世界観の楽曲が中心だった五つ子のキャラソンだが、ここでは5周年というアニバーサリーをテーマに、祝福感のあるサウンドが紡がれる。どこか落ち着いたようにも聴こえる五つ子のボーカルも素晴らしく、そこで語られる“君”という存在も風太郎だけに向けられたものではなく、横を歩く姉妹たち、そして、ここまで『五等分の花嫁』を愛してきた人たちすべてに捧ぐような感謝の想いで溢れている。

「わたしのヒーロー」上杉らいは(CV:高森奈津美)

 風太郎のかわいい妹、らいは(CV:高森奈津美)のキャラクターソング「わたしのヒーロー」は実に彼女らしいポップでハツラツとしたサウンドで、お兄ちゃん=風太郎への想いが綴られている。らいはしか知らない陰の努力も見つめながら、五つ子と違った直球さで感謝を伝えるさまは、明るい曲調に対して目頭が熱くなるものがある。『五等分の花嫁』の音楽において最後のピースが埋まった、そう思わせるらいはの“ありがとう”なのだ。

「色褪せない気持ち」上杉風太郎(CV:松岡禎丞)

「色褪せない気持ち」Music Video(歌:上杉風太郎)

 これまで五つ子から気持ちを向けられてきた風太郎(CV:松岡禎丞)が歌う、五つ子へのアンサーソングともいえるキャラクターソング。アシッドジャズテイストの大人びたサウンドは風太郎の落ち着いた歌唱にピッタリ。また過去の中野家の五つ子の楽曲のオマージュともいえる、“一から五までを含んだ歌詞”には、五つ子一人ひとりに風太郎がアンサーを返すようでもあり、彼の偽りない、こちらもピュアな想いが込められている。

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