トゲナシトゲアリ、『ガルクラ』とリアルが交差した特別なステージ “聖地”川崎CLUB CITTA’に残した成長の爪痕

トゲナシトゲアリ、聖地に刻んだ成長

 テレビアニメ『ガールズバンドクライ』の劇中ガールズバンド、トゲナシトゲアリの『2ndワンマンライブ“凛音の理”』が9月13日、川崎・CLUB CITTA’にて開催された。3月に初ワンマンライブ『1st ONE-MAN LIVE“薄明の序奏”』(※1)を横浜・1000 CLUBで成功させた彼女たちにとっては、今回は実に半年ぶりの単独公演。しかし、前回と今回とでは状況がまったく異なる。この4月からはついに『ガールズバンドクライ』のアニメ放送が開始され、回を重ねるごとにアニメおよびトゲナシトゲアリへの注目度は高まり続け、この期間にリリースされたシングルやアルバムは好セールスを記録。今回の2ndワンマンライブも早々に完売となり、同公演は国内外へのインターネット配信なども実施されたのだ。

 しかし、この状況の変化はプラスなだけにとどまらず、トゲナシトゲアリにとってピンチとなるような出来事も生じている。メンバーの凪都(Key/海老塚智役)と美怜(Dr/安和すばる役)がそれぞれ活動休止となり、今日まで理名(Vo/井芹仁菜役)、夕莉(Gt/河原木桃香役)、朱李(Ba/ルパ役)の3人で表立った活動を続け、8月末の『Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-』から再開したライブではサポートメンバーを迎えてステージに臨んでいる。特に、今回のCLUB CITTA'公演はアニメ放送終了後初の単独ライブであること、そして同会場はアニメ最終回でトゲナシトゲアリがワンマンライブを行った 、ファンにとっては“聖地”であること。こうしたさまざまな要因が重なり、今回の2ndワンマンライブに対する(ポジティブなもの、ネガティブなもの含めた)注目度は我々が想像する以上に大きなものがあった。

 しかし、どうだろう……この日我々が会場で目撃したトゲナシトゲアリのステージは、事前の不安をすべて払拭し、同時に期待を遥かに超える特別な時間/空間だったのではないだろうか。初ステージとなった1年前の公開練習ライブ(※2)から彼女たちの動向を見守ってきた筆者にとっては、「ついにここまで到達したか」と胸が熱くなるライブだった。

 定刻どおりに会場が暗転すると、ステージを覆う白幕にアニメ第1話の冒頭パートが映される。先の初ワンマンライブでも同様のシーンが先行上映されたこともあり、前回のライブからのつながりを感じずにはいられない。しかし、この冒頭シーンがライブのオープニングに上映されたのには別の意味があることに、このあと気づくことになる。

 東京駅に到着した新幹線の中で、大好きなダイヤモンドダストの曲を聴きながら眠りにふける仁菜。清掃員に起こされた彼女は目的地を目指し電車に乗り、スマホの充電残量が少ないことに気づき「えーっ!」と叫ぶ。その瞬間に幕が降り、それと同時にアニメのオープニング主題歌「雑踏、僕らの街」が始まる……そう、ライブはテレビアニメ第1話とまったく同じ流れで曲がスタートしたのだ。この演出に思わずニヤリとしてしまったのは、きっと筆者だけではなかったはずだ。ステージ手前には長方形のLEDパネルが設置され、理名、夕莉、朱李はアニメのオープニング映像が流れるパネルの後ろで歌い演奏。アニメとリアルが交差する状況下で彼女たちの姿こそはっきりと見えないものの、そのタイトなサウンドと鋭い歌声だけでしっかりと存在感が伝わる。そんな彼女たちに対するフロアからの声援やコール、歌声は半年前とは比にならないほど強烈で、その熱気からは早くもクライマックスと思えるほどの高ぶりをしっかり感じ取れた。

 1曲終えると、LEDパネルの前に夕莉がひとり姿を現す。劇中同様、青いジャズマスター タイプのギターを抱えた彼女は、ギターをかき鳴らしながら「空の箱」の一節を弾き語りし始める。そして、ステージ後方の大型スクリーンにアニメ第1話のクライマックスが上映され、仁菜の「一緒に中指立ててください!」を合図に「空の箱」のバンド演奏が本格的にスタート。LEDパネルの前には夕莉に加えて仁菜を思わせる髪型をした理名が並び、劇中さながらの熱いパフォーマンスを展開していく。アニメの名場面が目の前で再現されるこの演出に興奮しない者などいないだろう。フロアの熱量はさらに加速を続け、バンドが生み出すグルーヴとともに唯一無二の空気を作り上げていった。

 「空の箱」を歌い終えると理名は「(活動休止中のため)メンバーの美怜と凪都が出られなくなってしまったのは残念なんですが、今日は私たち3人が2人の分まで頑張りますので応援よろしくお願いします」と挨拶し、この日は「(アニメの)ストーリーを振り返りながら、最終回の聖地となったここCLUB CITTA'でライブを進行する」と告げる。ステージ後方のスクリーンにアニメ第3話の“新川崎(仮)”初ステージへ向かう場面が映し出され、「声なき魚」へ突入。観客は物語を見守りながら、自身も登場人物のひとりになったかのような没入感を得られるという、アニメを通過したからこその演出を思う存分に楽しみながら、目の前でリアルに歌いギターを奏でるトゲナシトゲアリの姿に熱をぶつけていく。

 アニメ同様、理名が「なんか……すごい……ロックだ!」と口にしたところで曲が終わると、今度はアニメ第5話で新川崎(仮)が初めてライブハウスの舞台に立つシーンが映され、「視界の隅 朽ちる音」へと流れ込む。劇中で仁菜、桃香、すばるが着るTシャツに書かれていた「不登校」「脱退」「嘘つき」の文字がLEDパネルに表示される中、理名はボーカリストとして数段も成長を遂げた安定感の強い歌声を轟かせる。一方の夕莉も鋭いサウンドを奏でながら、ギタリストとしての説得力が増した佇まいでギターをかき鳴らし続ける。1年前の初々しかったパフォーマンスを思うと、場数こそ決して多くなかったものの、この短期間での成長ぶりには本当に驚かされるものがある。

 スクリーンには第7話、長野のライブハウスでバンド名がトゲナシトゲアリに決定し、真の意味でバンドが動き出そうとする始まりの瞬間が映し出される。ここで、それまでLEDパネルの後ろで演奏していた朱李もその姿を見せ、劇中のルパ同様に黒いSGタイプのベースをゴリゴリに鳴らしながら、劇中の彼女たちにとっても、そしてリアルバンドとしての彼女たちにとっても“はじまりの歌”である「名もなき何もかも」が高らかに鳴らされる。アニメの物語とリンクする形でステージが進行していくこの演出は、アニメ放送直後だからこそ大きな効力がある。こうした演出はほかのアニメ作品に関連したステージでも目にしたことはあるが、筆者のようにかつてバンドを経験したことがある者なら『ガールズバンドクライ』で覚えたシンパシーを追体験できるこの演出はより強く響いたのではないだろうか。

 ステージ上のLEDパネルが外されたステージで、理名や夕莉、朱李が和やかなトークを繰り広げ、「トゲナシトゲアリにはアニメの劇中歌のほかにも、いい曲がたくさんあります」と「理想的パラドクスとは」を筆頭とした1stアルバム『棘アリ』からの楽曲を連発。ドラムやピアノが熟練のサポートプレイヤーたちによることも大きいが、それでも理名、夕莉、朱李から発せられる歌や音、そしてステージで放つオーラは半年前とは見違えるものがあり、日々ミュージシャンとして成長しているのに加えて、『ガールズバンドクライ』の成功で得た自信が彼女たちをより前向きにさせたのではないかと想像する。そんな今の彼女たちだからこそ、この日は“新たな挑戦”としてライブ初披露の新曲もいくつか用意。先日リリースされたばかりの2ndアルバム『棘ナシ』にも収められたムーディーなミディアムナンバー「蝶に結いた赤い糸」や、アニメのBlu-ray/DVD Vol.2豪華限定版の封入CDに収録された前のめりなアップチューン「無知のち私」と、タイプの異なる2曲が立て続けに披露された。どちらも難易度の高い楽曲だけに、2曲を歌い終えた理名が思わず「あー難しい!(笑)」とこぼして笑いを誘う一幕もあった。

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