秋元康が11人の少女たちに託したメッセージと未来 WHITE SCORPION『Caution』全曲解説
秋元康が手がける新規アイドルグループ創造プロジェクト『IDOL3.0 PROJECT オーディション』の最終合格者11名で結成されたWHITE SCORPION。12月7日にデジタルシングル『眼差しSniper』でデビューを果たしてから9カ月。初のフィジカル作品となるミニアルバム『Caution』をリリースした。今回リアルサウンドでは、『Caution』を荻原梓氏、田辺ユウキ氏、西廣智一氏(五十音順)によるクロスレビューでその収録全曲を解説。それぞれの視点から楽曲を紐解くライナーノーツをお届けする。
『Caution』とは直訳すると「警告」を意味する言葉だ。WHITE SCORPIONを見逃すな、11人の少女たちが起こすことから目を離すな――そんな意志がどのようにして息づいているのか。今の彼女たちの声、そしてその姿をひとつずつ解き明かしていく。(編集部)
①動く唇
初のフィジカル作品(CD)のオープニングを飾るのは、ソカのリズムを取り入れた新規軸ナンバー。ACEの艶やかなアカペラからスタートする冒頭パートのインパクトは絶大で、緩やかながらもエッジの効いたビートにメンバー11人のボーカルが重なることで独特のグルーヴ感を打ち出していく。オーディション合格から間もなく1年が経とうとする彼女たちの歌声は非常に自信に満ち溢れており、そこが楽曲の主人公である恋に強気な女性のイメージとも重なる。また、歌詞のなかには〈逃げる眼差し〉というフレーズも登場し、デビュー曲「眼差しSniper」とのリンクも感じさせる。許されない禁断の恋に落ちていく「眼差しSniper」の主人公が、1年経って〈弱気な恋じゃうまくいかない〉と言えるまでにたくましく成長した……まさに今のWHITE SCORPIONを象徴する一曲だと言える。(西廣智一)
②Satisfaction graffiti
デジタルシングルとしては5作目となったこの曲は、地下鉄に描かれたグラフィティアートをテーマとしたダンスナンバー。〈怒りぶつけるように/手当たり次第 プッシュ続けた〉〈真っ赤なスプレーで/塗り潰してしまおうぜ〉と、感情のままに行動する若者たちの姿が描かれる。80年代のユーロビート〜ハイエナジーを彷彿とさせるギラついたサウンドが特徴的だが、大人と子どもの狭間で揺れる若者たちの行き場のない感情をスプレーアートに見立てた歌詞には、そうしたものとは一線を画す攻撃性がある。全編にわたって展開される脳裏に焼きつくような極彩色の電子音のイメージとは打って変わって、新宮良平監督が手掛けたMVは、白と黒を基調としたモノトーンの映像が印象的。世界的ダンサーのTAKAHIROが監修を務めた振り付けも目を見張るものがある。反復するビートの上でクールに歌い上げる彼女たちのその姿は、多くの人々の心を惹きつけるだろう。(荻原梓)
③コヨーテが鳴いている
今年1月にリリースされたこの曲は、哀愁を帯びたメロディがどことなく懐かしい歌謡ポップス路線。軽快なリズム、洒落たピアノのバッキング、分厚いブラスセクションなど、バンドアンサンブルは緻密かつ豪華で、随所にラテンやジャズのエッセンスが取り入れられた豊かな音楽的背景を感じさせる“令和アイドル歌謡”と呼ぶべき一曲だ。
しかし、華やかなサウンドに反して、歌詞の世界観は仄暗い。〈僕の周りは漆黒の闇〉〈街灯りから離れ/暗闇を探してた〉など全体にわたって雰囲気は絶望的で、人混みを避けるこの曲の主人公には孤独感が漂っている。理由も告げないまま別れた〈君〉を探して彷徨う〈僕〉は、〈全てに終わりはある〉と理解しつつも、どこかでその現実を受け入れられない。その惨めな姿は、まるで突然卒業した推しのことを忘れられないでいる熱狂的なアイドルファンのようだ。そんな〈僕〉を現役で活動する彼女たちが演じているあたりに、このグループの異色さが際立っている。(荻原梓)
④眼差しSniper
WHITE SCORPIONのデビュー曲にして、すべての始まりを告げる一曲。『IDOL3.0 PROJECT オーディション』の募集段階で合格者がこの曲でデビューすることが告げられており、同タイミングからワンコーラス分の仮歌が公開されていたので、現メンバーはオーディションに携わった者、そしてまだ何者とも知れない彼女たちを応援し続けたファンにとっても忘れられない楽曲と言える。
現在のメンバー11人が揃ってフルコーラスが完成したわけだが、情熱的なダンストラックに乗せて描かれる“許されない禁断の恋”の世界を当時14歳の最年少のセンター・HANNAが純粋無垢なまま表現することで、聴き手の胸によりストレートに響く。デビュー曲としては十分すぎるほどのインパクトを残した、WHITE SCORPIONの代表曲のひとつだと断言したい。(西廣智一)