優河「踊ることにエクスキューズはいらない」 自己愛の大切さとユーモアを込めたダンサブルな新境地

優河、ダンサブルな新境地を語る

「無駄だなと思う時間にこそ自分を見つめられるチャンスがある」

――それでいうと、唯一ベクトルが他人に向いている曲が「泡になっても」なのかなと思いました。

優河:私もそう思ってたんですけど、でき上がってからしばらくして歌詞をチェックしてたら、そうじゃないかもって思い直したんですよね。最初は〈あなた〉という大切な子がいて、その子を失いたくないから「どんな状況でもいいから生きつないでくれ」って、〈あなた〉のために書いていると思っていたんです。でもある時、「その子がいなくなる世界線が怖すぎて、私自身をなだめるために書いたんだな」ってふと思って。そこは表裏一体というか。結果論かもしれないけど、誰かのためと思っても自分のためにしていることはあるかもしれないなって思いました。

優河 - 泡になっても (Official Visualizer)

――やはり自分というテーマに戻ってくる作品なのかもしれないですね。「泡になっても」もそうだし、1曲前の「Sunset」を聴いていても思ったんですけど、太陽や海は変わらずそこにあるものだから、焦ることなく今の素直な気持ちを大切にできればいいという想いが込められている気がして。月や空も含めて、雄大なものに感情を委ねながら歌うのはどうしてだと思いますか。

優河:それが事実であり、疑いようのないものだから。夕陽が悲しく見えてしょうがない時って、見ているこっち側の問題であって、夕陽自体は昔から何も変わっていないじゃないですか。小さな人間がワーッと言って何かを決めつけているだけで、向こうは変わらずそこにあり続けている。いいも悪いも私たちの尺度で感じているものだからこそ、その尺度の幅を広げましょうっていう感じかもしれないです。

優河 - Sunset (Official Visualizer)

――前作『言葉のない夜に』のラスト曲「28」で、〈夜明け前の静けさは/あなただけのもの/揺れていても/離れても/世界はそこにある〉と歌っていたじゃないですか。“夜明け前”という絶え間なく訪れる事象をどう見るかはあなた次第なんだって思うと、「28」は今作へのイントロデュースみたいな曲だったんだなって。

優河:ああ、本当にそうですね!

――前作は霧がかった夜について歌っていたけど、ちょっとした掛け違いでそれが楽しい夜になり得るってことを提示しているのが今作なのかなと。

優河:嬉しい、伝わった(笑)。今回のアルバムって確かに一聴すると変わったように思うかもしれないんですけど、私自身はあまり違和感がなかったから、やっぱり自分の根底はそんなに変わっていないんだろうなと改めて思いました。岡田くん(岡田拓郎)やバンドのみんなと共に、時間や人生を共有しながら作っているということも特に大きいのかなって。

――表題曲を中心に、斬新なトラックについては岡田さんたちとどのような会話をしていったんでしょうか。

優河:もともと「Tokyo Breathing」には「Disco」という仮タイトルがついていたんですけど、ほとんどの曲が出揃った段階で、岡田くんが「もう1つアッパーな曲があったら締まるかもね」と言っていて。確かにそうだなと思っていたところで送ってくれた曲に「Disco Deluxe」という仮タイトルがついていたんです(笑)。のちに「Love Deluxe」になったんですけど、聴いたらすごいトラックで。私にはディスコの知識がないからどうしようと思いつつ、去年のフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL '23』)に出演する前日に、岡田くんが「ディスコ作りたいんだよね」と言ってたのは覚えていたので、勢いに乗ってみようと。

――サウンドの方向性で参照にした楽曲はあったんでしょうか。

優河:岡田くんが膨大な曲が入ったプレイリストを作ってくれたんです。ドージャ・キャット、リゾ、テイラー・スウィフトとか、主にアメリカの女性アーティストの曲が入っためちゃくちゃいいプレイリストだったんですけど、そのあたりの雰囲気がやれたら面白いよねというのは共有していました。「ディスコ曲、私に歌えるかな」と思ったんですけど、「歌うまいし、歌ってみなよ」って言われて、「あ、歌うまいと思ってくれてるんだ」って(笑)。けど、私がノリノリでアッパーな感じで歌うのは違うなと最初から思っていたので、ちゃんと私の温度感で歌おうと。無理をしない。

優河 - Tokyo Breathing (Official Visualizer)

――ディスコ繋がりな「Tokyo Breathing」と「Love Deluxe」にはceroの荒内佑さんがシンセサイザーで参加されていますね。過去には「June」にも参加していましたけど、荒内さんと作っていくのはいかがでしたか。

優河:欲しいところに、かっこいいんだけどどこか笑える、ユーモアがある音をちゃんと入れてくれるんです。結構きわどいところをかっこよく聴かせてくれる、そのセンスが素晴らしいなって思います。

――ユーモアって今作のキーワードかもしれないですよね。

優河:私、普段から結構ユーモアありますよね?(笑)。普段の自分をもう少し出すなら、ユーモアが出るのも自然かもと思って。そこはあまり構えるところではなかった気がします。

――例えば「Don’t Remember Me」は気まずいデートの瞬間を描いた曲ですけど、ストレートな恋愛ソングではなく、アフロビートに乗せて何気ない瞬間を歌うからすごくユーモラスなものになっていると思うんです。そうやってユーモアがあるからこそ伝わるものってあると思うんですけど、優河さんはどう思いますか。

優河:何だろう……気まずいデートって何も生まない気がするけれど、誰かにそれを伝えたり話したりすることによって、また別のものに生まれ変わる気がしていて。話の種になることで「私はこういうことに違和感を抱くんだ」という認識がちゃんと持てる。それは発見としてすごく面白いなと思っていて。葬られてよさそうなものをあえて話すことによって、無駄にならないというか……そもそも私たちって本来そういう無駄なものでできているような気がするんです。

――というのは?

優河:別に意味のあるものだけが人生ではないじゃないですか。毎日有意義な1日を送れているかと言ったらそうじゃないし。意味のないところで私たちは生きていて、その中で「何かを見つけられたらラッキー」くらいな感じだから。もちろんそれを見つけにいくんですけどね(笑)。有意義なことだらけの人生って逆に面白いと感じられなくなる気がするし、無駄だなと思う時間にこそ自分を見つめられるチャンスがたくさんあると思うんです。それを面白いと思えるか思えないかも捉え方次第じゃないかなって。

優河 - Don't Remember Me (Official Visualizer - SG ver.)

 「このユーモアが伝わったらいいね」と思いながら作ったアルバムなんですけど、これをユーモアだと思わない人はたくさんいるし、人それぞれの尺度があるから当たり前のことで、それがまた面白い。ユーモア自体、本当に実体のないものだなと思いますね。ギャグとも違うし、「こうだから面白い」っていう理由を見つけられないけど笑っちゃうのが、ユーモアなのかなって。冷静さの中にもユーモアを入れられるんだなっていうのは今回特に思ったことですし、それができたのも魔法バンドのメンバーがいたからなんですよね。

――いい気づきですね。

優河:なんか、いろんな人たちの人生の話を聞いていると、本当に興味深いんですよね。そうやって「誰かの面白い話聞いた」みたいな感じで、アルバムも聴いてもらえたら嬉しいです。

優河『Love Deluxe』ジャケット
『Love Deluxe』

◾️アルバム情報
優河 4thアルバム『Love Deluxe』
2024年9月4日(水)発売
PCCA-06315/¥3,300(税込)
配信・購入:https://yuga.lnk.to/LoveDeluxe
<収録曲>
01. 遠い朝 - 2024 mix
02. Don’t Remember Me
03. Petillant
04. Love Deluxe
05. Lost In Your Love
06. Mother
07. 香り
08. Tokyo Breathing
09. Sunset
10. 泡になっても

※『Love Deluxe』LP盤は10月30日(水)発売
PCJA-0156/¥4,400(税込)
購入:https://yuga.lnk.to/LoveDeluxe_LP

◾️インストアイベント情報
優河『Love Deluxe』発売記念ミニライブ&特典会
・2024年9月15日(日)18:00~
タワーレコード新宿店店内イベントスペース
優先観覧エリア入場集合時間:17:30
ミニライブ開始時間:18:00
参加方法など詳細:https://tower.jp/store/event/2024/9/055014y

・2024年9月16日(月・祝)12:00~
タワーレコード梅田NU茶屋町店店内イベントスペース
優先観覧エリア入場集合時間:11:30
ミニライブ開始時間:12:00
参加方法など詳細:https://tower.jp/store/event/2024/9/096016

◾️ツアー情報
『Love Deluxe Tour 2024』
2024年9月17日(火)大阪Music Club JANUS
OPEN 18:00 / START 19:00
2024年9月18日(水)名古屋Tokuzo
OPEN 18:00 / START 19:00
2024年9月20日(金)東京WWW X
OPEN 18:00 / START 19:00

<チケット代>
一般:¥5,800(税込)
学割:¥3,500 (税込)
※ドリンク代別
<チケット一般発売中>
チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/yuga-bandset/
ローソンチケット:https://l-tike.com/yuga/
イープラス:https://eplus.jp/yuga-bandset/

優河 オフィシャルサイト

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