9mm Parabellum Bullet「続けることがいちばん難しかった」 4人で歩んできた20年の日々と今を語る

歌詞に貫かれる“レッドゾーン”の感情

菅原卓郎(Vo/Gt)

――歌詞の筆致についても聞きたいんですが、これもまた相当貫いていますよね。

菅原:そうですね(笑)。

――やっぱりここまでブレることなく貫いてきていることがすごいと思います。これまで、時代が移り変わる中で、パンデミックがあったり、紛争があったりして。世の中がどんどん厳しくなっている状況だからこそ、より過去の曲も含めたこの20曲がリアルに迫ってくる感覚がある。それはコアなリスナーも感じていると思うんですが、自身の感触としてはいかがですか。

菅原:9mmはライブのステージングも曲も激しい。だから、そこに合ってる歌詞を書こうと思ったら極限状態の人とかの話を書かないと合わないんですよね。極限状態に置かれてる人じゃなくてもいいんだけど、感情的にはレッドゾーンです、みたいなものを書く必要がある。

――当初から。

菅原:そう、最初から。でも、はじめはなかなかうまくできなかったんだけど、いろんな曲の歌詞を何年も書いているうちに「この曲は怒ってる曲だ」とか「この曲はただただ悲しい曲だ」とか、滝が書いた曲に滝が思ってもいないかもしれない感情まで感じ取ってから書き始めるようになったんですよね。だから、歌詞を書く時に滝にも聞きます、「これってどんな感じ?」って。具体的なことを聞きたいわけじゃないんですけど。

滝:イメージとかね。

菅原:そうそう。「なんか怒ってる感じがするけど……」とか「元気な感じがするけど……」っていうイメージの話をして、「そう! 元気な曲!」とかやりとりして(笑)。「あ、じゃあそれで合ってるね」ってなったら、その感情に合う舞台設定みたいなものを作って、そこに言葉を入れていくという感じになっていきました。あとは、曲を聴いてなんとなく見える景色みたいなものがあるから、それを入れられたら盛り込んで……っていう感じ。でも、時代が変わっても時間が流れても、復活してメッセージとして入ってくるっていうのは、曲が持ってる感情をちゃんととらえて書けている曲だからだと思います。そうすることで、いつ聴いても「この曲を聴いたらこの気持ち」になれる。「名もなきヒーロー」とか「ロング・グッドバイ」とか、「Brand New Day」もそうだと思うけど、「この曲を聴いたらこの気持ち」というものをうまくキャッチできているとタイムレスな表現になるのかな、と思いますね。キャッチできていない時は、滝が「これは合ってない気がする」っていうのをすぐ察知してくれるし。

滝:歌詞を確認している時も「言葉が強すぎじゃない?」「出てきすぎじゃない?」とか「Aメロなのにテンション高すぎ!」とか言ってるもんね。

菅原:それで「ああ、なるほどな、たしかに」って。そういうふうに書いてきたので、ジャッジ(の基準)が近いんだと思うんですよ。滝が作ってくる曲の作り方で自分の歌詞の書き方をアップデートしていったところもあるので、方法論がすごく似ているのかもしれない。

――「名もなきヒーロー」は、パンデミックを予見していたという深読みもできてしまうようなリリックだと思います。

菅原:コロナ禍で弾き語りをしながら、「この曲書いておいてよかったなあ〜」って思っていました。何かのために書くっていうよりも曲のためにクオリティを上げていく、というイメージで書いていて。その結果、曲がよくなればずっと聴いてもらえるだろうって思うし、自分が聴いても「これはよくできています!」ってずっと思えることが大事かな、と思います。

――今回のベストアルバムはファン投票の上位20曲を収録していますが、曲順についてはどういう決め方をしたんですか?

滝:1位から順位通りに。

――潔く。

菅原・滝:潔く!

――率直に、結果についてはどう思いましたか?

滝:ちょっと意外でした(笑)。

――その心は。

滝:「太陽が欲しいだけ」が第1位なのが――。

菅原:そう! それ意外だよ(笑)。

滝:シングルカットもしてないのに(笑)。

――それがファン投票ならではですよね。

菅原:そうそう。不思議だなって思ったね。「ああ、そうなんだ!」っていう。たしかに、ライブはめっちゃ盛り上がるんですけど(笑)。

滝:とびきり盛り上がる。

菅原:リリース当時、自分の中で感触的に「よくわかんねえな、この曲の歌詞」って思ってて(笑)。

滝:ちょっとチャレンジングだったからね。

菅原:でも、当時のマネージャーが同世代の男性で、彼に「これ、どう思う?」って聞いたら「いや、俺は好きっすよ!」って言われて。「そっか! じゃあいっか!」みたいな感じでした(笑)。

滝:この曲は明るすぎるから「俺はやりたくない」って言っていたんですけど、そのマネージャーが「この曲めっちゃいいっすよ! やってくださいよ!」って言ってくれて、半ば無理やり提出しました。でも、そのあと自分が休んじゃったりして。

菅原:ちょうどこの曲が入っている『Waltz on Life Line』っていう6枚目のアルバムの時に、滝はステージに立つのが難しかった時期だったから、当時の思い出がみんなにもあるのかなと思いました。「あの時によくライブでやってたなあ」とか「9mmを助けてくれたのはこの曲だ」とか、そう感じるところも少なからずあるのかな、と。ファンにも「あの時一緒に頑張ったよね!」みたいな思いがあるのかもしれない。

――それはグッとくる話ですね。

菅原:そうですね。僕たちはそのあとまた別の曲を作って、他の曲もライブでやって「よーし、よくなるぞ!」ってなっていたけど、ファンのみんながそういう時期を忘れずに、それで投票してくれたのならかなりアツいなって思いますね。

――ちなみに「これは入らなかったんだ」っていうのはありますか?

菅原:「カモメ」が入ってない。ストリングスバージョンくるかな?って思ってたけど。

――滝くんは?

滝:えー……こう揃っちゃうとちょっとわからないですね。

菅原:わかる(笑)。

――「Vampiregirl」とか?

菅原:ああ!

滝:たしかに。

――「新しい光」も入っていないですよね。

滝:「新しい光」ないですね、そういえば。

菅原:言われて気づく(笑)。

――それだけ強い曲を残してきた証左でもあるからね。

菅原:全部のアルバムから1曲は入ったんですけど、こう見ると面白いですね。「Punishment」と「Talking Machine」は結成した年に作ってるから20年もやってるんですよ(笑)。「Punishment」は、いまだにライブの最後にやるから、もはやライブが終わる合図になってる。

突っぱねないと何かの情報ですぐに揺れちゃうような気がしていた(滝)

滝 善充(Gt)

――こうして20曲選出された中で、個人的にでもバンドとしてでもどちらでもいいんですが、「ターニングポイントだったな」とか「この曲は結構思い出すことあるな」という曲を2曲ずつくらい、教えてもらってもいいですか。

菅原:そうですねえ……。歌詞的には「Black Market Blues」と「名もなきヒーロー」がターニングポイントだったなと思っています。『Gjallarhorn』、『Termination』、インディーズ時代のあたりは「どういうのが9mmに合っていて、自分にも合ってるんだろう?」というのがわからなくて。「自分が好きなのはこれなんだけど、うまく鳴らないなあ」って手探り状態で、曲を理解することも全然できていなかったんです。でも、いしわたり淳治さんとアルバムを2枚作ってから、「Black Market Blues」の時は自分たちでやろうということになり。「これでいい感じにならなかったらちょっとダメすぎるな、俺」って思っていた時に、ちゃんと蓄積してきたものがひとつの形としてできて「ああ、こうやって書けばいいんだ!」とわかったのが「Black Market Blues」でした。これで『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演したりして、テレビで観て知った人もすごく多いんです。こういう歌詞じゃなかったら、テレビで歌っても「なんのこっちゃ?」ってなっていたと思うんですよね。9mmっていうバンドのことが全然わからない、って。でも、「こういうロックンロール」ということが伝わる曲になったので、よかったです。

――アイデンティティみたいなね。

菅原:そうそう。歌詞を書くということのスタート地点が、自分の中では「Black Market Blues」から、みたいな感じかな。そのあとにうまくいかないことがあっても、「これ(「Black Market Blues」)を書いてるんだから、そこから書けばいいじゃん」って思えた。「名もなきヒーロー」はその進化系で、よりメッセージ性を持たせられるようになったっていう感覚。「Brand New Day」は、『ROCKIN' QUARTET』で9mmではないカルテットの演奏で歌ってたんですけど「なんかめちゃくちゃいい曲だな」って思いましたね。

――以前はリスナーに向けたメッセージ性というのにくすぐったさみたいな感覚が強くあったと思いますが、「名もなきヒーロー」も含め、ここ5年くらいでニュートラルにリスナーに向けた言葉を編めるようになった印象を受けます。

菅原:本当にそんな感じがしますね。リスナーの中に、ちゃんと自分も入れられるようになったからかな。そこにいる自分のことを納得できるようにすれば、タイムレスになるかしら?っていう。

滝:「Talking Machine」はバンドの一歩目でよかったなって思います。本当にこのメンバーで一歩目のライブからやっている曲なので。

――そうですよね。久しぶりに聴いて最初の頃のことを思い出しました。

滝:そう考えると、ターニングポイントというか、ターンは特にしてない。一歩目がこれでよかったなって思います。

菅原:ロケットが発射されただけだった。

滝:そこまでターンを決めたような曲はないな、っていうところですかね。

――得体の知れないエネルギーを感じますよね。

菅原:爆発してるよね。

滝:学生だからできたのかどうかはわからないけれど、いいと思います。やっぱり『Gjallarhorn』はパンクの名盤。作った時もそう思ってましたね。

――あの時、メディアも含めて急速に視線が集まってきたと思うんですけど、滝くん的にはどう感じていたんでしょうか?

滝:やっぱり、そういうところで調子に乗ったり一喜一憂しないようにって思ってましたね。

――それこそ、さっきの話に戻るように。

滝:そう。だから、インタビューでもちゃんと聞かれたら答えるけど、「いや、なんか普通ですよ」みたいな感じでちょっと突っぱねてる感じもあった気がします(笑)。

――惑わされないようにね。

滝:うん。若かったし、もちろん勉強もしてないから、突っぱねないと何かの情報ですぐに揺れちゃうような気がしていたんです。僕は突っぱねていてよかったなって、実は思っています。

――じゃあ滝くんもう1曲、個人的なことでも、どんな角度でもいいので何かありますか?

滝:「太陽が欲しいだけ」かな。「明るくてやりたくない」「明るすぎて気持ち悪い」って言ってた曲なのに、こんなにライブでとんでもないエネルギーが出る曲になるとはマジで思っていなかった。とはいえ、自分が思っていたよりもだいぶ明るい曲だったので、その反動で次はすごく暗いアルバム(『BABEL』)になりましたね、調整して(笑)。

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