乃紫が歌う“女の子の心理”と“愛されたい欲” 浜崎あゆみ、倖田來未、西野カナ……歴代歌姫との共通点
こうして振り返ると、2020年代に登場した乃紫の音楽性は倖田來未以降の“愛されたい”欲はありながらも、どちらかといえば浜崎あゆみが表現してきた物寂しさも感じさせる。彼女の曲に登場する女性たちは、“男に媚びないうわてな女”という態度を貫くあまり、倖田來未や西野カナのような素直さ(ある側面では「弱み」とも言えるかもしれない)がうまく伝えられずに甘え下手なところがある。そのせいか、彼女の曲を聴くと居場所を求めて彷徨う少女の姿が浮かぶし、〈居場所がなかった 見つからなかった〉という浜崎あゆみの叫びに近い孤独がある気がしてならない。ちなみに乃紫は、“脱ぎ捨てろ、学校指定のロックンロール”をコンセプトにした「A8番出口」について「10代の皆さんにはもちろん、大人世代にも是非聴いてほしい。歌詞の中の主人公は平成ギャルです」とコメントしている。
恋愛ソングを掘り下げていくとその時その時で時代性はたしかにあるが、一貫して言えることは、いずれも精神的に自立する手前にいる不安定な女性たちの心情がよく描かれているということだ。仲間と出会おうと、恋人がいようと、美しさを手に入れようと、夢が叶おうと、ひとつでも思い通りにならなければそれだけでなんだか満たされない思いになるし、すべてを手に入れたら今度は失うことが不安になる。そんな依存と自立の狭間で揺れ動く女性たちの物語が、歌姫たちの描く恋愛ソングの中にはある。乃紫もそうで、彼女は「広がり方を割と見越して、計算して作った曲だったので、予想通りの広がり方です」(※4)とクールにそう語るが、しかし曲からは現代の女の子が持つ光と影に真摯に向き合っているようにも感じるのだ。
成熟した大人になればなるほど、こうした小さな生活の中にある問題を見落としがちになる。だから歴代の歌姫たちが若者から絶大な支持を得てきた“本当の理由”をいつの時代もなかなか掴みきれなかったりするのだろうが、乃紫もまたそうした歌姫たちのように、大人たちをあたふたと困惑させながらも、次世代の若者たちに支持されるアーティストになっていくのではないかと思う。若者とは言えない年齢になってきた30歳の筆者もまた、できるだけ彼女の届けるメッセージを見落とさないようにしていたい。
※1:https://magazine.tunecore.co.jp/stories/362494/
※2:https://www.kadensha.net/book/b10032443.html(漫画家 リーヴ・ストロームクヴィストの著書『欲望の鏡: つくられた「魅力」と「理想」』のなかでキム・カーダシアンを例に挙げて「人は自分自身を撮影することで、キムのように、自分自身を評価し、自分が美しいと決めることができる」「自分がきれいだと思うこと、そうわかっているとふるまうこと、これは大きな文化変革なのである」と記している)
※3:https://news.yahoo.co.jp/articles/a6234efdc3b9d5ea6a554d04f2fb12bd31088170
※4:https://news.ntv.co.jp/category/culture/fec4d8c29b2d4d9ea8dd329945a07b7f
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