大原櫻子、等身大のまま表現を広げてきた10年間 デビューぶりの亀田誠治とのレコーディング秘話も
デビュー10周年を迎えた大原櫻子が、8月21日に『オールタイムシングルベスト 2014-2024 「Anniversary」』をリリースした。10年分のシングル表題曲に加え、特に思い入れの強いアルバム曲や新録曲2曲も収録され、歌手としての大原櫻子の歩みが詰まった2枚組作品となっている。何より、歌手デビューのきっかけとなった大原の主演映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(2013年)やそのスピンオフシングルで楽曲面のプロデュースを担当し、大原のデビューシングル『サンキュー。』も手がけた亀田誠治が、今作で「Anniversary」という新曲を書き下ろしているのは1つの節目として象徴的な出来事と言えるだろう。そんな久々となった亀田とのレコーディングや、各シングル曲を通した思い出エピソードに至るまで、大原に語ってもらった。(編集部)
10年間で高まっていったライブでの自由度
――2014年のデビューから10周年となりますが、今どのような心境ですか。やっと10年? それとももう10年?
大原櫻子(以下、大原):やっと10年、もう10年、まだ10年ですね。10年間は、自分の中ではあっという間でしたけど、今回のシングルベストのプロモーションで過去の映像などをいろいろチェックしていると「いろんなことやってきたな」と思うんですよね。だから「やっと10年」。でも、あっという間に感じるくらい充実していたから「もう10年」でもあって。この間、レーベルが同じでとてもかわいがってもらっているキョンキョンさん(小泉今日子)と、取材日が一緒だったのでご挨拶しに行ったんですが、「10周年のシングルベストの取材で」と言ったら「10年か。私なんて40年だよ」と言われて。その瞬間「まだ10年か」と思い知らされたというか……。
――40年以上やっている方を前にすれば「まだまだだな」と。
大原:はい、そうです。
――デビュー当時、10年後の想像はしていましたか?
大原:いや〜。しているようで、していなかったですね。ただ、「10年後も歌っていたいな」「10年後もお芝居していたいな」という願望はありました。
――映像を観返しているというお話もありましたが、今回のシングルベストに収録された曲の一覧を見て、ご自身ではこの10年の変化や成長をどのように感じていますか?
大原:やっぱり表現力が全然違うなと思いますね。デビュー当時は当時で、自分自身を一生懸命に表現したり、歌詞から見える景色に感情を乗せて歌ったりしていましたけど、今聴くとすごく棒読みで(笑)。けど、その“棒読みじゃないけど棒読みっぽい感じ”も、そのときにしかないまっすぐな良さなのかなとは思いつつ。ライブでも、最初は音源通りのままいかに上手く歌うかを考えていたんですが、今はもう「音源は音源、ライブはライブだから」という感覚になれて。
――その考え方はいつ身についたものなのでしょう?
大原:家入レオちゃんのライブを観に行ったときですね。もうすごかったんですよ。お客さんとの一体感とか、家入レオちゃんの自由な感じがいいなと思ったことをすごくよく覚えています。
――「ライブではこうやって歌うんだ」みたいな。
大原:はい。もっと自由でいいんだ! って。
――それに気づいてからライブが楽しくなりそうですね。
大原:もちろんその前から楽しかったですが、より楽しくなりました。もっと冷静にお客さんの顔も見られるようになりましたし。それまでは自分のやることだけで精一杯で、お客さんとコミュニケーションを取る余裕がなかったんですが、「ライブは楽しむものだ」という感覚になりました。
新しい風を感じた瞬間から歌うのが辛かった時期まで……楽曲で辿る
――今作には新曲2曲を含めた計34曲が収録されていますが、活動を通して、特に印象や表情が変わらない曲と、大きく変わった曲を挙げるならどの曲ですか?
大原:うーん……どれも変わらないですね。特に変わらない曲を挙げるなら、ソロデビュー曲の「サンキュー。」。ソロデビューできるというありがたい気持ちと、ファンの皆さんへの感謝が詰まった曲で。リリースしたときから、結婚式とかで歌ってほしいなと思っていたんですけど、実際に「サンキュー。」をかけたり歌ったりしていただいているようで、そういう意味でも気持ちは変わらないですね。変わった曲は……今作に収録されていないんですけど、「電話出て」(2020年2月リリースの4thアルバム『Passion』収録)という、一青窈さんが作詞してくださった曲。レコーディングでは結構激しくエモーショナルに歌ったんですけど、ライブではまた全然違う雰囲気になりました。あとは「READY GO!」(2015年3月発売の1stアルバム『HAPPY』収録)も変わったかも。レコーディングではかわいい感じで歌っていたんですけど、今ライブでは「おらー!」という煽り曲になって。原型をとどめていないです(笑)。
――多彩な楽曲を歌ってこられましたが、楽曲を受け取ったときに解釈が難しいなと感じた曲は何ですか?
大原:「花光る」は古風な言葉遣いで、受け取ったときは「これはどういう意味だろう?」と思う言葉が多かったですね。でも噛み砕いていくと、素敵な意味が込められていることに気づいて。日本語の美しさがぎゅっと詰まっている曲です。
――では逆に、受け取ったときに一番スッと理解できた曲、一番共感できた曲は?
大原:感情を込めやすいのは「Close to you」ですね。ファンの方に向けた曲なので、ライブでお客さんを前にして歌うときに、歌い出しの〈元気だったかな?〉からすごく気持ちが高まります。
――レコーディング時に苦労した曲、歌うのが難しかった曲はありますか?
大原:「寂しいの色」。子供のときに感じていたぬくもりと、大人になった孤独で冷たい心の両方が入り混じった感情を歌った楽曲なのですが、それを表現するのが難しかったです。
――「寂しいの色」は昨年リリースの楽曲ですよね。ここにきてまだ「難しい」と感じる曲があるんですね。
大原:いやぁ、難しかったですね、でも新しい風が入ってきたような感覚もあって。ハードルは高かったですけど、素敵な曲に出会えて嬉しかったです。
――冒頭で「やっと10年」という言葉もありましたが、10年間の中で辛かった時期の曲を挙げるなら?
大原:「STARTLINE」の時期です。というのも、この曲は2021年3月リリースのアルバム『l(エル)』に収録されているんですが、コロナ禍真っ只中で。無観客の配信ライブでこの曲を歌ったときに「なんて悲しいんだろう」と思ったんです。人に歌が届いているかわからないってこんなに孤独でこんなに空虚なんだ、と。エネルギッシュな曲なのに、歌い終わってもシーンってなるから「……え? 私、今一生懸命歌ったよね?」みたいな。スコーンと落とし穴に落ちたみたいな感覚になって。あの時期は辛かったですね。
――やはり目の前に観客がいるかどうかというのは大きいんですね。
大原:はい、全然違いますね。そのあとお客さんを会場に入れられるようになって、最初はマスクして声が出せなかったので、拍手の大きさに感動して。そのあと声出しOKになって、声が聞こえた瞬間はさらに感動しましたね。