JUBEE、心を解放させる音楽の力 既存のラッパー像を覆して“みんなの歌”を届けたい理由

JUBEE、心を解放する音楽の力

 自主企画イベント『CROSSOVER』のステージを観た時から、自分で「俺、面白いヒップホップやってるでしよ?」と言ってしまう人柄に触れた時から、熱い人だとわかっているつもりだった。ただ、2年ぶりの新作を聴いてしまえば、熱さの核をなす本気の度合いに驚かざるを得ない。JUBEEの2ndアルバム『Liberation』。「解放」をテーマに掲げた作品は、もちろんジャンルの解放を意味するものでもある。(sic)boyやOMSB、MUDなどのラッパー仲間のほか、上田剛士(AA=)やJESSE(RIZE、The BONEZ)、清水英介(Age Factory)などロックミュージシャンが多数参加。ヒップホップ、ロック、チル、ダンスミュージックをごった煮にしたサウンドはミクスチャーを現代に更新するものだ。しかしながら、本当の意味で「解放」されるのはもっと大切なものである。最初から最後まで、ラッパーらしさのイメージを覆す言葉ばかりが飛び出したインタビューをお届けする。(石井恵梨子)

JESSEらの背中を見て知った“バンドマンのかっこよさ”

――発売前に配信されたシングルに顕著ですが、今回はロックアーティストとのコラボがグッと増えました。

JUBEE:意識してなかったけど、数えてみるとかなり増えましたね。前は英介(清水英介)くらいだったのが、剛士さん(上田剛士)やJESSEさんだったり。その人たちもここ2年間くらいの繋がりですね。それはAFJB始めたことが大きかったのかな。AFJBやったから、本当の意味でアーティストとして見てもらえた。たぶん剛士さんも、おそらくJESSEさんも、バンドマン、そしてラッパーだって認めてもらったからこそ、一緒に曲を作ろうって思ってくれたと思うので。

――バンドマンって言われると、嬉しいものですか。

JUBEE:嬉しいですよ、やっぱり。結局なんだかんだ、ヒップホップ村とバンド村、壁はないようであるんで。そこの人たちにしっかり認めてもらえると嬉しい。バンドの人たちって演奏があるから、やっぱりライブがかっこよくないと。音源だけかっこよくても、なんかそれは違うなって思うので。その意味で、自分のパフォーマンスとか実力をしっかり見た上で、「あ、こいつはバンドマンだな」って思ってくれたなら、そこにはリスペクトを感じるから。あと、この前の剛士さんとの対談(※1)でびっくりしたのが「バンド側の、一番ヒップホップに近いヤツ」みたいに見てくれてたことで。バンドのヤツもヒップホップのヤツも普通にいるような、本当の意味での一体感を感じるイベントがまだ少ないから。

――確かに。自主企画『CROSSOVER』を始めたのもその一環ですよね。

JUBEE:完全にそうです。『CROSSOVER』を始めた初期衝動としては、バンドのライブはすごく楽しいし感動できるものだし、ヒップホップのライブでは得られないエネルギーがある。それを俺のお客さんに伝えたいってことだったんですよ。ヒップホップのライブしか知らないお客さんに、やっぱりThe BONEZのライブ、Age Factoryのライブを経験してほしかった。あのモッシュに巻き込まれてほしいっていうか。

――ラッパーでありながら進んでロックバンドを招聘する、誰よりデカい音の中で叫ぶって、どんなモチベーションなんですかね。

JUBEE:どうだろう? 単純に好きだし、俺の趣味っていうのもあるけど。ヒップホップの現場ではあえてラフな感じでライブすることもひとつのスタイルではあるけれど、俺が信じている“ホンモノ”のステージとは乖離があって。

――どういうことですか?

JUBEE:別にラッパーたちを否定するわけじゃないんですが、明らかにバンドのほうが、ボーカル力のある人たちが多いように感じる。機材に頼らず、マイク1本でポンと人前に出て、しっかり野太い声を出せる。もちろん大事なのはそこだけじゃないと思うんですけど、俺はそこに対してかっこよさを感じてます。

JUBEE - Vision feat. JESSE (RIZE / The BONEZ)【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

――逆の意見もありますよ。ロックバンドの人たち、実は「この時代、ビートミュージックのほうがかっこいいんだよなぁ」なんて思いながらギターを弾いていたりする。

JUBEE:あぁ。そうだと思います。ないものねだりじゃないですか、やっぱ。

――お互いにあるんですね(笑)。

JUBEE:あると思いますよ。だからみんな、ある意味飽きてるんだと思う。今の自分の立ち位置とか環境に。そこを壊していくのが俺は楽しいし、たぶんロックの人たちも同じように新しい刺激を求めてるんだと思う。

――あと、ロックから見てビートミュージックがかっこよく見えるのは、今までのラッパーがおしなべてクールだから、でもあって。

JUBEE:あぁ。確かにそのよさはあると思うんです。ただ、今の俺はもっと感情剥き出しで、泥臭いかっこよさを追い求めている。その魅力はJESSEさんに教えてもらいました。それまでは、もっとオシャレだったりクールだったり、センスいいとか、そういう部分でかっこいい人たちを見てました。でも泥臭さがいいっていうのは、JESSEさんに会ってわかりましたね。裸一貫、いかに男ならやるか、みたいなふんどしスタイル。今は俺、そっちモードなんですね。だからこそライブが一番大事だと思うようになったし。

――切り替えていく中で、照れ臭さを感じることはないですか?

JUBEE:最初はありましたけど、もうとにかく数打つしかないですよね。何でもかんでも、数打ちまくって経験積んでいくしかない。

人の心を解放させることが“使命”

――たぶん今回の一番大きな挑戦って「PICK UP THE PIECES」(AA=)のカバーだったと思うんです。ここまで明るいメロディ、力強い歌詞、照れてたら絶対に歌えない。

JUBEE:そうですね。そもそもあんな高音で歌ったこともなかったから。今回、前のアルバムよりも明らかにいろんな声を出すことに挑戦してるんですよ。「PICK UP THE PIECES (Mass Infection Mix)」もちゃんと原曲のキー、剛士さんと同じキーで歌えるように日々鍛錬を積んでます。    

――スカされて歌うと、興醒めしてしまう。

JUBEE:そう。自分から拳上げて歌う、それくらいでサマになる曲だと思うんで。作った剛士さんの名に恥じないように、剛士さんに「JUBEEに作ってよかったな」と思ってもらうためにも。俺も「剛士さんっていうヤバい人がいるんだ」ってもっとお客さんに伝えたいし、普段バンドを聴かない人たちにも伝えたい気持ちがあるんで。これはしっかりカマさないと。

――歌詞にも〈俺が次世代に遺し繋ぐ〉とあって。1曲目「Liberation」にも〈使命〉って言葉が出てきますけど、これは同じものですか?

JUBEE:あ、それはまた別の意味になってくるんですけど。1曲目の〈使命〉は……この話、結構長くなっちゃうんですけど。

――どうぞ。

JUBEE:これ、今回のタイトルの“解放”に繋がってくるんですけど。前にTHE ORAL CIGARETTESとAFJBで九州のツアーを4カ所回って、その時に俺、宮崎県にいる大学時代の友達に「ライブやるから遊びに来てよ」ってLINEしたんですよ。そしたら「行けない」って返事が来て。どうやら精神的な病気になってしまったみたいで。バックパックひとつで元気に旅するような友達だったから、すごく意外で。「もし元気になったなら来なよ」とは言ってて。そしたら当日は来てくれたんですよ。AFJBでライブやってる時にはモッシュに混じってワーッと暴れてる姿を見れたし、ライブ終わった後に飲みに行ったら「JUBEE、本当ありがとう。めっちゃパワーもらったわ」って言ってくれて。その日は楽しく終わったんですけど。

――はい。

JUBEE:次の日になって「昨日はありがとう。心を解放できた」ってLINEをもらって。そのメッセージが自分の中にすごく引っかかって。「解放」って言葉、すげぇなと。それですぐさま電話したら「最初は迷ってて。半分はモッシュに行くのやめとこうかな、半分はモッシュして遊ぼうかな、みたいな感じだった。でもAFJBのライブが始まって、オーラルのお客さんもバーッとモッシュに参加して、それを見てたら、俺も一緒に遊ぼうって思えた」って。これってもう、俺がいいラップができたとか、そういう話じゃないですよね。ライブハウスにいた全員、俺だけじゃなくて、お客さんを含めた全員のパワーがどんどん波及して、元気玉みたいに広がって、全体の空気として俺の友達にパワーを与えたんだな、それがあいつの心を解放させたんだな、と思って。今まで、なんで音楽やってるんだろうって考えたことはあるけど、答えは全然出てこなくて。たとえばお金稼ぎたい、女の子にモテたいとか、軽い理由ならあるんだけど、本当の意味って何なんだろうってずっと考えてて。でもその時、すごく腑に落ちたし気持ちが充実したんですね。俺は人の心を解放させたいんだなって。今まで自分のために音楽やってきたけど、人のためにやること、人にパワーを与えることがこんなに嬉しいんだって気づけた。それで今回のタイトルは『Liberation』。これが自分の使命なんだろうなって。

――いい話です。それって、自分がどういう生まれでどう生きてきたか、みたいな話から始まるラッパーの動機とは違うものですよね。

JUBEE:そうですね。ラッパーってやっぱり自分語りから広げていくし、俺も最初はそうだったんですけど。これは「Playground feat. (sic)boy, HIYADAM」にも繋がる話で、なんか今、みんなのためになる歌を作りたいっていうマインドになってます。もちろん自分にしか書けないリリックはあるから、自分語りも入れますけど。でも基本、みんなの曲にしたい。「Playground」とかは完全にそういう気持ちで作った曲ですね。

――初めてこの曲を聴いたのは5月の恵比寿LIQUIDROOM(『CROSSOVER』)でしたけど、曲ができたのも今年ですか?

JUBEE:今年ですね。年末から着手してて、でき上がったのは今年。

――2022年にAFJBを始めて、宮崎のライブの話があって、「Playground」が生まれていく。ものすごいスピードで話が繋がります。

JUBEE:そう。宮崎のライブが去年10月だから。その時に雷が落ちて、マジこれだと思って。それまでアルバムのタイトルとか決めてなかったし、曲のテーマも決まってなかったから。だからデカかったですよ、宮崎のライブ。それがなかったら絶対このアルバムはこうなってない。

JUBEE - Playground feat. (sic)boy, HIYADAM【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

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