韓国初開催『Asian Pop Festival 2024』に行ってきた(後編) アジアで活動するアーティストたちの存在感

土井コマキのアジア音楽探訪 Vol.6

 前回、最後に書いたbongjeingan。先日『Asian Pop Festival 2024』でのフルパフォーマンス映像がYouTubeにアップされましたが、『FUJI ROCK FESTIVAL '24』の苗場食堂という、フードエリアにあるステージでの日本初ライブを目撃しました! 彼らにライブ前にインタビューできたのですが、音の大きさを大事にしているとのことで、その言葉どおりの演奏でした。チョン・イルジュン(Dr)が髪を振り乱して馬鹿でかいドラムを叩いていて、イム・ヒョンジェ(Gt)のギンギンのギターが吠える。その横で、まるで音に耳を澄ませているかのように目を閉じて口を半開きでベースを弾くチ・ユネ(Vo/Ba)。3人の演奏している姿から、お互いの音が好きなんだろうなぁと感じました。「お互いを音で癒すために結成した」というエピソードになんとなく納得です。笑っちゃうくらい3人の音がバシッと合って、より一層大きな音に聴こえる。ナイス・トライアングル! まぁしかし曲の展開のユニークなこと! ともすればマニアックなんだけど、そんなふうに聴こえないのは、チ・ユネの声が素朴で人懐っこいからかも。彼の歌声は、全てをポップでキャッチーにするなと思いました。また来日してほしいです。

[LIVE] 봉제인간 (bongjeingan) at Asian Pop Festival 2024

 さて、今月のコラムのメインテーマ、韓国の仁川で行われた『Asian Pop Festival 2024』に行ってきたお話の続きです。タイトルに『Asian』とついているとおり、出演アーティストは韓国だけではなく、アジアの色んなエリアで活動している人たちでした。そんな中で気になるのが、JAPANESE BREAKFASTの存在感です。JAPANESE BREAKFASTはアメリカのミシェル・ザウナーによるソロプロジェクト。亡くなった韓国人のお母様とのことを綴った著書『Hマートで泣きながら』がベストセラーになり、日本語訳書も発売されていますが、現在2冊目のエッセイ執筆のために、韓国に住んでいるそうなんです。そんなわけでこのフェスにもラインナップされているのですが、ただ単純に韓国に住んでいるから出演したということだけではなく、とても意味深いものを勝手に感じ取ってしまいました。ギターは夫でもあるピーター・ブラッドリーで、なんとベースとドラムが韓国人ミュージシャンたち! シンプルなギター、ベース、ドラム、ボーカルの4人編成で、MCも韓国語。サプライズで、韓国のシンガーソングライター、イ・ラン(이랑/Lang Lee)とイ・ミンヒ(이민휘/Minhwi Lee)が登場して、3人でラトビア語の歌謡曲が原曲の「百万本のバラ」を韓国語で歌うワンシーンにもグッと来ました。

 実は、このフェスの企画スタッフが、ミシェルと韓国のミュージシャンとの橋渡しをしたそうなんです。自分のルーツである韓国で生活して、おそらく刺激をたくさん受けて、自分の心の中とも向き合って、ステージでは相変わらず演奏中に夫のピーターとお互いのおでこをくっつけて……演奏の後、バックヤードでたくさんの韓国のアーティストやメディアから話しかけられているミシェルを見て、このフェスが開催された意味深さをまた感じました。JAPANESE BREAKFASTは新曲も演奏していたので、早く次のアルバムが出ないかなと待ち遠しくなりました。エッセイももちろん楽しみです。

❥ 𝗔𝗣𝗙𝟮𝟬𝟮𝟰 ✷ 𝗔𝗿𝘁𝗶𝘀𝘁 𝗛𝗶𝗴𝗵𝗹𝗶𝗴𝗵𝘁 ✷ Japanese Breakfast
Japanese Breakfast - Paprika (Jimmy Kimmel Live performance)

 さて、そんなJAPANESE BREAKFASTのステージにサプライズで登場したイ・ランについても触れておきたいです。彼女は日本でも人気が高いので、ご存じの方が多いと思います。折坂悠太の楽曲「윤슬(ユンスル)」でのコラボレーションも印象的でしたね。この日はドラム、チェロ、キーボード、ベース、5人の合唱隊“オンニ・クワイヤ”、本人のギターという10人のフル編成。全員モノトーンのジェンダーニュートラルでスタイリッシュな衣装。コーラス隊が手に持っている大きな傘のような花が印象的。言葉がダイレクトに届いてくるボーカルと、効果的に使われるコーラスやハンドクラップが相まって、迫力ある演奏に飲み込まれます。いつの間にか主人公の目線になって映画や小説を楽しんでいるような、そんな感じ。バーラウンジを使った「RUBIK STAGE」にピッタリです。「私の気持ちを代弁してくれている」という表現はちょっと違う気がする。誰かの物語のはずが、いつの間にか自分の物語のように感じてしまう。人の声というのはすごい情報量を持つのだなと改めて思います。イ・ランは9月にこのフルバンド編成での来日が決まっているので、ぜひ目撃してほしいです。

 フェスの後日、ソウルでひょんなことで、初めて直接お会いすることができました。会う前に私が抱いていた「社会に対して声をあげている人」という活動家な人物像よりは、「自分が目の当たりにした出来事に対して思ったことを言いたいし、困っているから助けてほしいと言っている、純粋な優しい気持ちに溢れた人」でした。もっと彼女の頭の中を知りたくなりました。

[MV] イ・ラン - 対話 / Lang Lee - Conversation (JP Subtitle)

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