ゆず「伏線回収」、キタニタツヤ「次回予告」、aiko「相思相愛」……四字熟語タイトル曲がもたらすインパクト
現在放送中のドラマ『南くんが恋人!?』(テレビ朝日系) の主題歌となっているゆずの新曲のタイトルを見た時、驚いた人はきっと少なくないと思う。その曲名は、「伏線回収」。「伏線回収」とは、ドラマや映画などの物語の序盤や中盤に張り巡らされた前振りが、終盤になって効いてくることで、特に近年、考察を深めるタイプの作品を楽しむ時など、日常的な会話の中でもよく使われる言葉になっている。同曲の作詞作曲を手掛けた北川悠仁は、ドラマ『南くんが恋人!?』に向けて、「湘南を舞台に繰り広げられる、ちよみと南くんの甘酸っぱい、だけど時々すれ違ってしまうひと夏の心模様が、最後の最後に“伏線回収”されますように。ゆずの令和版サマーソング『伏線回収』と共に、この夏一緒に盛り上がりましょう」(※1)というメッセージを送っている。「伏線回収」というワードをタイトルに冠した曲がドラマの中で流れること自体の斬新な面白さもさることながら、この曲は、ドラマの物語の展開に密に寄り添う主題歌としての機能をしっかり果たしており、絶妙なタイトル&テーマの楽曲であると思う。もちろん、ドラマの主題歌という文脈を抜きにして、単独のポップチューンとしても楽しめる仕上がりになっているからすごい(編曲には、XIIXのメンバーとして活動する須藤優も参加)。
「伏線回収」という曲名を見た時、漢字四文字の熟語がタイトルになっていることには目を見張ったが、改めてゆずのディスコグラフィーを振り返ってみると、「表裏一体」「公私混同」をはじめ、今回の新曲以外にも四字熟語タイトルの楽曲がいくつかあることを思い出した。いずれも、私たちの日常生活の中でよく目にするワードを主題に据えた楽曲であり、そうした身近、かつ意外な言葉をもとにポップソングを作り上げるゆずの手腕に改めて驚かされた。
他に思い浮かんだのが、キタニタツヤがこの春にリリースした楽曲「次回予告」だ。この曲は、テレビアニメ『戦隊大失格』(TBS系)のオープニング主題歌として書き下ろされた。「伏線回収」と同じように、もしくはそれ以上に、日々ドラマやアニメを観ている人にとって「次回予告」は馴染み深いワードだと思う。では、この「次回予告」というテーマに、キタニはどのように向き合い、楽曲を作り上げていったのだろうか。象徴的なのが、〈また同じオープニングテーマが鳴る/予定調和の今日が始まる/それでも続けよう、誰のために?/麻痺るまでループした日々を/はみ出して性懲りもなく足掻く/予想を、期待を、裏切ってしまえ/次回予告の僕を〉というサビの一節だ。この曲の中で歌われているのは、〈予定調和〉を突き抜けていこうとする鮮烈なブレイクスルーの意思である。シニカルでありながら情熱的でもあるというキタニのアンビバレントな本質が見事に結実した素晴らしい楽曲であると思う。
My Hair is Badが2018年にリリースしたEP『hadaka e.p.』の1曲目にも「次回予告」という楽曲が収録されている。〈失くなったことばかり ずっと思い馳せないでいて/続きは これから〉という渾身のパンチラインが、ここから始まるEP、および、My Hair is Badへのさらなる期待を高める1曲となっていたように思う。