大森靖子、すべての“名もない女の子”に届ける歌 10年変わらない音楽家としての姿勢を見た
自分には何にもないまま歌を作り続けてきたーーというMCから始まったのが「マジックミラー」だった。〈君がつくった美しい日々を / 歌いたい〉と歌われるこの楽曲は、超歌手としての大森靖子の活動姿勢そのものだ。ときにアカペラで大森靖子は「マジックミラー」を歌いあげた。
ピアノから幕を開けた「QUEEN OF TONE」は、全キャリアの楽曲を対象にして開催された「大森靖子楽曲総選挙」で1位を獲得したZOCの楽曲だ。〈私は あなたの人生の花を守るため / あなたに嫌われていようって決めた〉と歌う異端のラブソングにして、強い支持を集めている。
「ひらいて」に続いて歌われた「光のない方へ」は、山崎育三郎への提供曲。そしてMCでは、大森靖子の「死ぬのに失敗してくれてありがとう、おかえり!」という言葉に「ただいま!」と返すようにファンに頼み、コール&レスポンンスのように声をかけあった。ごく自然に死と生の狭間がその場に存在している。そして歌われたMAPAの「怪獣GIGA」は、強烈なカタルシスをもたらす。椿宝座の「flop」は強いフックを持ち、それがライブでひときわ輝く。ZOCの「family name」では、終盤の「クッソ生きてやる」でコール&レスポンスが起きた。
MAPAの「Nirvana」から続いた「きもいかわ」では、大森靖子が「助けて」と叫ぶ瞬間もあった。「助けてって言える人生であってね」と、歌のように、吐露のように大森靖子が言う。そして七夕のこの夜、「織姫様になれるって思ったのにな」と言って始まったのが「死神」だった。ときにギターノイズが響き、ときに大森靖子がアカペラで絶唱する。歌い終わった瞬間、バックドロップが照らされ、大森靖子のシルエットが浮かびあがった。まるで他人の人生まで飲み込んでしまった織姫様のように。
「TOKYO BLACK HOLE」では〈人が生きてるって ほら ちゃんと綺麗だったよね〉と歌われ、大森靖子はフロアに両手を広げながら「綺麗だ!」と叫んだ。「オリオン座」ではファンが合唱し、その歌声のなかに生と死が隣り合う。
大森靖子がステージを去った後、「靖子が一番かわいいよ!」というファンのコールが起き、ステージに和太鼓とのぼりが現われた。のぼりを持って「大森靖子はいいぞ!」と叫んでいるのは、ZOCの荼緒あいみだ。ステージには、ここまでのライブを彩ったダンサーのたかな、あすか、友佳里、ikura chanも登場。和太鼓を叩くさくも含めて、彼らは公募で共演することになったファンたちだ。音頭調の陽気な「めっかわ」の後、大森靖子とファンの「おまえが一番かわいいよ」「私が一番かわいいよ」というコールアンドレスポンスを経て、「絶対彼女」へ。ここでは「女子」と「おっさん」にそれぞれコールを求めていたが、やはり女子の比率の高さを感じる。
「最後のTATTOO」は、sugarbeansのキーボードからして、まさにR&B。「君と映画」とともにライブは終わり、「あなたの一番嫌いなあなたは私の音楽にまかせてください、大森靖子でした」と言って、ステージを去った。大森靖子は、必ずステージに深い一礼をしてから去っていく。
ライブの終盤、大森靖子はこうも言っていた。「これからも名もない女の子の歌、名もない私の歌を歌っていこうと思います」と。大森靖子はひとりひとりに向き合おうとする。そうした姿勢であるがゆえに、勝手に愛され、勝手に失望されることもあるだろう。しかし、大森靖子がその姿勢を変えようとしたところを見たことがない。そして、前述のようなファン層の若返りも特筆したい。これはやろうとしてもなかなかできないことだ。メジャーデビュー10周年に開催された『大森靖子アルティメット自由字架ツアー 2024』は、大森靖子という音楽家の可能性ーーそれは芸術性はもちろん商業性も含まれるーーを強烈に印象づけるものだった。その可能性は、この10年に起きたすべての事象と地続きなのだ。
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