YUKIが手にした“ありのままの自分への誇り” 『SLITS』は奔放かつ普遍的なアルバムに

YUKI、ありのままの自分への誇り

 「私にとってスリットは“自由”」。YUKIは、自身がパーソナリティを務めたラジオ番組『アーティスト・プロデュース・スーパー・エディション』(JFN系列27局ネット)6月5日放送回にて、アルバム『SLITS』(6月12日発売)のタイトルが示す意味についてこう語った。

YUKI New Album『SLITS』Teaser Movie

 本作のジャケット写真は、ファッション誌のエディトリアルなどでも知られるフォトグラファー・戎 康友が撮影とアートディレクションを手掛けている。そこに映るのは、太ももまで入った大きなスリットが目を引く黒のロングスカートとヒールのみを身に着けたYUKIの姿だ。スカートは、世相や思想を映し出すファッションアイテムの一つ。さまざまな丈や形のバリエーションには、その時代を生きる人々のイズムが反映されてきた。YUKIが纏うスカートに入ったスリットは、着る者を窮屈さから解放し、軽やかに走ることや踊ることを可能にする。いまのYUKIが手に入れたのは、そんな身軽さや自由、そしてありのままの自分に対する誇りである。

 アルバムに先駆けてリリースされたシングル『こぼれてしまうよ / Hello, it's me』の2曲に抱いた印象も、それに近いものだった。『SLITS』には、ソロデビュー20周年記念ツアー『YUKI concert tour “SOUNDS OF TWENTY” 2022』を終えてから始めたレコーディングで生まれた楽曲が収められている。今回は新たな楽曲の制作手法を模索しながら、一曲ずつゆっくり時間をかけて制作することができたそうで、その中でもいまのYUKIが色濃く投影されたのが「こぼれてしまうよ」だ。ファンクラブ会員限定ライブ『YUKI LIVE “little night music”』でもバンドマスターを務めた皆川真人のピアノに乗せて滔々と飾り気のない言葉が歌われるこの曲の歌詞に注目すると、YUKIによるYUKI自身の歌であることがはっきりと伝わってくる。

YUKI『こぼれてしまうよ』

 ソロデビュー15周年以降、数々のミュージシャンから楽曲提供を受けた『forme』や『Terminal』など“自分が知らない自分”と出会うことへの探究心から生まれたアルバム、20周年ツアーの際の心境がストレートに表れたアルバム『パレードが続くなら』などを経て、YUKIが「こぼれてしまうよ」の中で歌う言葉が〈探し続けてた自分なんて 最初からいなかったよ/あるがままさ ありのままさ〉だったのには少し驚いたが、ここまでの歩みの中でさまざまな角度から自らの可能性を追求したからこそ、たどり着いた一つの答えなのだろう。ただ、YUKI自身の歌でありながらも〈どうしようもない人 くだらない人 嫌な自分もたまに許しちゃおう〉〈ためらったり 強がったり 頑張っても 何も悪くないんだよ〉など、親しい友人からかけられる言葉のように響くラインもふんだんに盛り込まれており、多くの人が“自分の歌”としても聴くことのできる普遍性を兼ね備えている。ここ数年YUKIが感じていたという閉塞感に風通しのよさをもたらしたきっかけの一曲だ。

 もう一方のシングル曲「Hello, it's me」は、一日の始まりに聴きたくなる前向きなパワーに満ちたナンバーだ。YUKIいわく“成長の物語”。人と自分を比べて自分にないところを一生懸命探してしまうーーそんな悩みを相談されたときに感じたことが歌になっているという。他者のことを気にするよりも、常に自分が成長することに興味を持っていたいというのは、SNSなどを通じて他者の情報が大量に目に入ってきてしまう現代にこそ覚えておきたい心構えである。いまのYUKIの自らへの確かな自信が感じ取れる〈誰が何を言おうと 私は私だけのものなのだから〉〈私は 今日も冴えてる〉といったエンパワーメントなワードも含め、自分自身の調子を確かめながら、日々のケアを積み重ねていくスキンケアのブランドCMソングに起用されたのも納得だ。

 普段からYUKIが考えていることをありのままに歌にした、力強いメッセージ性を持つ2曲を軸にした『SLITS』。サウンド面や歌唱においてもより自由度が増している印象を受ける。豊富な楽曲のバリエーションは、年齢やキャリアを重ねてもYUKIとして歌う言葉やトラックの表現の幅を狭めることはない、抗っていくのだ、と宣言するかのようだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる