“第二次シティ・ポップ・ブーム”で進む再評価 杏里、中原めいこらハイレゾ配信で集まる注目

杏里らハイレゾ配信で集まる注目

児島未散、中原めいこ……改めて注目したい楽曲たち

 杏里が日本のチャートシーンに起こした新しい風、それはBobby Caldwellを筆頭に洋楽を彷彿させるサウンド、ラテンのフレーバーを取り入れた夏の雰囲気、湿度の高いメロディをクリアな声でそう印象づけないテクニックを含む、爽やかな西海岸のムードであった。彼女のアルバム『Timely!!』のプロデュースを手掛け、後に中山美穂への楽曲提供でヒットを連発する角松敏生や菊池桃子を筆頭に、数々のヒット曲を手掛けた林哲司、来生たかお、松本隆など、“楽曲制作者”が注目されはじめたのもこの頃だ。そんな中、収録全曲、作詞・松本隆/作曲・林哲司の楽曲で構成されたアルバム『BEST FRIEND』をリリースしたのが児島未散だ。1985年にリリースされた1stアルバムである。当時は女優としての活動を主軸においていた彼女。まだ幼さの残る歌声が、繊細で流麗なサウンドとともに、爽やかな風のように流れてくる。この時点では、歌手というよりアイドルに近い存在だった彼女の声質を生かしたBPM、柔らかいハーモニーなど、林哲司の手腕が光る作品である。特に彼女のデビュー曲にもなった「セプテンバー物語」は、メロディは王道な作りながら、ギリギリの高音を攻めていたり、頭にポエトリーリーディングのようなアプローチがあったり、難易度の高い名曲である。

 1980年初頭から半ば、ラテンのリズムのみに限らず、多国籍に多彩なリズムを取り入れてヒットを飛ばした女性シンガーソングライターとして、中原めいこについても言及したい。1982年に「今夜だけDANCE・DANCE・DANCE」でデビュー。デビュー曲から大胆にサルサのリズムを取り入れている。1984年にカネボウの夏のキャンペーンソング「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」が大ヒット。当時、パパイアやマンゴーがどんなフルーツなのかと、子供たちの間でも話題になったほどに、世間に強烈なインパクトを残した。彼女の楽曲の特徴は、今で言う“フック”が満載なところだ。ドメスティックでタイトなリズムもキャッチーだが、ダンサブルなアレンジや、打楽器の音色が耳に残る。当時、アナログシンセのベースの音色をフックにするようなアレンジはあっても、リズムそのものをこれだけフィーチャーしたサウンドを打ち出しているアーティストはあまりいなかったと思う。かと思えば、フィリーソウルな趣きのあるメロウな「Go Away」(1982年)では間奏で転調を繰り返すなど、今改めて聴いてみるとメロディ以外は、かなりトリッキーな曲が多かった。以降も「やきもちやきルンバ・ボーイ」、「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」(いずれも1985年)、「鏡の中のアクトレス」(1988年)などをヒットさせている。個人的に思い出深い曲はアニメ『ダーティペア』(日本テレビ系)主題歌の「ロ・ロ・ロ・ロシアン・ルーレット」だ。オープニング映像のコラージュのオシャレさ、楽曲と映像のシンクロ具合など、すべてが想像を超えていて度肝を抜かれた。ちなみに同アニメのエンディング曲も中原めいこが担当していたのも思い出深い。

 1980年代初頭。日本の音楽シーンがウエストコースト(西海岸)の洒落た雰囲気に憧憬を抱き、それが若者たちのファッションやサウンドなど形になり、カルチャーになっていった“シティ・ポップ”。それがアジアや米国で話題になり、日本で再燃して音楽シーンに根づいた今、さらにまた各国に広がりつつある。卵が先か鶏が先か状態になっているとも言えなくもないが、日本語の楽曲が日本語のままで世界各地に広がったのは、今後の日本の音楽シーンにとって間違いなく光明のひとつだろう。新たな動きが新たなシーンを作るか、シーンをより強固なものにするのか、ディグるのも楽しいが、今、目の前のシーンからも目を離さずにいたい。なぜなら、両方知っていた方が面白いに決まってるから。

※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/95073/2

■リリース情報
杏里『Bi・Ki・Ni(ハイレゾ配信)』
4月17日(水)リリース

配信URL:https://lnk.to/8vPfVPLT

■公演情報
『ANRI LIVE 2024 FUN TIME』
8月3日(土)開場17:30/開演18:00
たましんRISURUホール(立川市市民会館)
8月24日(土)開場16:00/開演16:30
大宮ソニックシティ
8月25日(日)開場16:00/開演16:30
神奈川県民ホール
9月1日(日)開場16:00/開演16:30
NHK大阪ホール
9月22日(日)開場15:15/開演16:00
奥州市文化会館Zホール(大ホール)
9月28日(土)開場16:00/開演16:30
岡谷鋼機名古屋公会堂
9月29日(日)開場16:00/開演16:30
京都劇場
10月4日(金)開場17:45/開演18:30
LINE CUBE SHIBUYA
10月12日(土)開場16:00/開演16:30
三島市民文化会館 大ホール
10月19日(土)開場16:00/開演16:30
松戸・森のホール21 大ホール
10月26日(土)開場16:00/開演16:30
水戸市民会館 グロービスホール(大ホール)

チケットは各プレイガイドから
チケットぴあ:https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=11010099
ローソンチケット:https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=342422
eplus:https://eplus.jp/sf/word/0000000506

杏里オフィシャルサイト:http://anri-music.com

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