Hilcrhymeらしさとは“人間臭さ=喜怒哀楽” 15年間で積み上げてきたストーリーと一貫性

Hilcrhyme、15年間のストーリーと一貫性

 今年デビュー15周年を迎えるHilcrhymeが、昨年12月リリースの『BEST 15 2018-2023 -One Man & New Roadmap-』、今年2月リリースの『BEST 15 2014-2017 -Success & Conflict-』に続き、『BEST 15 2009-2013 -The Beginning & Flying-』を5月29日にリリースし、15年にわたって刻んできた輝かしい軌跡をまとめた3枚のベストアルバムが出揃った。特に3枚目の『BEST 15 2009-2013 -The Beginning & Flying-』は、デビューから5年間の楽曲と最新曲「ドラマ」がパッケージされたユニークな1枚。本作を通して、楽曲軸でHilcrhymeの活動を振り返るべく、TOCにインタビューを行った。(編集部)

シングル曲をあえて引いていった選曲基準

――3枚のベストアルバムに収められた膨大な楽曲群を眺めてみて、どんなことを思いますか?

TOC:すごいボリュームですよね。収録曲だけ見てもすごい数だし、選ばなかった曲を含めた総曲数としては3桁超えてますから。そう考えると、めちゃくちゃいっぱい作ってきたなというのが正直な感想です。

――15年の間、楽曲のアイデアは常に溢れていた感じですか?

TOC:いやー、溢れていたのか、頑張ってひねり出していたのか、ちょっと解釈が難しいところではありますけど(笑)。僕の場合、締め切りがなかったらあまり曲を書かない人間なので、次のリリースプランが何も決まっていない状態だったら、きっとこんなにたくさんの曲は作ってなかったんじゃないかな。デビューしてから数年間は1年に1枚アルバムを出していたので、その頃はかなり自分を追い込みまくっていた記憶があります。年々、それがしんどくなってくるんですけど(笑)、今はいい具合に自分なりのペースで活動できている感覚ですね。

――『BEST 15 2009-2013 -The Beginning & Flying-』には、デビューからの5年間に発表された曲がまとめられていて。「春夏秋冬」でのブレイクを経た怒涛の時期なので、それこそ締め切りに追い込まれていたとは思うのですが、勢いに乗るHilcrhymeのパワーを感じさせる楽曲ばかりです。

TOC:そうですね。締め切りに追われることって、別にネガティブなことではないんですよ。人から求められているということを締め切りのおかげで強く実感できるところもあって。だからしんどいはしんどいけど(笑)、ネガティブには全く捉えていないですね。

Hilcrhyme - 「春夏秋冬」Music Video

――収録曲のセレクト作業はいかがでしたか? かなり悩みそうですけど。

TOC:相当悩みましたね。セレクトの基準としては、過去に出ているベストアルバムとの兼ね合いを考えつつ、Hilcrhymeを知らない人にもちゃんと届くもの、今の自分が伝えたいもの、時代のニーズみたいなところを総合的に意識しながら選んでいった感じです。

――単純にシングル曲を並べたベストではないですもんね。

TOC:そうです。今作に関してはかなりシングル曲を引いてます。その一番の理由は、古くからのファンの人はもちろん、最近知ってくれた人にまでHilcrhymeらしさを感じてもらえるアルバムにしたかったから。結果、どストレートもあれば、変化球もあれば、暴投もあればっていう(笑)、そんな選曲になってますね。

――今おっしゃった「Hilcrhymeらしさ」って言語化するとどんな部分なんでしょう?

TOC:人間臭さだと思いますね。言い換えれば、喜怒哀楽。人間が生きている中で見て、感じているものをラップに乗せて自分らしくアウトプットするっていう。それがしっかりできている曲を選んだ感覚です。例えば代表曲である「春夏秋冬」で言えば、新潟に住んでいる中で感じた四季の移り変わりを書いているんです。それはやっぱり自分が人生の中で培ってきた、自分なりの見方になっている。高校時代の友人が結婚するにあたって書いた「友よ」や、劣等感を抱えつつも強がったボースティングをしている「リサイタル~ヒルクライム交響楽団 作品第1番変ヒ短調~」とかも、自分としてはすごく人間臭い曲だなって思いますね。あと、自分たちを新潟の県鳥であるトキ(朱鷺)に見立てて書いた「朱ノ鷺」を入れたのもこだわりで。ライブでもほとんどやってこなかったカップリング曲だけど、ここで描いた飛び立とうとしている自分たちの姿は『The Beginning & Flying』というベストアルバムのタイトルにも相応しいものだと思ったので絶対に入れたかったんです。

解放から葛藤へ デビュー後の5年間ならではのグラデーション

――今作を聴いて改めて感じたのは、デビュー当初からHilcrhymeの根幹は一切ブレていないということで。言い換えれば、デビュー時点で明確なアイデンティティが確立していたということでもあると思います。

TOC:それはデビュー前に経験していた下積み時代があってこそですね。そこでしっかりと自分たちの根幹を築けていたから。メジャーに出てからは、その根幹となる部分を下地として、その上に何を塗り、積み上げていくかっていう過程だったと思います。かっこいい言い方をすれば、それは創造と破壊なんだけど、どっちかと言うと断捨離的なイメージのほうが強かったかもしれない。これは残す、これは捨てるという選択を繰り返しながら歩んできた15年でもあると思います。

――最初の5年間ですでに断捨離的な思考を持って楽曲をクリエイトしていたっていうのは驚きですね。

TOC:とはいえ、メジャー1stアルバムの『リサイタル』(2010年)と、2枚目の『MESSAGE』(2010年)の半分くらいまでは、下積み時代にできていた曲がほとんどだったので、最初の頃はそれまでに積み上げてきたものを解放している感覚だったかな。そこから下積み時代に築いたものだけではダメだということで、3枚目のアルバム『RISING』(2011年)からいろいろと選択し始めた感じで。『RISING』をリリースした2011年は東日本大震災もあったので、いろいろと考えるようになったんだと思います。震災に対して自分はどうするべきなのか、ミュージシャンとしての自分はどうあるべきなのか、みたいなことを考えながら表現していたような気がします。で、翌年には結婚をしたり、Hilcrhymeとして初めての日本武道館公演をやったり、人生における大きなイベントが続いたので、よりいろんな面で選択が必要になっていったんでしょうね。それによって選ぶ言葉や扱うテーマが変わっていったところもあって。そう考えると、がむしゃらに走れていたのは最初の2年間だけって感じかも。

――そこからの流れで、2月リリースのベストアルバムのタイトルに掲げられていた“Conflict=葛藤”という感情が芽生えていくのかもしれないですね。

TOC:はい、まさにその通り(笑)。そういう気持ちのグラデーションみたいな部分をこの3枚のベストアルバムから感じてもらえたらいいですよね。

――アルバム『RISING』からは「Changes」や「パーソナルCOLOR」が選ばれていますね。

TOC:「Changes」はできた当時、単純にすごくいい曲ができたっていう手応えがあったんです。エンジニアやディレクターも「時代とか関係なく、ものすごくいい曲だよね」みたいな反応だったし。なので今回、ベストには入れたいと思いました。「パーソナルCOLOR」は当時、次のHilcrhymeのスタンスを提示するための1曲で。衣装とかもガラッと変えて、かなりチャレンジしたという意味で思い出深いんですよね。

Hilcrhyme-「Changes」-BD/DVD 「Hilcrhyme TOUR 2021-2022 FRONTIER」より-
Hilcrhyme - 「パーソナルCOLOR」Music Video

――「パーソナルCOLOR」は、TOCさんの歌心をすごく感じる曲でもありますよね。ものすごく心に響くボーカルだなと。

TOC:それがですね、僕としては一切歌ってないつもりなんですよ。歌ではなく、ラップにメロディを乗せているという感覚なんです。歌メロがあるバラードっぽい綺麗な曲だけど、リリックには自分を誇れというメッセージを乗せているので、ある意味、ヒップホップのスタンダードな曲だとも思うんですよね。そのバランスが自分としては結構好きなんですけど。

――なるほど。ということは、歌として褒められることはあまり本意ではない?

TOC:いや、全然問題ないです。もちろん素直に嬉しいです。一時期はそういう評価に対しての葛藤があったりもしたんですけど、よく考えたら受け取り方は十人十色ですからね。受け取ってくださった方の感想はありがたいものとして尊重する気持ちに変わっていきました。あくまで自分の独壇場はラップであり、シンガーとしては二流にも達していないというスタンスは今も変わらないですけどね(笑)。あくまでもフロウの一環としてメロディをなぞっている感覚なので。

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