SPYAIR、『ハイキュー!!』に重なるバンドの物語 タッグの歴史からEP『オレンジ』を紐解く

SPYAIR、『ハイキュー!!』に重なる物語

 2月16日に全国公開された劇場アニメ『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が大ヒットしている。公開から約3カ月で興行収入は103億円を突破し、動員は722万人を記録。配給元の東宝は“2024年公開作品でNo.1の初週興行収入を記録した”と発表している。Xでは、公開日に日付が変わった時点で「#ハイキュー試合開始」がトレンドワードにランクイン。当日の10時以降は「ハイキュー」が長時間トレンドワード1位となった。これは『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』が公開前から注目を集めていたこと、『ハイキュー!!』という作品が、幅広い層に支持されている結果と言えるだろう。

 『ハイキュー‼』(原作:古舘春一)は『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2012年~2020年にかけて連載されたバレーボール漫画だ。すでに完結しており全45巻の累計発行部数は6000万部を突破している。2014年からテレビアニメ『ハイキュー!!』の放送が開始され、2020年12月までにシリーズ第4期まで制作された。

大ヒット上映中『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』主題歌SPYAIR「オレンジ」アニメコラボMV

 そんな『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』の主題歌「オレンジ」を手掛けたのが、SPYAIRだ。同曲を収録した最新EP『オレンジ』は、2022年にボーカル・IKEが脱退した後、オーディションを経て、新ボーカル・YOSUKEを迎えたSPYAIRの(会場限定盤を除いた)第1弾パッケージリリースとなる。テレビアニメシリーズでも幾度もタッグを組んできた『ハイキュー!!』× SPYAIR。そのタッグの歴史とともに、SPYAIRのEP『オレンジ』について掘り下げてみたい。

 『ハイキュー!!』では、宮城県の古豪・烏野高校男子排球部をメインに、各地の男子バレーボール部員たちが切磋琢磨し、成長していく姿が描かれる。バレーボールの専門的な知識をベースに、リアリティをきちんと描きながらも、バレーボールを知らない人にも楽しめる青春群像劇だ。また、各チームの特色をしっかり差別化することで、登場人物たちの魅力がより際立っている。静と躍動のコントラストで見せる迫力ある試合シーンも見どころのひとつ。特にアニメでは、強烈なジャンプサーブや、ジャンプフローターサーブの無回転など、ボールの回転がリアルに再現されており、試合の緊迫感がダイナミックに伝わってくる。

 『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』は“因縁の対決”として、原作でも人気のあるエピソードだ。烏野高校は、全員攻撃に参加することも多い空中戦や機動力を持ち味としたチーム。東京都の古豪・音駒高校はリベロを中心にした繋ぐバレーで相手をじりじりと追い込む地上戦を得意としたチームである。因縁の対決と呼ばれる所以は、烏野の元監督と音駒の監督が中学生だった頃から、何度も練習試合を行うも、公式戦では一度も対決がなかったため。そういう意味では、因縁というよりも念願といったほうがしっくりくる“烏野VS音駒”戦が、世代を引き継ぎ実現したのが“春高バレー(『全日本バレーボール高等学校選手権大会』)”の3回戦。その試合が『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』である。本映画の“視点人物”である音駒高校・孤爪研磨と主人公である烏野高校・日向翔陽との出会い、研磨と幼馴染の音駒高校キャプテン・黒尾鉄朗との幼少時代のエピソード、夏の合同合宿での台詞が、ネットを挟んだミドルブロッカー同士(烏野:月島 蛍/音駒:黒尾)の会話に使われるなど、丁寧に人物像、チーム同士の関係性を描写しており、原作やテレビアニメを追っていない人が鑑賞しても、置いてきぼりにならないと思う。むしろ『ハイキュー!!』を知らない人の入り口にベストの映画だと考察する。

 『ハイキュー!!』は、ひとことで言ってしまえば、古豪・烏野高校バレー部の復活劇だが、そこにSPYAIRというバンドのこの数年の歴史が重なってくる。2022年に新ボーカルを探すためYouTubeチャンネル『スパイエアー、ボーカル探してます。』を立ち上げた“決して屈しない”アクション。UZ(Gt/Prog)、MOMIKEN(Ba)、KENTA(Dr)の3人は、SPYAIRを繋ぐために、大きく“オープントス”をあげたのだ。そのトスで見事にスパイクを決めたのが新ボーカルのYOSUKEである。

 SPYAIRは、テレビアニメ『ハイキュー!!』シリーズにおいて、第1期オープニングテーマ「イマジネーション」(2014年)、第2期オープニングテーマ「アイム・ア・ビリーバー」(2015年)、第4期エンディングテーマ「One Day」(2020年)を担当。2024年2月14日にリリースされたEP『オレンジ』には、新曲「オレンジ」の他、歴代の『ハイキュー!!』シリーズのテーマソングのニューバージョンが収録されている。1曲ずつ触れていこう。

 「イマジネーション」は、爽快なアップチューン。2010年にメジャーデビューしたSPYAIRは、デビュー当初はラウドロックやメタルなどの影響を感じるヘヴィなリフが印象的な楽曲が多かったが、「イマジネーション」ではクリアなバンドサウンドを聴かせるようになってきている。「アイム・ア・ビリーバー」は、サビ前のフックになるようなメロディが個性的でUZの作曲の才能が見える1曲。ギターソロなどで前述した音楽的ルーツをしっかり聴かせつつ、〈IʼM A BELIEVER〉のリフレインで終わる。サウンド自体のストーリー性とメリハリもいい。「One Day」は、伸びやかなメロディが駆け抜けていくスケール感あるアップナンバー。メロディの一部を叫ぶコーラスが掛け声のように繰り返される構成が、己を鼓舞しているように感じられるエモーショナルな1曲だ。

SPYAIR『イマジネーション - New Version -』Music Video

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