連載『lit!』第98回:米津玄師、BUMP OF CHICKEN、幾田りら&ano……今春の映像作品を彩るロック5作品

 週替わり形式でさまざまなジャンルの作品をレコメンドしていく連載『lit!』。この記事では、この春にリリースされた国内のロック作品を5つ紹介していく。

 今回は、この春から放送開始となったアニメやドラマ、公開された映画の主題歌というテーマを据えて、米津玄師「さよーならまたいつか!」、BUMP OF CHICKEN「邂逅」、ano「絶絶絶絶対聖域 feat. 幾田りら」、幾田りら「青春謳歌 feat. ano」、コレサワ『日々愛愛』をピックアップした。

米津玄師「さよーならまたいつか!」

 ソングライターには、それぞれに自らの強みを発揮できる得意ジャンルがあり、それと同じように、その人が得意とするソングライティングの筆致がある。米津玄師は、壮大で、深淵で、ドラマチックな、つまりはリスナーの心を強く震わせるエモーショナルな楽曲を綴ることに極めて長けたソングライターである。近年の楽曲で言えば、「M八七」、「KICK BACK」、「月を見ていた」は、まさに彼が得意とする劇的な筆致を最大限に活かした楽曲だった。その一方、まるで一筆書きのような軽やかなタッチを兼ね備えているのが彼のソングライターとしての強みでもある。昨年リリースされた「LADY」がそうであったように、今回の新曲もその系譜に連なる一曲と言えるだろう。

米津玄師 - さよーならまたいつか! Kenshi Yonezu - Sayonara, Mata Itsuka !

 思わず軽快にステップを踏みたくなるようなダンサブルなトラックに颯爽としたフィーリングを放つ歌が重なるポップソングで、NHK連続テレビ小説『虎に翼』の主題歌として半年にわたり毎朝テレビから流れる楽曲として、この“軽やかさ”を求めたことはとても正しい選択であると思う。もちろん、単に軽い気持ちで聴き流せる楽曲かと言えば決してそうではない。この曲の歌詞は、日本初の女性弁護士のひとりである三淵嘉子をモデルにした主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)の切実な生き様と深く響き合っている。たとえば、〈口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く〉という一節は、数々の苦難や葛藤を抱えながら法曹界で奮闘する寅子のタフな精神性を言い表しているようにも思う。また、〈人が宣う地獄の先にこそ わたしは春を見る〉という一節からは、未来の後進たちのために懸命に新しい道を切り開き続けるという、深い意志も感じ取ることができる。そして、この曲の大切なキーワードになっているのが、〈100年先〉という言葉だ。名もなき先人たちの血と汗と涙があったからこそ築かれた今があり、その意味で言えば、100年先の未来を形作り、彩っていくのは、今を生きる私たち自身である。この歌には、ドラマの物語とのリンクを超えて、一人ひとりのリスナーに遥か先のビジョンを示し、奮い立たせる力がある。朝ドラ主題歌を飛び越え、これからさらに広く長く愛され続けていく楽曲になる予感がする。

BUMP OF CHICKEN「邂逅」

 現在公開中の映画『陰陽師0』の主題歌。原作は、呪いや祟りから都を守る陰陽師の活躍を描いた夢枕獏による小説『陰陽師』シリーズ。主人公・安倍晴明が、貴族の源博雅とともに数々の怪異的な事件に挑んでいく物語で、今回の映画では晴明の若き日を描いたオリジナルストーリーが展開される。映画『陰陽師0』は、陰陽寮の学生である晴明(山﨑賢人)を博雅(染谷将太)が訪ねるところから始まる。このふたりの出会いこそが、シリーズの“エピソード0”にあたる今作で描かれる大切なテーマのひとつであり、今回BUMP OF CHICKENが手掛けた主題歌のタイトル「邂逅」は、まさに“出会い”を意味する言葉だ。そしてそれは、これまでBUMPが数々の楽曲を通して歌い続けてきた一貫したテーマでもある。

BUMP OF CHICKEN「邂逅」×映画『陰陽師0』コラボレーションMusic Video

 「ray」、「Gravity」、「窓の中から」などが象徴的なように、藤原基央(Vo/Gt)が歌う“出会い”は常に“別れ”と表裏一体であり、だからこそ、BUMPの楽曲のなかで描かれる“出会い”はどうしようもなく切ない。それは今回の新曲「邂逅」についても同じで、冒頭で歌われる〈必ずもう一度逢える〉という言葉、また、美しく勇壮なメロディに乗せて歌われる〈私を孤独にするのは何故 離れたとも思えないのは何故/あなたに穿たれた心の穴が あなたのいない未来を生きろと謳う〉というサビの一節は、“出会い”よりもむしろ、その先に否応もなく訪れる“別れ”の切なさにフィーチャーしている。この楽曲のシリアスなサウンドには、その喪失を抱えたまま生きていこうとする意志も滲むよう。ただ、この歌は決して悲観的なものではなく、ラストは冒頭と同じ〈必ずもう一度逢える〉という言葉によって締めくくられる。その言葉は、まるで未来への願いや約束のように響いていて、切なさの先にある希望のフィーリングを豊かな実感を通して伝えてくれる。“出会い”があれば、“別れ”もある。それでも、〈必ずもう一度逢える〉のだ。眩い可能性を高らかに謳うこの曲に、勇気をもらい、奮い立たされる人はきっと少なくないと思う。

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