ぜったくん&ゆいにしお、初コラボ曲「Pizza Planet」が生んだ化学反応 対談で語るメロディセンスの共鳴
親密にはなっていない、ギリギリのラインを保ちたかった(ぜったくん)
――なるほど、春の明暗について考えたと。でも、そこから今回の曲のテーマ「ピザ」に至るには少し飛躍を感じます。
ぜったくん:僕がピザのアイデアを出したんですけど、やっぱり食べ物のテーマがいいと思って。別に春が関係しているわけではないんですけど「春の食材ってなんだろう?」って考えてみたりして。アスパラもいいな、とか。
ゆいにしお:ど年末に「アスパラって好き?」ってLINEがきましたね。「うん、好き」って返信して(笑)。
ぜったくん:そうそう。アスパラはアスパラで、曲自体はすごく春っぽいものができあがったんだけど、どうも最後の一押しが足りなくて。そこで「ピザパーティーのイメージだ!」ってひらめいたんですよ。学生の時に一人暮らしの友達の家でピザパーティーをした懐かしい記憶が蘇ってきて。喋るか喋らないかぐらいの距離感の人がいるような、そんなピザパーティーのイメージがいいかもしれないって。それであらためてゆいにしに「ピザって好き?」ってLINEしたんです。
ゆいにしお:アスパラのLINEがきた直後に、今度は「ピザって好き?」って。ちょうど『紅白歌合戦』を観てるくらいのタイミングで(笑)。
ぜったくん:それで、テーマはピザでいこうってなりました。
――ピザを媒介にして男女の出会いを描いた春らしい曲、というコンセプトができあがって、そこからさらにピザを惑星に見立てたSF的なストーリーへと発展していくという。
ぜったくん:これは僕が考えたんですけど……考えたというか、正確にはサンプリングみたいなことになるんですよ。映画『トイ・ストーリー』に「ピザ・プラネット」という宇宙ステーションをモチーフにしたピザレストランが出てくるんですけど、その世界観がすごく好きなんです。1980年代の人たちが思い描いていたような近未来。今となってはありえないけど、車が空を飛んでいるみたいなあの感じ。そういう近未来の世界観が大好きだから、その要素を入れちゃおうと思ったんです。
――おふたりの出会いからコラボに至る経緯、そして曲の舞台設定からものすごく甘酸っぱいですよね。映画だったり漫画だったり、なんでも構わないのですが“ボーイミーツガール”的な題材はお好きですか?
ゆいにしお:大好物ですね(笑)。
――そういう世界観がお好きなんだろうな、というのは曲の細部からばっちり伝わってきます。
ぜったくん:たとえば曲中に笑い声を入れたりもしたんですけど「これは恋が芽生えちゃっている笑い声だね」「これだと関係性が進展しすぎだから、もうちょい空気感を戻そう」とか、笑い声のさじ加減ひとつとっても結構緻密に詰めていって(笑)。そこまで親密にはなっていない、ギリギリのラインを保ちたかったんですよね。
――登場人物のキャラクターやバックグラウンドもそれなりに作り込んでいそうですね。
ぜったくん:そうですね。設定としては新入社員で。気になる同僚がいるんだけど、全然話す機会がないなかでピザパーティーを開催することになるんです。それで誰かしらの家に6、7人ぐらいで集まってピザパーティーを開いてはみたものの、その時はあまり話せずに終了。ただ、お互いにもっと話してみたかったとは思っていて。今度はふたりだけでピザパーティーをしたいなってほんわか考えていて――というような設定ですね。男の子は奥手なんだけど、結構熱いものがあるというか(笑)。
ゆいにしお:女の子も奥手の設定で。気になってる男の子に直接アプローチするのではなく、まずはSNSを調べたり妄想をしてみたり。あんまり直球に行動を起こす感じではなくて。
――ゆいさんの歌詞では〈シャワーも浴びずにベッドへダイブ!/2缶目をあける〉の部分だったり、男が抱きがちな女の子幻想をどんどん破壊していく感じがいいですよね。ゆいさんはご自身の「TWO HANDS」でも〈フラフラ 缶チューハイ/ぽちぽち ネットショッピング 開きすぎたタブ/消化できない夜も愛おしいね〉と歌っていましたが、お酒の使い方もすごくうまくて。
ぜったくん:〈ぬるいビール飲み干して〉の部分とか、まさにそうですよね。時間の経過を感じるし、いろいろとイメージを掻き立てられるものがある。
ゆいにしお:ありがとうございます(笑)。
――実作業はどのように進めていったのでしょう?
ぜったくん:僕のほうで大体の構成を組んで、それをまず共有して。そのあとに一緒にスタジオに入りました。そこでいろいろとメロディのアイデアを出してもらったりして。歌の録音も一気に済ませて最終的にピザを食べて解散、みたいな。
――実際にふたりでピザを食べたことの成果は、何か曲に反映されていますか?
ぜったくん:ピザの空箱をパーカッション代わりにしてレコーディングしてみたり。今回のレコーディングで新しいソフトを試してみたかったんですよ。iPhoneで録音した日常の音を勝手にビートにしてくれるソフトがあって。
ゆいにしお:「イエーイ!」なんて言いながら叩いていたらビートになっているんですよ。
ぜったくん:でも、「イエーイ!」はふたりの設定的に距離が近すぎるだろうということでNGになりました。
ゆいにしお:ちょっと仲良くなりすぎたよね(笑)。
ぜったくん:そう、そこは維持しないと(笑)。
――お話を聞いているとかなりスムーズに完成した印象を受けますが、特に苦心したことはなかったですか?
ぜったくん:強いて言うなら曲の冒頭の部分ですかね。あとはテーマを決めるのにちょっと悩んだぐらい。かなり早く進みました。
ゆいにしお:こういうかたちで共作した経験がなかったので最初は不安だったんですけど、まったくの杞憂に終わりました。めちゃくちゃ楽しかったですね。
ぜったくん:ギターだけになる落ちサビのゆいにしのパートがあるんですけど、そこで彼女が提案してくれたコードがすごくよくて。ふた回し目からコードが展開していくんですけど、僕だったら絶対に思いつかなかったですね。最初に聴いた時点で「それヤバいね!」ってなって。
ゆいにしお:単に遊んでいたら採用されただけなんですけどね(笑)。うれしかったです。
――一方が用意したステージに乗っかっただけでなく、お互いの音楽性が有機的に絡み合ったコラボレーションが達成できたと。他にこだわった点はありますか?
ぜったくん:やっぱり宇宙感みたいなものを出したくて。SFっぽい「ビヨ〜ン」みたいな音がすごく好きなんですけど、お互いの掛け合いのところの裏でめっちゃ鳴らしてみました(笑)。そういうスペーシー感みたいなところかな?
ゆいにしお:私は主に歌詞の部分ですね。制作途中にぜったくんから「春っぽい要素を足そう」みたいなアドバイスを受けて、それで歌詞に〈ぬるいビール〉を春の要素として加えてみました。どうやって春っぽさを出すかを考えた時、やっぱりあからさまに桜とかは出したくないし、もし桜に触れたとしてもピザのテーマを邪魔しかねないから、じゃあ気温や温度で春を表現できたらなって。
ぜったくん:繰り返しになりますけど〈ぬるいビール〉の部分はすごく好きですね。それぞれのぬるいビールにまつわるエピソードを思い出すことになるんじゃないかな。本当に素晴らしい。