BREIMENは踊らせるだけのバンドではない 強靭なグルーヴの奥にある“現実と向き合う眼差し”
アバンギャルドを繰り広げるその奥で“人生を見つめる姿”
アルバムの後半に入っていくと、その翻弄ぶりはますます手がつけられないものになっていく。先行シングルとしても発表された「T・P・P feat.Pecori」から「寿限無」の流れは本作の中でも屈指のブッ飛んだゾーンだ。本当に同じ曲かどうか再生画面を二度見してしまうくらいに自由な楽曲展開を繰り広げながら、冴え渡るビートメイクのセンスとPecoriのラップの相性(あと元ネタの解釈の仕方)にも魅了される「T・P・P」がとんでもないのは間違いないのだが、筆者としては「寿限無」にすっかりやられてしまった。楽曲名の時点で「まさか」とは思ったのだが、予想通り、日本でも有数の長い名前として知られる“あの言葉”が怒涛のファンクサウンドとともに襲いかかってくる。4/4拍子も鮮やかに破壊しながら、あの言葉に合わせて的確にキメを連発してファンクの興奮を作り上げてしまうその手腕はまったくもって異常という他ない(中盤に用意されたジャジーなパートで、ボーカル&ベースの高木祥太が美しく歌い上げる言葉にも笑ってしまう)。ある意味一発ネタのような曲なのだが、だからこそバンドの持つアバンギャルドな魅力を分かりやすく実感できるのではないだろうか。
だが、アルバムの終盤に入ると、やはり徐々にメランコリックな側面が顔を出していく。BREIMEN式ハウスミュージック解釈とも言える「魔法がとけるまで」は、巧みなホーンアレンジも相まってダンスミュージック単体としても機能するのではないかと思えるくらいに見事な仕上がりとなっているのだが、そこで描かれているのは、現実から逃避して夢の世界でダンスを続けようとする二人の姿だ。現実からの逃避というテーマは「乱痴気」などでも描かれていたものだったが、近年の海外のポップミュージック、あるいは映画やドラマにおいても現実逃避(Escapism)的な作品が強く支持されるようになっている。というより、現代において人々を楽しませる場合、必然的にその方向へ向かっていくと考える方が自然なのだろう。本作もそんな逃避で心地良く終わらせることもできたのだろうが、BREIMENはその選択を選ばなかった。
スウィートなホーンの音色や美しいギターの音色、巧みなアレンジなどでどこまでもドリーミーな世界を演出する「yonaki」は、まるで「魔法がとけるまで」における夢の中で踊っている二人の現実の姿を描いたような楽曲だ。少しだけ現実感が薄れた夜明け前の時を迷い、泣きながら過ごす二人の姿は、夢の中で過ごす楽しさを丁寧に描いているからこそ、よりリアルで、感情を丁寧に刺激する。どれだけアバンギャルドでフリーキーな世界を描いても、それはあくまで現実の狭間でしかない。そして、今を生きるということは辛いことである。そんな容赦のない事実を改めて感じながら、アルバムの最後を飾る「L・G・O」へと向かっていく。
まるで弾き語りのように、アコースティックギターの音色をバックに歌が始まる「L・G・O」は、他の楽曲に見られたような様々な仕掛けに満ちた楽しさとは距離のある、しっかりと言葉を聞かせることに重きを置いた真っ直ぐな楽曲だ。いつの間にか“過去”になってしまったものや、年を重ねた周りや自分自身の姿を想う中で抱くやるせない感情。それは歌が終わった後の演奏へと受け継がれ、サックスのソロが堪えていたものを爆発させる。そうして、鮮やかにカーテンの幕が下りるのだ。
『AVEANTIN』に詰まっているのは、言葉と音を巧みに操りながら縦横無尽に聴き手を翻弄し、今まで感じたことのない強烈なグルーヴで人々を猛烈に踊らせるBREIMENの魅力に他ならない。BREIMENといえば、確かな演奏技術とセンス、ユーモラスな遊び心のエッセンスを加えたクールでキャッチーなサウンドが持ち味だが、メジャーデビューアルバムとなる本作は、これまでの作品で最もキャッチーな楽曲が詰め込まれた会心の仕上がりであり、難しいことを考えずとも最高に踊れる一枚となっている。
だが、そこで終わらないのがBREIMENの凄みだ。というより、きっとそれだけでは彼らは満足することができないのだろう。気づけば「安心できる心地良さ」に溺れてしまう、私たちが籠る“泡”に対して、彼らは軽やかに針を突き立てるのだ。たくさんの現実逃避先が溢れる中で、彼らはその楽しさを確かに提供しながらも、最後はあくまで現実へと眼差しを向けようとする。
「技術とセンスに裏打ちされた、キャッチーで踊れるサウンド」という言葉は、BREIMENにとってはあくまで前提でしかない。土台をしっかりと固めた上で、彼らは捻りの効いたユーモアと、無尽蔵に溢れ出てくる好奇心とピュアな遊び心、そして現実に対するシビアな眼差しをハイブリッドして、前へと進むためのパーティを作り上げているのだ。それこそがBREIMENが現代を代表するアーティストであり、今の音楽シーンに変革をもたらす存在だと言える理由なのである。
◾️リリース情報
BREIMENメジャー1stアルバム『AVEANTIN』
2024年4月3日(水)発売
・通常盤(CD only):¥2,980(tax in)
・初回生産限定盤(CD+Blu-ray):¥5,980(tax in)
配信:https://VA.lnk.to/9yYbfc
<収録曲>
M1. a veantin
M2. ブレイクスルー
M3. 乱痴気
M4. ラブコメディ
M5. 眼差し
M6. LUCKY STRIKE
M7. T・P・P feat.Pecori
M8. 寿限無
M9. 魔法がとけるまで
M10. yonaki
M11. L・G・O
<Blu-ray収録内容>
・LA滞在ドキュメンタリー
・『BREIMEN ONEMAN TOUR「COME BACK TO BREIMEN JAPAN TOUR 2023」』東京公演ライブ映像
■ライブ情報
『BREIMEN MAJOR 1st ONEMAN TOUR「AVEANTING」』
4月19日(金)東京 人見記念講堂
4月26日(金)札幌 sound lab mole
5月10日(金)仙台 Rensa
5月18日(土)大阪 なんばHatch
5月24日(金)金沢 AZ
5月31日(金)福岡 BEAT STATION
6月1日(土)広島 LIVE VANQUISH
6月7日(金)名古屋 ボトムライン
<チケット>
東京公演
一般:¥6,000(tax in)
学割:¥4,500(tax in)
<その他公演>
一般:¥5,000(tax in)
学割:¥3,500(tax in)
ライブ詳細:https://www.brei.men/live/detail/?id=51656