美波、デビューから5年かけて辿り着いた日本武道館で何を歌い届けたのか? “これまで”と“これから”を繋いだ夜

美波、5年かけてたどり着いた日本武道館

 3月30日、美波の初の日本武道館公演『美波「JOYINT in Nippon Budokan」』が開催された。美波は、路上での弾き語りから活動をスタートして、2019年のデビュー以降、ひとつずつライブ会場をステップアップしながら支持を拡大し続けてきた。YouTubeのチャンネル登録者数が140万人を突破していることからも明らかなように、今や彼女はシーンにおいて大きな存在感を誇るアーティストのひとりでもあるが、ライブ以外の場では顔を出していないため、もしかしたら彼女に対してミステリアスなイメージを持つ人も多いかもしれない。今回は、デビューから約5年をかけて辿り着いた彼女の夢の舞台である日本武道館公演の模様を振り返っていく。

photo by Naoto Nagumo

 オープニングナンバーは、「Prologue」。美波は、快活に弾けるバンドサウンドに乗って、ギターを力強く掻き鳴らしながらエモーショナルな歌声をめいっぱい響かせていく。スクリーンに表情が映されることはないが、その歌声から、彼女の胸の内で昂る感情のダイナミックな起伏が手に取るように伝わってくる。間奏における勇壮なコーラスパートでは、観客による歌声が重なり、まだ幕が開けたばかりであるにもかかわらずまるでクライマックスのような熱狂が会場を満たしていく。続けて「君と僕の154小節戦争」を披露した美波は、「5年かけて辿り着くことができました」と力強く告げた。

photo by Yuto Ishikawa

 その力強さを垣間見せる一方で、満員の客席を前にして「歌えなくなっちゃう、みんな泣かさないで」と本音を漏らす一幕もあった。そうした赤裸々なMCを受けて会場全体から温かな拍手が送られる。次に、朝の情報番組『グッド!モーニング』(テレビ朝日)の新テーマソングに起用された新曲「Good Morning」が初めてフルで披露された。瑞々しく躍動するバンドサウンドのなかを凛とした歌のメロディがしなやかに響く一曲で、彼女の新境地を感じさせるナンバーだった。

photo by Naoto Nagumo

 ここから、ロックテイストの強い楽曲が立て続けに披露されていく。バンドメンバーによる演奏は、美波の歌を影から引き立たせる役割に徹するのではなく、それぞれの音が強烈な存在感を放ちながらスリリングに絡み合うことで熾烈なバンドアンサンブルを生み出していて、その演奏と美波の歌が重なった時に生まれるケミストリーは本当に圧巻。特に、「グッドラッカー」の終盤、熱く昂る演奏に呼応するように、超ロングフェイクを響かせることによって言葉にならない想いを伝えていく展開に痺れた。

photo by Naoto Nagumo

 ここで、幕間映像へ。ギターを背負い、東京の街を歩く美波。これまでライブを行ってきた会場をひとつずつ巡っていき、最後に武道館へと辿り着く。そして映像が終わるのと同時に、アリーナ上手の扉から美波が登場し、観客とハイタッチしながらアリーナ中央に設置されたセンターステージへ。このセンターステージは、初めてワンマンライブを行ったShibuya eggmanのステージと同じ大きさ、高さであり、美波は「初心に返ってみんなと近い目線で歌うため」にこのステージを用意したという。

 そして彼女は、これまでの歩みについて振り返った。「これで最後にしよう」という想いで臨んだSHIBUYA TSUTAYA前の路上ライブで今のマネージャーと出会い、そこから今に続く物語が始まったこと。その過程で、たくさんのファンと出会えたこと。「みなさんを連れて来れたこと、連れて来てもらえたこと――心から感謝してます」。万感の想いを語った美波は、「私がひとりぼっちだった頃の歌をここで歌わせてください」と語り、アコースティックギターの弾き語りで「main actor」を披露。続けて届けられた「正直日記」では、曲の後半からメインステージに再登場したバンドメンバーの演奏が重なるアレンジが施される。正直に、まっすぐに生きてきたからこそ出会えた仲間がいて、そうした歩みのすべてがこの武道館へと繋がっている。そう強く感じさせる名演だった。

photo by Naoto Nagumo

 メインステージへ戻り、ここからストリングス隊を迎えたこの日ならではの編成で「アメヲマツ、」「DROP」「この街に晴れはこない」「水中リフレクション」の4曲が披露された。ストリングスが加わったことによってサウンドが厚くなったとしても、美波の歌の存在感は不変だ。何より、美麗なストリングスの調べとの相乗効果によって、楽曲のスケールが壮大に広がっていく展開にグッと引き込まれた。続けて、美波はファンからのリクエストを受けてピアノを練習してきたと語り、自らピアノを弾きながら「タイムグラム」を披露した。彼女の鍵盤捌きは堂々たるもので、今後もこのスタイルのライブパフォーマンスが続いていくことを期待した人は多かったのではないかと思う。

photo by Yuto Ishikawa

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