香取慎吾の「久しぶり」と思わせない力 『仮装大賞』と『行列のできる相談所』を振り返る

 香取が萩本と出会ったのは、彼が17歳の時。1994年の『よ!大将みっけ』(フジテレビ系)まで遡る。そこで香取は収録が終わるたびに萩本からさまざまなことを教わったと、インタビューでも語っていた。なかでも、香取の心に強く残っている学びは「テレビはあくまでもショーだ」という言葉だとも。

 出演者の素のリアクションや人間的な繋がりが見えながらも、テレビ番組である以上“ショー”として完成させるということ。香取の「プライベートに仕事を持ち込みたくない」という仕事の流儀も、ショーという作品を作る意識が徹底しているためではないだろうか。どこまでがショーで、どこまでがプライベートか。線引きが見えなくなる仕事だからこそ、そこのラインを自分なりに決めて取り組んできたのかもしれない。

 一方で、萩本としても香取の決めたブレないラインにやきもきしたこともあったようだ。萩本は香取とタッグを組んだ時、すぐにでも『仮装大賞』を託したい思いがあったそう。だが、香取は萩本と一緒にやっていきたいという思いから、長年萩本から一歩下がってのライン取りを徹底してきたのだ。

 しかし今回、意を決して『仮装大賞』の場にやってきた萩本に、香取は初めてそのラインを超えたパフォーマンスを見せることになる。一緒にやっていきたい気持ちは変わらない。けれど、萩本への負担を減らす形で続けていきたい。そうした思いから、香取はラインをもう一歩だけ前に進めることに決めたのだろう。

 そんな香取の気持ちを、萩本も嬉しく思ったようで、得点の集計中にこんな言葉を語った。「慎吾って俺のアドリブ中、絶対前に出なかったの。今日は俺、ほったらかしで本気で喋ってんの。こんな面白い慎吾、初めて見たよ。そこがたまらなくかわいくて好きなんだ」。

 そして萩本の声に香取も「今日はちょっと頑張らなきゃなと思ってね、ちょっと頑張ったの。そしたら欽ちゃんが、『今日は全然違う、いいぞ』って途中言ってくれて。『初めてだよ、こんなにいいと思ったの』。もう20年以上やってんのに。初めて褒められたよ!」と照れくさそうに笑うのだった。

 なかでも特に微笑ましく感じたのが、次回の出場者募集の時のやり取りだ。もしかしたら萩本は、次回は出られるかわからないとでも思ったのだろうか、カメラからフェードアウトしようとする。しかし、香取はその動きを見逃すことなく、カメラと共に萩本のほうへと寄っていく。まるで「次回もあるからね」と念を押すように。

 対して萩本も、「今どいてるのに、寄ってくるな!」と香取を押し返すのだ。本音がぶつかり合う素のやり取りでもあり、まるで台本があるようなコントのようでもある、まさに2人ならではの“ショー”だと思った。

 時を経ても「変わらないね」とそのラインにホッとしたり、あるいは相手を慮って少しだけそのラインが動いたことに感動させたり……。香取の引くブレないラインが、出演者や視聴者に「久しぶり」の壁を作らせない。昨今、なかなか世代を超えてひとつの番組を楽しむことが難しくなっているなかで、香取慎吾がテレビに映る安心感は、その「久しぶり」をもショーにできるスタイルにあるのではないかと感じた。

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