香取慎吾と寺山修司、“表現者としての宿命”への共鳴 自分と他者と世界へ問いかけ続ける姿の重なり
香取慎吾主演の舞台『テラヤマキャバレー』が2月9日より東京・日生劇場にて開幕した。本作は、鬼才・寺山修司の生涯と残された数々の名言を題材に、彼の脳内にあるキャバレーを舞台に虚と実、過去と未来、生と死が交錯する意欲作だ。
開幕前日の2月8日に行われた舞台挨拶&公開ゲネプロで、香取は開口一番「みなさんこんにちは、香取慎吾です」と聞き慣れた挨拶をして取材陣の笑いを誘った。だが、その表情はいつになく少々険しい。そして「いつもの“慎吾ちゃん”とはちょっと違う様子で、この日生劇場の舞台に立っています」と続けた。それが俳優としての初日を迎える直前の“必死な”表情なのか、それとも寺山修司という役を通じて引き出された新たな顔なのか、さっそく想像力を掻き立てられるようだった。
上演時間は約2時間40分。香取が演じる寺山は矢継ぎ早に言葉を発し、感情を爆発させながら、命が燃え尽きる直前の数時間を駆け抜ける。死をも感動させる作品を生み出そうと、自らの人生を振り返り、日本の芸能を遡り、そして現代の日本を憂うのだ。まさに死を目前にした人間の悪夢を共に彷徨うような混沌とした時間。そして、人間の生命が持つ底知れぬエネルギーに触れる体験ができた舞台に、香取が険しい顔をしていた理由が少しわかったような気もした。
2023年に没後40周年を迎えながらも、いまだに多くの人の心に響き続けている寺山の言葉たち。もし寺山が今生きていたら、何を思い、そして何を表現しようとしたのか……。そんな問いに思いを巡らせる形で紡ぎ出された本作を観ているうちに、ふいに香取と寺山が共鳴する瞬間を目の当たりにすることができた。
型破りでスキャンダルには事欠かなかったという寺山修司と、“パーフェクトビジネスアイドル”を貫く香取慎吾。一見すると、相反するかのように思えるふたりだが、その生き様を振り返れば、いろいろな手法で膨大な数の作品を生み出したマルチクリエイターという共通点が浮かび上がる。
詩を詠み、劇を作り、歌に言葉をのせる。紙面、テレビ、ラジオ、舞台、映画……と、その活躍の場も実に様々だった寺山。対する香取も、アイドル、タレント、俳優、舞台演出家、画家など、多くの顔を使い分けてきた。自ら「WHO AM I ?」と問いかけたくなるほどに。
そんな香取が、劇中で「職業は寺山修司」と叫ぶ印象的な台詞がある。これは、寺山の名言として語り継がれている言葉のひとつだが、彼が生涯自らに問い続けてきた「私とは誰か?」に対する答えのひとつだったとも言われているから感慨深い。そっくりそのまま「職業は香取慎吾」と入れ替えても納得してしまいそうなものだと思った。