King Gnu、Vaundy、YOASOBI、Ado……表現の個性や美学が詰まったユニークなCD特典

 シングルやアルバムなどCDの特典といえば何を思い浮かべるだろうか。ライブ映像やMVを収録したDVDやBlu-ray、あるいはステッカーやジャケット写真を使ったポストカードなどの雑貨が定番だろう。しかし、本稿では必ずしもそこに当てはまらない一風変わった特典を紹介する。手に取れば必ず、アーティストたちの作品に対する想いを感じ取れるはずだ。読んだ後、すぐにCDショップへ駆け込みたくなるだろう。

King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』(2023年11月)

 King Gnuにとって4枚目のフルアルバムには、タイアップのシングル曲を多数含めた全21曲が収録されている。だが、ボリューミーなのは楽曲だけではない。初回生産限定盤には、楽曲ごとに異なるアートワークや歌詞カードが同封されている。冊子になっている通常の歌詞カードとは異なり、全てが美術館で展示されている“作品”のようだ。

 例を挙げると、『劇場版 呪術廻戦 0』のエンディングテーマ「逆夢」の歌詞カードは、縦書きの筆文字手紙となっている。乙骨憂太が祈本里香へ、五条悟が夏油傑へと、登場人物それぞれが特別な人に宛てた“手紙”のように思えるアートワークだ。また、「BOY」は小学生の夏休みの宿題のような絵日記調、「IKAROS」はギリシャ神話のイカロスに関連したような太陽が描かれたタロット風、「SPECIALZ」は脳みそに歯が描かれたデザインのポストカード風となっており、楽曲ごとの特徴がはっきりと表れている。

 King Gnuはハイクオリティな映像表現のMVが毎回話題になっており、「):阿修羅:(」ではPlayStationとのコラボレーションも実現。そうしたアート性の高い見せ方でリスナーを魅了してきたからこそ、本作はKing Gnuのクリエイティビティをさらに深く味わえるパッケージだと言えるだろう。

PlayStation × King Gnu| Special Collaboration Movie

YOASOBI『勇者』(2023年12月)

 アニメ『葬送のフリーレン』のオープニングテーマ「勇者」を収録した完全生産限定のパッケージとなる本作には、アニメにリンクした特典が付属している。それが、漫画原作者・山田鐘人が監修している楽曲の原作小説『奏送』。巻物風になっており、いかにも小説を楽曲化するというコンセプトで活動しているYOASOBIらしい特典だ。『【推しの子】』のオープニング主題歌「アイドル」にも、赤坂アカ書き下ろしの原作小説『45510』があるように、あくまでもアニメや漫画ではなく、“小説”がオリジナルとなってYOASOBIの楽曲は生み出されていることが改めてよくわかる。

YOASOBI「勇者」 Official Music Video/TVアニメ『葬送のフリーレン』オープニングテーマ

 また本作は、主人公である魔法使いのフリーレンが使用しているようなアンティーク調の宝箱仕様で、魔導書風デジパックも同封されているなど、原作の世界観を忠実に届けるパッケージとなっている。こうした特典内容からは、小説を楽曲化する上でYOASOBIがいかに原作のイメージを重んじているかがよくわかるだろう。YOASOBIは基本的にシングルCDをリリースしていないため、このように充実したパッケージで発売されることで、楽曲が物語の一部であることや、その世界観を尊ぶという彼らの徹底した姿勢を感じることができる。

Vaundy『replica』(2023年11月)

 Vaundyにとって2枚目のアルバムは、未配信曲や新曲で構成されたDisc 1と、前作『strobo』(2020年)以降の3年半に及ぶ配信シングル曲が収録されたDisc 2による2枚組で構成されている。

 タイトルに“複製品”という意味を持つ2ndアルバム『replica』では、彼にとっての“ポップミュージックのデザイン性”が表現されている。すなわち、Vaundy自身が様々な楽曲から受けてきた影響を今の時代に合わせてデザインすることで、彼のポップスができ上がっているということであり、インタビューでもジャンルのハブになることへの意欲や、デヴィッド・ボウイの“擬態性”に対して強いシンパシーが語られている(※1)。

ZERO / Vaundy:MUSIC VIDEO

 『replica』の完全生産限定盤は、そうやってデザインされた楽曲たちを、日用雑貨や歯ブラシなどの販売によく使用されるブリスターパックでパッケージすることで、Vaundyなりのポップスの在り方を形にしたものだと言えないだろうか。楽曲だけでなく、自身のアイデアをCDデザインにも落とし込むことで、1つの作品として私たちの思考に訴えかけてくれるのだ。

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