SUM 41とNOFX、『PUNKSPRING 2024』は最後の来日公演に? パンク史に刻んだ功績を辿る

NOFX:Hi-STANDARDのブレイクにも貢献したUSパンクの雄

 続いて、『PUNKSPRING 2024』2日目のヘッドライナーを務めるNOFXについて。1983年にカリフォルニアで結成とその歴史は非常に長く、オリジナルメンバーのファット・マイク(Vo/Ba)やエリック・メルヴィン(Gt/Vo)、エリック・サンディン(Dr)は当時はまだ高校生だった。80年代後半まではメンバーの出入りが何度か続くも、1990年に自主レーベル・Fat Wreck Chordsを設立し、1991年にマイク、メルヴィン、サンディンにエル・ヘフェ(Gt/Trumpet/Vo)という今日までの不動の布陣が固まって以降は、インディペンデント精神を大切にしながら地道な活動を継続している。

NOFX - Linoleum (Live at Resurrection Fest 2014)

 スピード感の強いツービートを軸にした、激しくもポップなパンクサウンドをベースに、スカやレゲエ、カントリーなどのルーツミュージックの要素も散りばめたそのスタイルは、前述したSUM 41を含む後続たちに多大な影響を与え、数年先に結成され長きにわたり同郷のBad Religionとともにシーン確立のために共闘し続けてきた。また、歌詞において母国の政治に対するアンチテーゼを取り入れていることでも知られ、2004年には当時のブッシュ政権への反対表明を示すプロジェクト『Rock Against Bush』を立ち上げ、Green DayやFoo Fighters、SUM 41、The Offspring、Bad Religionなどが参加したコンピレーションアルバム『Rock Against Bush, Vol.1』『Vol.2』も制作された。

NOFX - Seeing Double at The Triple Rock (Official Video)

 NOFXはここ日本でも90年代以降に誕生したパンク/メロディックハードコアバンドのルーツのひとつとなり、中でもHi-STANDARDはマイク主宰のFat Wreck Chordsを通じて『GROWING UP』(1995年。海外発売は1996年。同作はマイクがプロデュース)以降の作品を流通。『GROWING UP』は海外盤も含めると累計70万枚を超えるセールスを記録しており、マイクおよびFat Wreck ChordsはHi-STANDARDが世界へ羽ばたく上で重要な役割を果たした、切っても切れない関係と言える。

Hi-STANDARD - Maximum Overdrive [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

 Fat Wreck Chordsは現在まで、Bad Religionのブレット・ガーヴィッツ(Gt)が主宰するEpitaph Recordsと人気を二分するインディーズレーベルであり、NOFXやHi-STANDARD以外にもAgainst Me!やFace To Face、Lagwagon、Snuff、Strung Outなど海外パンクシーンにおける重要バンドが多数在籍。マイクやFoo Fightersのクリス・シフレット(Gt)、Lagwagonのジョーイ・ケープ(Gt)&デイヴ・ラウン(Dr)などが参加するサイドプロジェクト Me First and the Gimme Gimmesも同レーベルの人気バンドのひとつだ。

 ちなみに、NOFXの初来日は1994年1月。東京公演は新宿LOFTと、その規模は今とは比べられないほど小さなものだった。1995年5月の再来日ツアーにはHi-STANDARDが帯同しており、これがきっかけでのちの『GROWING UP』プロデュースへとつながる。『PUNKSPRING』には2回目の2007年を筆頭に、2009年(SUM 41や盟友 Bad Religionと共演)、2013年、2017年と過去4回出演。2015年11月にはFat Wreck Chords設立25周年を記念したイベント『FAT WRECKED FOR 25 YEARS 〜Fat Wreck Chords 25th Anniversary〜』も幕張メッセで開催されており、NOFXやHi-STANDARD、Lagwagon、Good Riddance、Swingin' Utters、Masked Intruder、Snuff、Strung Out、toyGuitar、Western Addiction、The Flatlinersといったバンドが出演したほか、2012年に急逝したトニー・スライ追悼企画としてNo Use for a Nameのカバーセッションも行われた。さらに、25周年企画としてドキュメンタリー映画『A FAT WRECK:ア・ファット・レック』も制作され、日本でも2017年2月に上映。同年4月にはパッケージ化もされ、日本盤のみの特典としてShun(TOTALFAT)、HAYATO(MEANING)、TAKESHI(SECRET 7 LINE)、川崎英和(Ambience Records)によるオーディオコメンタリーが追加収録された。

NOFX- "Stickin' In My Eye"

 上記のように、特に90年代以降の海外パンクシーンのみならず、Hi-STANDARDを軸にする国内メロディックパンクシーンにおいても重要な役割を果たし、規模の大小に関わらずたびたび日本の地を訪れてきたNOFXも、近年はマイクが解散を示唆。2023年4月からは『40 Years, 40 Cities, 40 Songs Per Day』と題した世界40都市をめぐる、約1年半におよぶファイナルツアーを開催している。今回の『PUNKSPRING 2024』出演はその『40 Years, 40 Cities, 40 Songs Per Day』の一環としての来日であり、当日は約40年におよぶUSパンク/メロディックハードコア史を追体験できる貴重な1日となることだろう。

NOFX(『Vans Warped Tour 25th Anniversary Festival』USA - 21 Jul 2019)

 現時点では今年の『PUNKSPRING 2024』はSUM 41やNOFXに加え、70’s UKパンクのオリジネーター The Damnedから80’s USパンク/ハードコアの礎となったThe VandalsやSuicidal Tendencies、SUM 41と同時期に結成されたZebrahead、そして2010年代に誕生したNeck Deepまで、過去50年近くにおよぶパンクロックの歴史を総括するようなラインナップとなっている。世代こそ異なるものの、今日までパンクシーンを魅力的に彩ってきたSUM 41とNOFXを日本で観ることができる最後の機会かもしれない。両バンドのファンのみならず、パンクロックを愛する者にとっても見逃せない2日間になりそうだ。

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