くるり、ドラマー2人編成で鳴らした過去と現在 『感覚は道標』ツアーが示すリズムの重要性

 後半パートでは「琥珀色の街、上海蟹の朝」や「There is (always light)」といった人気曲も交えつつ、レコーディングでもクリフが叩いている「地下鉄」で手数の多いド派手なプレイを披露すると、本編のラストナンバーに選ばれたのは「HOW TO GO」。この曲はもともとクリフとともにグラスゴーで録音されたものの、「ドラムが上手すぎてイメージと異なる」という理由で、シングルでは岸田の打ち込みによるバージョンが表題曲として採用され、『アンテナ』では当時メンバーだったクリストファー・マグワイアが演奏したバージョン「HOW TO GO〈Timeless〉」を収録。よって、同バージョンの冒頭で「Here We Go Rock’n’Roll!」と叫んでいるのはクリストファーだが、この日はクリフがこれに習う形で演奏をスタートさせ、ここでも過去と現在の繋がりを感じさせた。

野崎泰弘

 アンコールではクリフだけでなく再び森も加わって、『感覚は道標』から「お化けのピーナッツ」と「世界はこのまま変わらない」を披露。個人的には「お化けのピーナッツ」が出色の出来で、サルサやサンバを感じさせるそのリズムは、くるりの結成年である1996年リリースのLos Lobosによる傑作『Colossal Head』を連想させたりもした。ラストを飾ったのは「ロックンロール」。12月9日に日比谷野外大音楽堂で行われた踊ってばかりの国のライブでは、ラストナンバーの「Boy」で下津光史が「ロックンロール」を一節口ずさんだことがとても印象的だったのだが、この曲のアウトロでは岸田がストラトキャスター、松本がレスポールで、延々長尺のソロを弾き倒し、あの日の下津のように「ロックンロール!」と大声で叫びたくなるような名演だった。

松本大樹

 最後は岸田、佐藤、森の3人のみがステージに残り、メジャーデビューシングルのカップリングと表題曲である「尼崎の魚」と「東京」を演奏。岸田が「この3人は大学の同級生で、同じサークルで活動を始めて、その後いろいろあって、彼(森)も辞めて、そこからいろんな人が出たり入ったりしながら、今に至っていて」と話し始め、「今回ただただ3人で集まって新しいものを作って、すぐまた一緒に演奏するかもしれないし、しないかもしれないですけど、とりあえずいいアルバム作ったので、この形ではとりあえず、これが締めですよ。なので、ちょっと気合いを入れて、『この3人だからこの曲』という曲をやります」と話し、「最後に皆さんの……これは皆さんのためにじゃなくて、俺たち3人のためにやります」と締め括ると、1stアルバムのタイトルトラックである「さよならストレンジャー」を演奏。記憶に残るライブが終了した。

 森信行とクリフ・アーモンドの2人が参加した今回のライブは、バンドにおけるドラマーの重要性について改めて考えさせられるとともに、この2人以外のくるりと関わったドラマーたちを思い起こさせるようなライブでもあった。『アンテナ』期にメンバーだったクリストファーはもちろん、「すけべな女の子」の音源で叩いているあらきゆうこや、近年Vaundyやimaseといった若手のサポートでも活躍しているBOBO、そして近年のレギュラーメンバーであり、「クリフの後釜は厳しいぞ」という不安を見事に解消してくれた石若駿のことも思い浮かぶ。約20年ぶりにオリジナルメンバーで制作された『感覚は道標』は、くるりの作品としては珍しく自身に起こった出会いと別れの物語を対象化して描いたような作品でもあったが、この日のライブも同じような印象を与えるものであり、アルバムのリリースツアーに相応しい感動的な一夜だった。

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