くるり、ドラマー2人編成で鳴らした過去と現在 『感覚は道標』ツアーが示すリズムの重要性

くるり『感覚は道標』ツアーレポ

 2023年はバンドにおけるドラマーの重要性について改めて考えさせられる1年だった。年末の『第65回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)と『第74回NHK紅白歌合戦』への出場が決まり、2023年の日本の音楽シーンの顔の一組となったMrs. GREEN APPLEは2021年末にリズム隊が脱退。3人体制になって以降、もとより備えていたクリエイティビティをさらに発揮するようになった印象がある。

 ライブハウスを主戦場とし、日々ライブを繰り返すタイプのバンドであれば、やはりメンバーの中にドラマーがいて、強固なアンサンブルを作り上げていくことは非常に重要だ。しかし、そうでない場合はドラマーの不在がソングライティング時におけるリズムに対する自由なアプローチへと繋がる。かねてよりドラムレスの3ピースであったceroが発表した『e o』にしろ、2021年にギタリストとドラマーが脱退して、3人体制に移行していたodolが発表した『DISTANCES』にしろ、ドラマーの不在がプラスに作用した作品だったように思う。

 そして、「ドラマー不在のバンド」という意味では一日の長があるくるりがそんな2023年に行った試みは、その真逆のアプローチであった。オリジナルメンバーであるドラマーの森信行と再会してスタジオに入り、約20年ぶりに楽曲制作を行った『感覚は道標』は、「この3人でなければ生まれない音楽」にフォーカスすることで、結果的に「バンドにおけるドラマーの重要性」を映し出したという意味で、非常に特殊な形ではあるが、やはり2023年らしい作品だった。

岸田繁
岸田繁

 さて、前置きが長くなってしまったが、そんな『感覚は道標』のリリースツアーにはもちろん森がドラマーとして参加。開演前にはAC/DC「Back In Black」やAerosmith「Get A Grip」などのハードロックが流れ、「B’zのライブかな?」なんてことを思わせつつ、開演時間が過ぎるとSEで「LV69」が流れ出す。くるりのインディーズデビュー作である『もしもし』がリリースされたのと同じ、1997年にリリースされたForest For The Treesの名曲「Dream」を連想させるバグパイプが印象的な「LV69」とともにメンバーが登場すると、いつもの立ち位置とは違って、森が上手に、キーボードの野崎泰弘が後方に位置し、ギターの松本大樹とコーラスの加藤哉子を加えた6人編成。SEで流れていた「LV69」が途中から生演奏に切り替わるというオープニングでライブがスタートした。

佐藤征史

 前半パートでは『感覚は道標』からの楽曲を7曲演奏。森のドラムはフィルを多用するタイプではないので派手さにこそ欠けるものの、佐藤征史のベースとともにグルーヴの屋台骨を担い、楽曲に推進力を与えていく。ただ『感覚は道標』が基本3人のみで作られたのに対して、この日は2010年代以降のレギュラーメンバーである松本や野崎らも参加することで、過去と現在が同居するような不思議な感覚もあった。序盤のハイライトはThe Whoのようなロックンロールナンバーの「I’m really sleepy」。一見堅実な印象の森のドラムが一転して、キース・ムーンばりの乱れ打ちを披露する中盤の展開は、メンバーが「感覚的」と評する森らしさを体現していた部分であり、くるりというバンドがもともと非常に感覚的なバンドであるということを改めて印象づけていた。

森信行
森信行

 「In Your Life」で前半のパートを終えると、ここでドラマーが交代。今回のツアーは森との再会ツアーであるというだけでなく、一時期のレコーディングやツアーをサポートしていたクリフ・アーモンドとの、コロナ禍を経ての再会ツアーでもあった。ここからはクリフがレコーディングに参加した楽曲も織り交ぜながらのセットリストで進んでいく。

 クリフとの1曲目はシングル『Baby I Love You』のカップリングながら、ファンからの人気も高い隠れ名曲「The Veranda」。この曲における緩急と強弱を巧みにコントロールするドラミングを聴いただけで、もともと矢野顕子の紹介でくるりに合流をしたクリフが超一流のドラマーであることを改めて感じさせる。続く『天才の愛』(2021年)からの2曲、「ナイロン」でのシャープなプレイも素晴らしかったが、さらに印象的だったのが「watituti」でのプレイで、しっかりとタメを効かせつつも軽やかに跳ねるリズムが抜群に気持ちいい。

クリフ・アーモン
クリフ・アーモンド

 この曲では「レスポールを抱えた京都弁の少年がいる」という岸田繁(Vo/Gt)の紹介から松本のギターソロが始まり、野崎の歌唱を経て、クリフもドラムソロを披露して完全に場を掌握。岸田が「クリフが明日帰っちゃうのが寂しい。また再会できるようにサンタさんにお願い」と話すのも納得で、もっともっと彼のプレイを聴いていたくなる。極めつけは「Morning Paper」で、「この曲をどう演奏するかでそのときのくるりのモードがわかる」というような曲なわけだが、この日の主役は完全にクリフのドラム。岸田はピート・タウンゼントのようにウィンドミル奏法をしたりと、やはり相当にご機嫌であることが伝わってくる。

加藤哉子
加藤哉子

 日本では矢野や宇多田ヒカルとも共演し、ジャズやラテンなど幅広くプレイできるドラマーであると同時に、クリフはロックドラマーとしても超一流であり、「お祭りわっしょい」や「すけべな女の子」でのパワフルなロックドラムは迫力十分。Dinosaur Jr.~Teenage Fanclubラインの「虹色の天使」では、演奏後に佐藤が「入りのフィル、歴代で一番長かったんじゃない?」と話したように、クリフ自身もくるりとの久々の演奏を心から楽しんでいたのだろう。

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