矢野顕子、“里帰り”ができる当たり前の日常への喜び 『さとがえるコンサート』東京公演レポ
ライブ中盤、ピアノ弾き語りで披露された「潮騒のメモリー」は連続テレビ小説『あまちゃん』(NHK総合)の挿入歌。ニューヨークに住む矢野が、今から10年前に放送されたこのドラマを今年になって初めて知り、Twitter(現X)にその感動を呟いたことがネットで話題になったのも記憶に新しい。
「皆さんは、10年前からあんなに面白いドラマを観ていたんですね!」とこの日も感慨深げに話して笑いを誘い、劇中では主人公・アキ(のん/当時は能年玲奈)の母親であり、元アイドルの天野春子を演じた小泉今日子が歌う「潮騒のメモリー」を、矢野流にアレンジし歌い上げると割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響いた。
矢野を除く3人で演奏した、Little Featをも彷彿とさせるファンキーなインスト曲「Love Is All You Get」を挟み、The Beatlesの「I Will」、細野晴臣の「終りの季節」をメンバー全員でステージ前方に横並びになって披露。再び定位置に戻り、パット・メセニーとの共作「PRAYER」、そしてこの日のバンドメンバー(名付けて「The YANOAKIKO」)とともにレコーディングしたアルバム『音楽はおくりもの』(2021年)から、「わたしのバス」を演奏した。
さらに、「みなさんを、寒いところへお連れします」と言い石川さゆりの「津軽海峡・冬景色」をジャジーにカバーした後、「クリームシチュー」「ひとつだけ」を歌って本編は終了。アンコールでは、共にステージに立つメンバーと、このコンサートを陰で支えるスタッフに感謝の言葉を述べつつ、「来てくれた皆さんにも感謝を込めて炭水化物を……」と言って「ごはんができたよ」「ラーメンたべたい」を披露しこの日のライブを終えた。
「世界ではいろんなことがありつつも、こうやって飛行機が飛び経済活動が持続し、世の中が壊れていない限りは歌い続けます。しかし来年はどうなっているのか、誰もわかりません。もし来年もまたここにやってくることができたら、どうぞ足をお運びください」
本編最後のMCで、そう語った矢野。「当たり前」と思っていた日常が決して当たり前ではないことを、コロナ禍とその中で起きた戦争によって私たちは思い知らされた。だからこそ、今年もこうやって「里帰り」をみんなで一緒に迎えられた幸せを、矢野の言葉により改めて噛み締めたのだった。
坂本龍一が携わった後世にも伝えたい音楽作品 日本のポップミュージックを豊かにした偉大なる功績
坂本龍一の逝去後、世界中のメディアを介し、音楽家、社会活動家としての軌跡や功績が発信され続けている。坂本の作品と活動は多岐に渡り…
矢野顕子、オーディエンスを宇宙へ連れ出す新しい音楽体験 歌とピアノで“生命の喜び”を紡いだ感動の一夜をレポート
宇宙飛行士の野口聡一が宇宙で書いた14篇の歌詞に矢野が曲をつけ、ピアノの弾き語りでレコーディングしたニューアルバム『君に会いたい…