和ジャズはなぜ世界的な注目を集める存在に? 須永辰緒、“日本のブルーノート”TBMの魅力を語る

わからない方が聴いても単純に良いと思ってもらえることが理想

ーー今回の作品を発売するにあたり須永さんは「いまのダンスフロアは『踊る』ことからの呪縛を解かれ自由を獲得し、単なる『踊れるジャズ』が次のフェーズに入った」とコメントしています。

須永:そもそもの昔、ジャズは社交場で踊るための音楽でした。時を経て2000年以降にクラブジャズ的な括りの音楽がたくさん出てきて以降、そのクラブミュージックはハードバップに回帰するという運動が並行してあって。イタリアからはニコラ・コンテ、フィンランドからファイブ・コーナーズ・クインテットの出現は衝撃的でした。その流れの中でDJの時に和ジャズをブレンドするとなると、やっぱり対抗できるのが白木秀雄しかいなくて。そこから少し迷走して、僕の場合はディープハウスに面白さを求める時代が続きました。

ーーコロナ禍ということも「踊る」ことから呪縛された大きな原因のひとつですか。

須永:そうです。コロナ禍ではDJが音楽をかける場所もなくなったけど、そのぶん配信やミュージックバーなどで自由な選曲ができるようになった。そこでジャズは初めて踊ることから解放されたんです。ここ何年かのことですが必ずしもジャズDJは、客を踊らせなくてもいいし、お客さんも踊ることを最初から求めなくなった。その後単純にかっこいいジャズを流したいというバラエティに富んだベニューがたくさんできたので、聴かれ方も変わりました。そうなると僕も「そういえばTBMいっぱい持ってたな」って思い出して(笑)、引っ張り出して聴いて自分の耳がやっと追いついたんです。だからダンサブルなリズム設定とか、そういう前提を外して聴くとTBMにはいい曲がたくさんあることに気づきました。

ーーそれが最初におっしゃっていた精神性に追いつくのに時間がかかった、ということですね。

須永:そうです。踊ることから解放された耳で聴くと、もうTBMの音が恐ろしく新鮮に聴こえました。やっぱりずっと人を踊らせるDJだったので、自分では音楽に対してすごく寛容なつもりだったのに、実は保守的になっていたということをTBMを聴いて思い出しました。いい機会をいただきありがとうございます、という感じです。

ーー「The Japanese Deep Jazz」というセカンドタイトルも、須永さんが考えられたんですよね。

須永:「The Japanese Deep Jazz」というタイトルは単純にメジャーに対してのカウンターですよね。TBMは自主レーベルで、当時は想像を絶するものがあったと思います。機材も揃えて、レコーディングから納品、集金まで全部自分たちでやらなければいけないし、でもそこでちゃんとクオリティを守っていたというか、プライドみたいなものをちゃんと感じるし、しかもジャズだけでやれていたという背景を考えると、どう考えても「Japanese Deep Jazz」だろう、と。

ーーなるほど。やはりレーベルオーナーでプロデューサーの藤井武さんの、理想的なジャズ作品を追求するためには妥協を許さない姿勢が作品に貫かれているからでしょうか。

須藤:そこが一番大きいと思います。それと小川隆夫さんの著書で知ったのですが、美意識が徹底されていて、ジャケットはずっと同じデザイナーの方なんですね。企画者とデザイナーがずっとタッグ組んでやっているところも、TBMが日本のブルーノートと言われる所以だと思います。

ーー“レコード番長”の須永さんもジャケ買いはされるんですか?

須永:いまだにジャケ買いはします。あえて聴かないで(笑)。昔は、聴けないからジャケ買いしたんですけど、今は試聴できるけどもうジャケ買いの場合は、あえて聴かないです。

ーー何かのインタビューで須永さんのレコード屋での買い方、マナーを読んだのですが。必ず何か買うとか、お店で流れている曲に耳を澄ませるとか。

須永:逆に買わないで帰る方が勇気がいりませんか(笑)? 何か買って顔を覚えてもらう。偶然お店で流れている良い曲に遭遇する場合はラッキーです。それを買って帰りもちろん「こんなはずじゃ……」ということもあります(笑)。でもお店で聴いているとよく聴こえるんですよね。

ーーレコード屋巡りは、今も掘り出しものに出会うことが多いですか?

須永:昔は100円や200円コーナーでも掘り出しものがたくさんありました。それは店員さんの知識が追いついていなかっただけで、でも今はどうかな? いまだに覚えているのが、下北沢の「イエローポップ」でドン・レンデル&イアン・カー・クインテットの『シェイズ・オブ・ブルー』を800円で手に入れたのです。知識もなくしかもジャケ買いで、ちょっと針を落としたら「(ドラム)ブレークがないや」って、そこから聴かずに寝かしておいたんです。後からジャズの本を読んでいたら、30万円以上する超レア盤だということがわかった(笑)。

ーーレコードを堀る醍醐味ですね。

須永:まさに下北沢の奇跡。長くレコード屋に通っていると、そういうこともあるんですけど今はもう掘っても適正な値段がついていることが多い。今は年の功ということもあって、馴染みのレコード屋さんの場合だと店員さんに「何かある?」って聞いて、そうすると裏からこそっと出してきてくれて、それを値段を見ずに買うというのが、僕の唯一のギャンブルです(笑)。

ーー他の店の値段との比較も絶対しないとインタビューでおっしゃっていました。

須永:情報を教えてくれた対価として、それは失礼かなと思います。

ーーTBMのロゴをクローズアップしたこの作品も、思わずジャケ買いしたくなりますね。

須永:極端なことをいえば、ジャズがわからない方が聴いても単純に良いと思ってもらえるアルバムが理想です。ジャズって楽器をやっている人じゃないとわからない良さというのがあるかもしれない。でも今やリスナーの耳もだいぶ鍛えられてきたと思います。そんなプロリスナーの鑑賞にも耐えうる曲が揃っているコンピレーションになっている自信があります。

■リリース情報
『Rebirth of "TBM" The Japanese Deep Jazz Compiled by Tatsuo Sunaga』(CD)
品番:MHCL 3042~3
価格:¥3,080(税込)
仕様:2枚組、全18曲収録
ライナーノーツ執筆:小川隆夫
購入:https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?site=S&ima=5427&cd=MHCL000003042

<収録曲>
※LPとは収録内容が一部異なります
[Disc 1]                                                                                         
1. ナルディス/菊地雅章、金井英人、富樫雅彦
2. ウマ・ビー・ミー/中村照夫グループ
3. サンセット・オン・ザ・ストリート/和田 直クインテット+1
4. オン・グリーン・ドルフィン・ストリート/中本マリ〜横内章次セクステット
5. サンデイ・シング/宮間利之とニュー・ハード
6. トーンズ・フォー・ジョーンズ・ボーンズ/辛島文雄トリオ
7. ドラゴン・ガーデン/ティー&カンパニー
8. ステラ・バイ・スターライト/松本英彦カルテット
9. 黄昏/市川秀男トリオ

[Disc 2]                                                                                         
1. パートIV アンデルセンの幻想〜北欧組曲より/三木敏悟、高橋達也と東京ユニオン
2. 流氷/日野元彦カルテット+1
3. イン・ア・リトル・スプリング・ワルツ/水橋 孝カルテット
4. ア・ニュー・シェイド・オブ・ブルー/宮本直介セクステット
5. デリックス・ダンス/中村照夫グループ
6. フィール・ライク・メイキン・ラヴ/鈴木 勲セクステット
7. ジーズ・シングス/高柳昌行セカンド・コンセプト
8. 白鷺/原 信夫とシャープス&フラッツ
9. ア・タイム・フォー・アス 〜 ロミオとジュリエット愛のテーマ 〜/森 剣治カルテット

Vinyl Edition
初回生産限定盤(LPのみ)
MHJL 290~1 [12inch/33rpm 2LP]/ ¥6,050-(税込)
選曲/監修:須永辰緒 | ライナーノーツ執筆:小川隆夫
購入:https://www.sonymusicshop.jp/m/item/itemShw.php?utm_source=os&utm_medium=owned&utm_campaign=MHJL000000290&cd=MHJL00000029

『Rebirth of "TBM" The Japanese Deep Jazz Compiled by Tatsuo Sunaga』(LP)

<収録曲>
同時発売の2CD(MHCL 3042~3)とは収録内容が異なります。

[Disc 1 / Side A]                                                                                        
1. デリックス・ダンス/中村照夫グループ
2. ナルディス/菊地雅章、金井英人、富樫雅彦 *

[Disc 1 / Side B]                                                                                         
1. トーンズ・フォー・ジョーンズ・ボーンズ/辛島文雄トリオ
2. ア・ニュー・シェイド・オブ・ブルー/宮本直介セクステット
3. サンセット・オン・ザ・ストリート/和田 直クインテット+1

[Disc 2 / Side C]                                                                                         
1. フィール・ライク・メイキン・ラヴ/鈴木 勲セクステット
2. サンデイ・シング/宮間利之とニュー・ハード
3. レイディ T/福井五十雄カルテット

[Disc 2 / Side D]                                                                                        
1. グリーン・キャタピラー/今田 勝トリオ+2
2. 処女航海/高橋達也と東京ユニオン
3. エイント・ナッスィン・ニュー・アンダー・ザ・サン/細川綾子 with 宮間利之とニュー・ハード
* = MONO

詳細:https://www.110107.com/s/oto/page/Rebirth_of_TBM?ima=5450

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