Kitri、時代を超えた初のカバーコンサート 豊かなメロディで内省を届けるポップソングへの共鳴

Kitri、初の名曲カバーコンサートレポ

 ピアノ連弾を軸にしたクラシック由来の音作りと、ポップセンス溢れるメロディや歌を掛け合わせ、新しい音楽に挑み続けてきたKitri。彼女たちとしては初めてとなるカバー曲のみで構成された『Kitri 名曲カヴァーコンサート “Re:cover”』が11月10日、東京文化会館 小ホールで開催された。この日はKitriにとって2作目のカバーアルバム『Re:cover 2in1』のCDリリース日でもあり、同作から多くの楽曲が披露された公演となった。

 昭和歌謡に的を絞ったカバーコンサートやカバーアルバムはよく見かけるが、Kitriの面白いところは、ジャンルも年代もバラバラな楽曲をセレクトしていること。それは、幅広い楽曲を独自解釈できるほどKitriの感性が豊かだからとも言えるし、時代が移ろっても変わらないポップスの真髄をKitriが大切に鳴らしてきたからでもある。カバー曲尽くしにもかかわらず、むしろKitriらしさが浮き彫りになるコンサートだったのもそのためだ。

 また、自身のツアーシリーズ『キトリの音楽会』ではコンセプトごとに編成を変えてきたKitriだが、今回はMonaとHinaのベーシックな2人編成。いつものようにHinaがピアノ以外のさまざまな楽器(コンサーティーナ、カホン、鍵盤ハーモニカ、シンセサイザーなど)でアレンジを加えつつも、実験的な演奏よりは、あくまで楽曲の情緒を重んじた“歌”中心の構成になっていた。2人のハーモニーは間違いなくKitriの武器だが、ここまでその心地よさに浸り続けられるステージはむしろ新鮮だ。そして、東京文化会館という天井の高い神秘的な空間も相まって、一音一音がとても雄弁に楽曲のストーリーを表現していたように思う。Monaが約4年前にこの会場に足を運び、「いつか自分たちもここで演奏してみたい」と思ったことが決め手になったそうだが、相変わらずKitriは会場選びにも抜かりがない。

 まず、コンサートの1曲目に選ばれたのは「異邦人」(久保田早紀)。拍手に迎えられたMonaとHinaがちょこんとピアノの前に座り、あのメランコリックなイントロを奏で始めると、会場は一気にレトロな雰囲気に包まれた。そこから「硝子の少年」(KinKi Kids)、「オトナブルー」(新しい学校のリーダーズ)と立て続けた冒頭3曲で、いきなり昭和・平成・令和の楽曲を網羅。それぞれの主人公の心情を、Monaのささやきとも張り上げとも違う絶妙な匙加減のボーカルで、繊細に表現していく。特に「オトナブルー」は意外な選曲だが、ダンサブルな中に散りばめられた歌謡曲のエッセンスが、Kitriの感性を刺激したのだろう。2人の掛け合いボーカルや、大人の恋に焦がれて逸る心を表現したようなピアノの疾走感が素晴らしい。

 「そして僕は途方に暮れる」(大沢誉志幸)でしっとりとした空気を醸し出した後、「虹」(菅田将暉)でHinaがソロ歌唱した〈家族や友達のこと こんな僕のこと/いつも大事に笑うから 泣けてくるんだよ〉という歌詞は、本人が作詞しているのではないかと思うほどHina自身の内面とリンクして聴こえてきて、思わずハッとさせられた。

Mona

 「『硝子の少年』に並ぶ名曲を」と思って、ラジオ番組のリクエスト投票に向けて選曲されたという「Make-up Shadow」(井上陽水)では、ストレンジポップなメロディに息遣いの伝わるハーモニーが見事に乗る。ファンからのリクエスト曲「ドラマティック・レイン」(稲垣潤一)では、Monaの跳ねるようなピアノに、Hinaが鍵盤ハーモニカで間奏にアレンジを加えたり、カホンでビートをつけるなど、Kitriらしく息の合った演奏を展開。語尾をスーッと伸ばすような2人の歌唱まで美しく決まった。

Hina

 ここで、新たな試みとなるアニソンメドレーへ。しっとりと聴かせた「ムーンライト伝説」(DALI)、キュートな歌唱が会場を明るく照らした「はじめてのチュウ」(あんしんパパ)、盛り上がり必至のサビで会場を揺らした「ロマンティックあげるよ」(橋本潮)と、世代を問わず愛されてきたアニソンの名曲を見事な演奏で繋いでみせた。オリジナル曲が披露されないライブならではのハイライトと言えるし、感情が徐々にヒートアップしていくようなKitriの新しい魅力を堪能することができた。

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