2023.11.24 22:30

Shin SakiuraとRachel、ラジオ『MUSIC BLOOM』やコラボ曲「Paint It, Smile!」から受ける刺激

文・取材＝荻原梓、写真＝林将平

「Paint It, Smile」に二人が込めたポジティブなメッセージ

ーーさて、そんな音楽愛にあふれる番組『MUSIC BLOOM』ですが、そのなかで特に面白いと思うコーナーが「BACARDI Sound Distillery 音楽蒸溜所」です。音楽の“ブレンドマスター”であるtofubeatsが、与えられたテーマをもとに様々なアーティストとコラボして楽曲制作する企画で、最新回では2人が参加することになりました。

Rachel：めちゃくちゃ面白いですよね。

Shin：そもそもの話から整理すると、企業が出資して、企業のテーマになるような音楽をアーティストと作っていく流れ自体がめちゃくちゃイケてるし、それ自体が文化的で重要なことだっていうのをまず強調しておきたくて。もし商品を売りたいだけだったら、こんなに手間のかかることをわざわざしなくていいはずなんです。

Rachel：音楽へのリスペクトを感じるよね。

Shin：そうそう、音楽が好きな人がやってくれてるから面白い。そこをまず支持したいんです。しかも制作過程を丁寧に追っていくじゃないですか。こんなに贅沢なことはないですよ。そもそも音楽を作ること自体がこんなに情報量が多くて、聴き応えのあるコンテンツやなって再確認させてくれてる。

ーー作る過程もコンテンツになってますよね。

Shin：そう。みんな当たり前に曲がリリースされた後に聴くけど、実際は制作過程もめっちゃ面白いんですよ。初回のaimiさんの時は制作途中の録音風景もずっと撮ってたけど、一大コンテンツだと思います。

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Rachel：作ってる過程って本当は面白いんだよね。ミュージシャンがどういうことを考えて作ってるか、細かいところまでは実はインタビューで聞けないところでもあるし、実際に完成した後は忘れちゃってる部分もある。それにアルバムのインタビューとかだと、全体の概念の話になっちゃうから、なかなか細かいところまでは話すことができない。

Shin：特に駆け出しの人とかは曲のディテールの話が一番欲しいところだと思う。そういう意味では、こういう企画を他の企業さんもやるのが当たり前に一つのパッケージとしてこれからも存在してほしいって僕は思いますね。

ーーすでに完成した楽曲は配信リリースされましたが、参加することは番組でのサプライズ発表だったんですよね。

Rachel：いまだにびっくりしてる（笑）。

Shin：こんな壮大なドッキリ、仕掛けられたことないよな。

Rachel：人生初よ。こんなに隠せるんだって思った……。

一同：（笑）

ーーサプライズ発表された時の2人の反応を聴いてガチのやつだと思いました。

Rachel：でも嬉しかったよね。こんな機会は滅多にないから。しかもテーマが「Paint It, Smile」で、めっちゃ私たちに合ってるなと思って。私たちが普段、番組とかで話してる雰囲気とかを聞いて決めてくれたのかなと思うんです。それまでは割と内省的だったり、テーマも「R&B」とか「チル」とかジャンルのワードだったけど、こうやってポジティブなイメージでテーマ設定してくれたのが嬉しかった。

ーーどんなイメージで制作を進めたんですか？

Rachel：トラックを受け取った段階で結構お互いに話したよね。手を動かす前に「私はラップしないと思ってる」って伝えたら「いいんじゃない」って返してくれたから、割と自然と進められたかも。歌詞も「本当は傷つけたいとかそういう気持ちじゃないよね」っていう内容のことを歌いたいって言ったら、Shinくんも「実はそういうニュアンスのことを書こうと思ってた」ってね。

Shin：最初にRachelが作ってきたパートが良すぎて、それに引っ張られるように作ったから俺もそんなに悩まなかった。意外と各々書きたいことを書いたら、実は似たことを考えてたっていう。だから一発目のデモのリリックが送られてきた時に安心したんですよ。これで突拍子もないリリックが送られてきたらどうしようかと思ってたけど「言いたいこと一緒や、よかった」って。

Rachel：たぶんトーフくんのトラックからお互いに近いイメージを受け取ってたんだろうね。情景描写もお互いに補完し合う形になったし。

ーーリリックではどちらのパートもラジオについて触れますけど、2人の“ラジオ観”の違いが出てて面白いなと思いました。特にRachelさんの〈冷蔵庫の音かき消すためのラジオ〉というフレーズは印象的です。

Rachel：あの音が静けさとか寂しさを強調させてくると思って。ウォーターサーバーの音でも良かったんだけどね（笑）。

Shin：めっちゃ分かる。情景描写から入っていくのってポップスのセオリーだけど、にしてはめちゃくちゃ情緒があると思った。ばりリリシストやんって（笑）。

Rachel：「Paint It, Smile」だから、そういう寂しさとか悲しい気持ちをベースにすればコントラストが出るかなと思ったんです。みんな立場は違えど、孤独な気持ちとか将来への不安はあると思うので、それでもやっていこうっていうメッセージになればいいかなって思って書きました。

ーー対してShinさんのパートは〈夜の街走るFM〉といった情景が描写されてます。なんとなくお洒落なJ-WAVE感を感じました。

Rachel：そう、J-WAVE感！　気取らないお洒落さがあるよね。

Shin：J-WAVEは車を持ってる人がドライブしながら聴いてるイメージがあるんです。

Rachel：うちらまだ免許も持ってないけどね（笑）。

Shin：そうだね（笑）。だから憧れも込みのフレーズですね。あと、さっきRachelが言ったことに追加して言うとしたら、基本的に俺とRachelはそんなに自信満々野郎じゃないんですよ。それこそ番組でめちゃくちゃいい曲がかかると、自信をなくしてテンションが下がるみたいな。そこに日々向き合いながら頑張って生活してる感じなんです。いろんなものや曲を見たり聴いたりすると、知らない間に何かになり切ろうとしちゃったり、必要とされやすい形になろうとしちゃう。けど、そうならなくていいよねって話をしたかった。何者かになるんじゃなくて、自分のままで必死に足掻いていくだけ。その繰り返しなんだって。

ーーそれはナビゲーターをしてる2人ならではの視点とも言えるかもしれないですね。

Shin：確かに。何の仕事をしててもどんな生き方してても、やっぱりみんな自分の価値を疑っちゃう。

Rachel：「自分らしさってなんだろう」とか「自分って意味あんのかな」ってね。

Shin：前にBACARDIさんから聞いて感動した話があったんです。BACARDIさんの商品は日本のお酒の市場だとそこまで大きなシェアを占めてるわけじゃなくて、ほんの数パーセントだと。だから逆に1％シェアが増えただけで、売り上げが倍ぐらいになる。その話を聞いて勝手に自分とBACARDIさんを重ねちゃって。僕も自分が作ってる音楽とか、今の自分の現状の力みたいなものは、目標に到達できてるとはまだ全然思ってないんです。そういう意味では道半ばやけど、伸び代は十分あるから、僕も1％伸びるだけでむちゃくちゃ変化できる。〈誰にもならずに積み重ねてく1％塗り替えて〉というリリックは、そういうことなんです。

ーーなるほど、BACARDIへのシンパシーも歌詞に込められていたんですね。ちなみにMV撮影はどうでしたか？

Shin：シンプルに言うと2人とも必死だったよね。振り付けのことを脳内で反芻しながらの撮影でした。

Rachel：とにかくあれだけの人数が関わると、自分のミスで撮り直しさせるわけにはいかないから、意識したのは必死にやることでした。それと自分たちの歌声に乗せて大人数が踊ってる景色は壮観だった。嬉しい気持ちと反面、「私たちの曲で踊ってもらっちゃってすいません」みたいな（笑）。

Shin：申し訳ない気持ちがね（笑）。それに神社に大音量で流れる俺たちの歌、結構シュールだったよね。

ーーShinさんがこうやってMVでがっつり自分の姿を見せるのは珍しいですよね。

Shin：ほぼ初めてです。そもそも自分の曲で自分が歌い出したのが、つい最近のことなんですよ。人生でレコーディングをしたことがあるのが4回だけ。だから経験が足りてなさすぎて、撮影前日にいろんなMVを観て予習してました。

ーーある意味、この企画によって表舞台に引き摺り出されたと。

Shin：本来やりたかったことなんで嬉しいです。なかなか自分一人の力では体験できないことっていっぱいあるから、ありがたいですよ。勉強させてもらういい機会になりました。

「Paint It, Smile! feat. Shin Sakiura & Rachel (Blended by tofubeats)」

ーーあらためてこの企画は、2人にとってどんな体験になりましたか？

Rachel：私にとっては結構、転機かもしれない。今まで、楽曲提供とかはあるんですけど、自分がフルで歌を書く経験があまりなくて。ラップせずにがっつり歌ったり、思い切ったキーで歌うこととかもなかったから、不安になりながら進めてたけど、意外とみんなに受け入れてもらえたので、自分のなかでは大きな手応えだったんです。「こういうことやってもいいんだ」って。

ーーラッパーRachelから歌い手Rachelへ、みたいな？

Rachel：自分で歌うのもそうですけど、こういう曲を人に歌ってもらいたい気持ちもあって。今回どちらかと言うと、人に歌ってもらうような感じで自分は書いたので、それを自分で歌ってる不思議な感覚もあったんです。「私ってこういう声を出せるんだ」って。だからこの経験を活かして、次はこういう曲を作ったらどうなるんだろうって自分自身に期待してます。

Shin：自分もまさしくそうで。歌を入れるかどうかは自分たちに委ねられてたんですけど、今回は能動的に歌いたいと思えたんです。そういう自分を認識した一発目の機会でした。今までは自分も歌うという選択肢が、自分のなかにあっていいんやということを受け入れられてなかったんですよ。それは自分の歌がシンプルに拙いっていうのもあるし、自分の歌声がいいなと思う瞬間にまだ立ち会えてないから。でもこの企画でそれについてじっくり考えるいい機会になりました。

Rachel：トーフくんに褒められたのも嬉しかったよね。トーフくんはもう現場で流してるって言ってました。

Shin：現場での鳴りがいい、クラブミュージックとして機能してるって言ってたね。

ーーこの『MUSIC BLOOM』を今後どんな番組にしていきたいですか？

Rachel：ライブとかイベントはしてみたいなって思います。いろんな国の人だったり、いろんなルーツを持ってる日本の国内アーティストがいて、そういう人たちをいち早く取り上げてる番組だから、そういう人たちと一緒にライブができたら面白いと思う。それが新たな“基地”になればいいなって。

Shin：ライブもそうだし、この番組はみんなにとって新しい音楽を知るきっかけになってると思うから、そのためにももう少しいい感じに紹介してあげたいなとは思ってて。今は曲の感想を直感で喋っちゃってるところもあるけど、もっと違う紹介のやり方があるんじゃないのかなとも思うんです。例えば、僕らが番組内でライブしたり、紹介したアーティストのコメントだけじゃなくて、実際に来てもらって3人で喋ったり。

Rachel：曲を聴いて浮かんだ「これってどういうことなの？」っていう疑問を、その場で本人にすぐに聞けたらめっちゃいいよね。

Shin：そうなんだよ。いつも収録だと「どうなんでしょうねえ」で終わっちゃう。そこからもう一歩進んだ内容にできたら面白いやろうなと思ってます。

ーーこの番組をどんな人に届けたいですか？

Shin：もちろん誰でも聴いてほしいんですけど、特に音楽に興味のない人にも届けたいですね。

Rachel：音楽って楽しいよ、面白いよってね。

Shin：いわゆる音楽好きの人だけが聴く選曲でもないと思うんですよ。広くいろんな人に刺さる選曲だと思う。内容で言ったら、和洋中なんでも用意してるバイキングみたいな番組だから。

Rachel：そうだね。誰でも絶対に好きな曲が見つかると思う。