SUKEROQUE、言葉とサウンドで自在に描くストーリー 豊かなポップネスを解き明かすクロスレビュー

SUKEROQUEが持つ豊かなポップネス

 シンガーソングライター SHOHEIによるソロユニット SUKEROQUE(スケロク)が、11月15日に配信シングル「トランジスタレディオ」をリリースした。今年7月から毎月配信リリースを行い、活発な活動を続けているSUKEROQUEの楽曲が持つユニークなポップネスについて、音楽ライターの小川智宏氏、伊藤亜希氏がそれぞれの視点から考察していく。(編集部)

「音像の優しさが、思いを普遍的なものへ生まれ変わらせる」(小川智宏)

 SUKEROQUEの最新シングル曲「トランジスタレディオ」はシティポップ風の穏やかな音像の中、SHOHEIの柔らかい歌声が心に染み入るように響いてくる、とても優しい楽曲だ。

 今年7月に「蝸牛」「オリーヴの星」の2曲同時リリースをして以降、8月の「COOL CHINESE」、9月の「utopia utopia」、そして10月の「市街地」と毎月新曲を発表してきたSUKEROQUE。ソロならではのフットワークの軽さゆえか、あるいはそもそもSHOHEIという人の音楽家としての資質か、SUKEROQUEの楽曲のスタイルはここまでひとつとして同じものはないと言っていいほど多彩に展開されてきた。バリバリのファンクチューンに乗せて冷やし中華への愛をほとばしる「COOL CHINESE」を聴いたときには心底驚いたが、その後の楽曲を聴いていくと、それすらもSUKEROQUEの持つさまざまな顔のひとつだったのだとすんなり納得してしまうほどに、楽曲には斬新で鋭いアイデアが盛り込まれている。

 たとえば、9月にリリースされた「utopia utopia」。ギターのフィードバックノイズとタイトなドラムから始まるこの曲は、間奏のスラップベースや泣きのギターソロをはじめテクニカルなアレンジが随所に施された濃厚な1曲に仕上がっている。器楽的なおもしろさを強調するためだろうか、むしろメロディはシンプルで、SUKEROQUEの大きな武器である歌すらも楽器の一部であるかのようにフレーズをリフレインしていく。SHOHEIの声質がそもそも大らかで優しいものであるために、もしかすると分かりづらいかもしれないが、かなり尖った曲である。

【MV】utopia utopia / SUKEROQUE

 対して10月にリリースされた「市街地」はドラムマシンのようなビートとシンセベースの音色、そしてここぞというところで入ってくるサックスの音がちょっと懐かしくも洒脱なムードを演出する大人な1曲。決して派手にぶち上がるような楽曲ではないが、その分リスナーの日常にすんなりと馴染む。曲調こそ違えど、サウンド全体のグルーヴによって風景を描き出していくようなマナーは「utopia utopia」と通じ合うところがあるようにも思う。それこそ「COOL CHINESE」もそうだったが、どうしたって歌詞とボーカルがすべてを背負うことの多い日本のポップシーンの中で、SUKEROQUEの「音やグルーヴも込みで風景を描き、メッセージを伝える」という作法はとても新鮮に映る。しかも、繰り返しになるがSHOHEIの声と歌というのは間違いなく強力な武器なのだ。にもかかわらず、それを必要以上に振りかざすことなく、あくまでひとつのツールとして使いこなしていくところにSUKEROQUEらしさはあるのかもしれない。

【Lyric Video】市街地 / SUKEROQUE

 そんな思いを抱きつつ触れた「トランジスタレディオ」もまさにそういう曲だった。いつも以上にプライベートで孤独なムードをまとった歌を、キラキラと光るようなトラックが優しく包み込む。ここでもSUKEROQUEのサウンドは歌と親密に寄り添いながら、ひとつの空気を生み出している。セルフライナーによれば、この曲の制作は3年ほど前から始まっていたのだという。当時はコロナ禍の真っ只中で、あらゆる活動がストップする中で、ずっと音楽を続けてきたSHOHEIもまた「なぜ音楽をやるのか」という自問自答を繰り返していた。そんな最中、散歩中にラジオから聞こえてきたDJの言葉に、彼は「誰しもが悩みを抱え生きてるんだ」と励まされた。そんな経験をもとに生まれたのが、この「トランジスタレディオ」なのだそうだ(※1)。

 〈トランジスタレディオ/このままつぎはぎのままでも/不安だって待つよ 誰もに夜明けが〉――「トランジスタレディオ」の歌詞は、まさに自分自身に問いかけるように、あるいは遠くにいる誰かに言葉を投げかけるように、心の内側にある迷いや、それを振り切って進んでいこうとする意思を歌う。それ自体とてもまっすぐでエモーショナルなのだが、それだけだったら、この曲はとても小さな、本当にパーソナルな曲になっていたことだろう。だがSUKEROQUEは、それをアレンジ(今回参加しているのはこれまでYUKIの楽曲などを手掛けてきた伊藤立だ)の力によって普遍的なポップスへと浮上させる。進むごとにスケールが広がっていく曲構成が、真夜中から夜明けへと移り変わっていくこの曲の原風景を歌詞以上に饒舌に描写し、孤独を抱きしめるような音像の優しさが、SHOHEIの思いをより普遍的で大きなものへと生まれ変わらせていく。そこにSUKEROQUEというアーティストの真骨頂があるのかもしれない。(小川智宏)

※1:https://www.sukeroque.com/news/379/

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