イラストレーター のう、『レゾンデートル』人狼少女描き下ろし ライブペインティングをレポート

イラストレーター のう、人狼少女を描き下ろし

 「ベノム」や「ダーリンダンス」を筆頭にしたかいりきベアの楽曲や、Kanariaの「KING」など人気ボカロ曲のMVイラストを多数担当するイラストレーター・のう。彼女とボカロPがタッグを組んだプロジェクト・レゾンデートルのアルバムが11月8日に発売される。

 レゾンデートルは、ユニコーンやフェニックス、メデューサ、人狼、人魚など架空の生物をモチーフにのうが生み出したキャラクター/イラストから、雄之助、164、なきそ、かいりきベア、まらしぃ、ぐちりといった面々が楽曲を制作するプロジェクト。これまでボカロPの楽曲に合わせてイラストを制作してきた彼女が、自身のイラストをもとにした楽曲制作を依頼するという、通常の制作過程とは180°違ったプロジェクトとなっている。

 リアルサウンドでは、アルバムの制作過程について聞いたインタビューを公開(※1)。さらに今回、かいりきベアとの楽曲「ローラー」に登場する人狼の少女の新規イラストをライブペインティングで仕上げる様子に立ち会うことができたので、その様子をレポートしたい。

「初音ミクがきっかけで……」ボカロMVイラストで人気、イラストレーター・のうインタビュー

 今回のライブペインティングはリモートで敢行。すでにラフと線画を済ませた状態のイラストを用意してくれており、ここから一時間で色をつけていく過程を見せてもらうことに。ラフと線画はiPad Proで制作。ラフを2時間半ほど、線画を1時間ほどで終えたそうで、清書はPCでCLIP STUDIO PAINTでの作業となる。「人に見られながら絵を描く機会はなかなかない」と語るのうに、今回のイラストでの工夫などについても話を聞きながら、ライブペインティングを行なってもらった。

 今回描いてもらった「ローラー」のキャラクターは、ヴィジュアル系バンド「Midnight×Werewolf」のファンとして日々を過ごす“バンギャ”。推しへの愛が疑いに変わり、バンドにまつわる掲示板やSNS上で晒し上げや嘘の擦り付けを行なっている。その雰囲気が見事に楽曲にも反映されており、歌詞では人狼ゲーム用語の「ローラー」と推しの「ロックンローラー」が掛け合わさっている。かいりきベア×のうという、ボカロ楽曲リスナーには定番のタッグによる楽曲だ。このキャラクターは、どんなふうに生まれたのだろう?

「ちょっと闇のあるキャラクターにしたいと思って、『闇を感じる伝説上の生き物ってなんだろう?』と考えたとき、かいりきベアさんとの親和性も考えて『人狼』の女の子を思いつきました。憎たらしいんだけれども憎めない、可愛くてかっこいい女の子をイメージしています。かいりきベアさんの曲にはもともとそういう女の子が合う曲も多いと思うので」

 アルバム『レゾンデートル』のインタビューでも語っていた通り、制作時にはアイデアスケッチなどを含めて、おおもとの方向性を決める作業に最も時間を使うという。実際、当日見せてもらったアイデアスケッチには、完成版とは違う様々なアイデアや構図が用意されていた。最終的に採用されたポーズは、左手が人狼らしさを表現するために選んだという「ガオー」という獣らしいポーズ。右手は自身が人狼であることにひっかけて、ニヤッと不敵な笑みを浮かべるイメージで考えられている。また、色味については「狼」「満月」「夜」といったキャラクターの魅力を最大限に引き出すようなもので統一されている。

のう×かいりきベア「ローラー」
ラフ

「人狼は満月の夜に狼になってしまうので、月を想像する鮮やかな黄色を入れたいと思っていました。そこから、補色に近い紫を使うことを決めて、全体的に満月の夜を彷彿させる色合いを選んでいます。最初はもう少し野生味のある狼っぽいキャラクターになるかと思っていたんですが、もっとイマドキの、たとえば歌舞伎町あたりにいそうな女の子になりました。かいりきベアさんに楽曲をお願いできると決まってから、キャラクター自体もより現代の女の子に共感してもらえるような子になっていきました」

 ライブペインティングは手際よく進み、キャラクターの誕生秘話を聞いていくうちにもみるみる色がついていく。序盤右上のスペースが空いていたのは満月を配置するためで、そこが光源になるように影なども加えられ、人狼らしさがより伝わるようなイラストが出来上がっていった。服のディテールについても、細部まで色々な工夫がされているようだ。

のう ライブドローイング Raison d'être file 4 “人狼”

「(キャラクターデザインの際に)人狼なので狼の耳も必要ですが、現実の女の子に獣の耳は生えないので、狼の耳がついたフードつきのパーカーを着てもらいました。半袖にした理由は、ヴィジュアル系バンドのファンの子たちが着ているイメージがある、ボーダーのアームカバーを見てもらいたかったからです。中に着ているTシャツは、この女の子がライブの物販で買った推しのバンド・Midnight×Werewolf(=夜の狼)のもので、満月に狼が吠える様子にバンドのロゴを合わせたものにしています」

 アクセサリーの一つひとつにも工夫が凝らされている。髪留めの形は、人狼を連想させる「月」に加えて、「推しの愛がほしい、承認欲求が強い女の子」を表現するため「ハート」も。こうした楽曲を象徴するモチーフは、目に止まりやすいように顔まわりに配置されている。ニーハイソックスの柄も狼の骨をイメージしたもの。パーカーやガーターリングについている三角のモチーフは下を向いていて、疑心暗鬼になっている彼女の心の内を表現したものだそうだ。こうしたキャラクターの人柄が想像できるディテールへのこだわりは、普段から街行く人々を観察して磨いたものでもあるという。

「『今どんなファッションが流行っているのか?』は、街を歩いているときにも気にして見ています。たとえばですが、女子高生の靴下の丈って、時代によって流行りが変化していきますよね。アンテナを張っていろんなものを観察して、『こういうのあるよね』『こういうの可愛いよね』と共感してもらえるものを目指しています」

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