ライブチケット価格が高騰を続ける要因とは? 人員不足や業界構造の変化がエンタテインメント市場にもたらす影響

 新型コロナウイルスの位置づけが5類感染症へと移行され、2023年5月にイベント開催にまつわるさまざま規制が緩和されたことで、今年はライブやフェスが大きな盛り上がりを見せている。ぴあ総研の発表によれば、2023年上半期における興行規模TOP30の公演を合計すると、その規模は880万人となり、昨年比で92万人の増加となったという(※1)。また2022年のライブエンタテインメント市場推計値は5625億円を記録し、2019年比で約9割の水準まで回復しているが、2023年はさらにそれを超える勢いで伸びているようだ(※2)。

 その一方で、ライブにおけるチケット価格の高騰が叫ばれている。コンサートプロモーターズ協会のデータを参照すると、入場者1人あたりの売上額は2013年下半期には6157円だったのに対し、2022年下半期には8632円まで上がっている。特にアリーナクラス以上のライブでは、チケット価格の高騰を顕著に感じられるだろう。

 こうしたチケット価格の高騰は、なぜ起きるのだろうか。コンサートプロモーターであるディスクガレージ 常務取締役の石川篤氏に独自取材を行い、チケット価格高騰の要因を探った。

 石川氏曰く、大きな要因の1つにここ数年での物価上昇が挙げられるという。電気代や資材費、輸送費の高騰は、ライブを開催するためのコストを次々と膨らませていく。そして実は、コロナ禍もコスト上昇の大きな要因になっていると石川氏は話す。

「コロナ禍を経て、ライブ業界全体で深刻な人員不足が起きており、それが人件費の高騰につながっています。ライブに関わるさまざまな人たちがコロナをきっかけに大量に辞めてしまい、今もなお、この業界に戻ってきていないんです。ステージ設営会社はもちろん、照明会社や音響会社はどこも人手不足で、たとえ会場を押さえることができても、ステージを支える各業者を押さえることがかなり困難な状況になってきており、大規模公演を諦めざるを得ないケースも見られます。さらに、業界では働き方改革が進んでいる。これまで以上に人手を増やさなければなりませんから、輪をかけて人件費が高騰しているんです。

 もちろん、コロナ禍でライブができなかった暗黒の時代と比べれば、現在のライブ市場は『やっと復活した』というお客様の熱狂に包まれ、売り上げも伸びてきています。ただ、そのような盛り上がりの中であっても、人手不足が原因で業界内の利益率が良いとは決して言えないのです」

 人件費も含め、ライブ開催のあらゆるコストが上がる中、コストダウンの取り組みはできないのだろうか。例えば、紙のチケットを廃止して電子チケットに完全移行すれば印刷代や郵送費を削れそうだが、電子チケットの導入でそう単純にコストダウンができるわけではないらしい。石川氏は「電子チケットのほうが、かえってコストアップになることもある」と語る。

「日本はアメリカと違い、チケットの流通機構が乱立しています。電子チケットも群雄割拠でいろいろなサービスがあるため、各サービスの仕様に合わせてデータを手作業で直さなければならなかったりして、実はコストアップの一因になることもあるんです。コストダウンを図りたいのなら、そうしたチケット流通の裏側の仕組みにも、一つひとつメスを入れなければなりません」

 このように、各社の自助努力だけではコスト上昇へ対処しきれない現状があるようだ。

 では、現在のチケット価格は適正なのだろうか。石川氏は、「海外に目を向けると、日本のチケット価格はまだ安い」と指摘し、海外アーティストの来日公演と国内アーティスト公演の価格帯の違いを取り上げた。

「例えば、高額な海外アーティストの来日公演では、極端にチケットの値段が違いますよね。ブルーノ・マーズの(2024年に予定されている東京ドーム公演の)チケットはSS指定席で20,000円近く、VIP席だとさらに跳ね上がりますが、国内アーティストではどんなに高くても15,000円程度ですから。かなり違います」

 欧米アーティストの基準で考えれば、日本のライブチケットの価格は今後も上昇する可能性がありそうだ。

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