連載『lit!』第70回:SPARTA、Candee、TOCCHI、Elle Teresa、5lack……国内ヒップホップシーンの熱狂とリアルを体現する5作
Elle Teresa『KAWAII BUBBLY LOVELY Ⅲ』
そもそも“i-”の韻で繋げるタイトルからして最高なのだが……。兎にも角にも、Elle Teresaによる連作『KAWAII BUBBLY LOVELY』の3作目である。FreekoyaBoiii、Yvngboi P、Tohji、gummyboy、Choppa Caponeという絶妙な布陣が参加した待望の新作は、これまでと比べると、Elle Teresaのアグレッシブでハードなラップだけではなく、むしろメロディのセンスがより鮮やかに感じ取れるような一作となっている。塗される夢見心地なトラップビートは、全体の浮遊感を増し、より耽美的にリスナーを魅惑する。とりわけ、「To My Bed」から「LOVE」に繋がる最後の展開は、パーティの終わりとベッドルームでの親密な時間を、快楽的かつフレキシブルに描写し、作品の爽快さと官能性を象徴している。カラフルで、しかし緻密で高度な感触もする、そんな展開の連続。アッパーで何にも屈さない姿勢はそのままに、しかし時に身を委ねるような自由性も携えることで、作品として一つの達成を示したアルバムと言えるだろう。
5lack『Try & Error』
先日、日比谷公園大音楽堂でのワンマンライブも盛況だった5lackによるシンプルで贅沢な全5曲を紡ぐEP。リラックスしていて、ただどこか精密で、どこか外れているような、そんなトラックに対するラップの乗せ方は相も変わらず、我々を翻弄する。今までのまとまった音源作品の中でも、極めてラフに、EPらしい作品にも聴こえる一方で、彼自身にとっての音楽のリアルに向き合っている様子が、歌詞にも表れているところは本作の特徴として挙げられるかもしれない。純粋な楽しさの側面と、生活に密着したものとしての側面。自身の音楽との関係性を、率直に捉える。スタンドアローンな5lackらしい出立は、ラップの身軽さを補強するイメージとして十分であり、そこを極めた現在地点としても聴こえそうだ。唯一の客演参加の2曲目「Change Up」ではISSUGIとBACHLOGICが登場し、タイトにラップを決めている。
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