連載『lit!』第64回:Showy、QUIZI A RHYME、OZROSAURUS、Lil Soft Tennis……ストーリーテリングが光る国内ヒップホップ

 国内のヒップホップシーンにおける音楽性の多様化・細分化は、今まで筆者が「lit!」で取り上げてきた作品にも確認できるように、周知の事実だと思うが、その中で音源作品はタイト化を極めている印象がある。それでいて、単純なUSやUKからの輸入ではない、ビートの実験・実践も拡張しながら、アルバム作品として、サウンドによるストーリーテリングを意識的に施す優れた作品を拾い上げたい。その上で、今回の「lit!」では国内のヒップホップアルバムを5枚紹介する。 

Showy『Showy is lit 2』

 ラッパー ShowyRENZOとShowyVICTORによるユニット Showyの新作。タイトルからして、2018年の作品『Showy is lit』の続編に当たるらしいこの作品を連作と捉えるのであれば、浮遊感を醸すトラップサウンドで彩られていた前作に対し、その“浮遊感”をさらに強調する形で、苛烈かつ酩酊感のあるレイジビートに接近したのが今作と言えるだろう。2020年代の入りに、プレイボーイ・カルティやトリッピー・レッドが仕掛けた、ある種のビート革命を踏まえると、両作の間にあったトラップベースサウンドの変遷も見ることができ、極めて興味深い変化を湛えている。さらに、Showy x DJ JAM名義で出した連作の間の作品『RED STONE』(2021年)を聴いてみても、本作『Showy is lit 2』の達成を解像度高く捉えることができるだろう。

Showy「こっから!」

 両者のラップスキルはもちろん、終盤の「あの日」や「君のため」のメロディアスなフックなど、フロウの多様さも魅力的で、同語を反復することによる意味性の強調も過去作と比べて印象に残る。芯にある太さはそのままに、確実に進化していく全10曲31分の魅惑は、ビートとフロウにてアップデートされる一つの芸術的達成にすら、ロマンティックに映る。

Showy「君のため」

QUIZI A RHYME『ONE LOVE』

 アンダーグラウンドシーンで活躍する岩手出身のラッパー QUIZI A RHYMEによる新作。ソウルフルなサンプリングにメロウなトラック、フロウ。GREEN ASSASSIN DOLLERの参加も印象的な『BEAUTIFUL LOSERS』や、EP『AUTUMN LEAVES』にも顕著な音楽性が本作にも染み込み、リスナーを誘う。全編に渡りスウィートな趣のある一方で、自らのマンフッドを省みるような一面も『BEAUTIFUL LOSERS』などから一貫して見られる。ストレスフルなこの世界で、どう立ち回るか。周りの人との関係性や生活の間にある美しい瞬間を捉えた「春の光」や「Lovers Rock」など、新たなクラシックとして記憶されるべき珠玉の曲たちが、タイトに詰め込まれる。美しさと厳しさ、それでいてサウンドの煌びやかさと優れたボーカルに彩られた傑作。

QUIZI A RHYME - 春の光 (Official Video)

grooveman Spot『Lie -Sense』

 ビートメイカー、DJのgrooveman Spotの新作『Lie-Sense』は濃厚な作品である。R&B要素の強いメロディアスなトラックに乗って、多くのゲストのラップと歌が楽しめる。セクシーな2曲目「Get Off (feat. Daichi Yamamoto & Kzyboost)」やそれぞれのインスト曲など、ダンスフロアの酩酊とは一味違う親密性も兼ね備え、リリックのトピックとは別のレイヤーで、官能的な時間の再現を、音によって成し得ている作品にも思える。特に、韓国からPuff Daehee、Ugly Duck、DeVitaが参加した7曲目「Slide」におけるボーカルの牽引力と、そこからインストゥルメンタルな楽曲(10曲目「All The Way」にはニュージーランドのプロデューサー アイザック・アエジィリーが参加)が続く後半の展開は必聴。

grooveman Spot「Get Off (feat. Daichi Yamamoto & Kzyboost)」

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