龍宮城は一線を画したダンスボーカルグループへ アヴちゃんの言葉で浮き彫りになる“表現者としての深淵な眼差し”
「地獄へようこそ」
今年の夏に観たとあるフェスでの、女王蜂のステージ。アヴちゃんは集まった観客たちに向けて目を見開いてそう言っていた。炎天下の中、ステージ周りにはたくさんの観客が集まって湧いていた。熱狂する観衆を睨みつけるような、それでいて招き入れるような、そんなアヴちゃんの眼差しは強かった。その姿を観て、アヴちゃんは、「見られる」覚悟だけでなく、「見る」覚悟すらも持っているのだと感じた。何を見るのか?――人間を、だ。人間とは、もちろん自分自身をも含む。地獄まで到達してしまうような人間の底の底まで、彼女は覗き込む覚悟を持っているのだ。きっと表現には、エンターテインメントには、その先にしか辿り着けない領域がある。
「地獄へようこそ」――この言葉には聞き覚えがあった。アヴちゃんが担任(プロデューサー)を務めたオーディション番組『0年0組 -アヴちゃんの教室-』のことが記憶に焼きついていたからだ。「あの女王蜂のアヴちゃんがグループのプロデュースをする」ということで、話題になった番組だ。様々な課題を経て、遂にアヴちゃんがプロデュースするグループ・龍宮城のメンバーが発表される回で、デビューが決まった7人に向けてアヴちゃんが放ったのも、この言葉だった。龍宮城のメンバーとして、これから世に出ようとする7人の若者たち――ITARU、KENT、Ray、KEIGO、S、冨田侑暉、齋木春空。彼らにも、きっとアヴちゃんは求めているのだ。人間から「見られる」覚悟だけでなく、人間を「見る」覚悟を持つことを。
『0年0組』の第1話で、アヴちゃんは「見せたくない、自分の中でも整理がついていない部分が、隠し味になったりする。綺麗なだけのもの、揃っているだけのもの、上手いだけのもの、そういうものに、私は興味ないんですよね」と言っている。アヴちゃん曰く、龍宮城とは「この世の中で音楽の1番深いところで、時間を忘れるくらい、忘れさせるくらいの表現を、ひたすらに追い求めるオルタナティブ歌謡舞踊集団」を目指すグループであるという。
そんな龍宮城は、今年4月にプレデビューシングル「RONDO」をリリースし、5月にはシングル「Mr.FORTUNE」でメジャーデビューを果たした。この2曲はどちらも『0年0組』内で課題曲として登場した楽曲であり、両曲とも作詞作曲はアヴちゃんが手掛けている。オーディションの最終試験課題曲だった「RONDO」は、美しく壮大なバラード。悲しくて、でも、あたたかい、別離と祈りの曲である。幻想的なMVも印象的な1曲だ。K-POP的ともJ-POP的ともつかない、言うなれば「アヴちゃん的」としか言いようがないような、優雅で郷愁を感じさせる音楽性。前のめりな野心や強固なメッセージではなく、まずは〈さよなら〉を告げることから始める――そんな、ボースティングや時代への目配せとは無縁の、悲しみも流れる血も隠さない繊細で普遍的な言葉。名刺代わりとなるこの曲の時点ですでに、龍宮城は数多のダンスボーカルグループとは一線を画す存在感を放っていた。
そして、続く「Mr.FORTUNE」は「RONDO」のメランコリアからは一転して、アグレッシブなサウンドと言葉が力強く突き刺さってくる1曲。女王蜂の「BL」や「KING BITCH」などにも通じるグルーヴィで獰猛なエナジーを持ったこの曲も、作詞作曲を手掛けるアヴちゃんの記名性を強烈に感じさせるが、女王蜂の楽曲では『遊戯王』をオマージュしてみせたりするアヴちゃんらしく、歌詞の中には『ジョジョの奇妙な冒険』へのオマージュがあったりと、激しさと刺々しさの中にユーモアすらも滲ませている。「トラウマと破壊」――そんなキャッチフレーズも浮かんでくるようなカオティックなMVは、「RONDO」とは全く対蹠的な形で龍宮城の旅立ちを描いている。このMVのラスト、ほとんど廃墟と化した『0年0組』の教室に立つ龍宮城の7人は、卒業証書を持ちながら、地獄を見つめるような笑顔を浮かべている。