崎山蒼志、『呪術廻戦』EDテーマ「燈」がロングヒット アニメへの寄り添いと作家性を両立、今こそ注目したいアーティストに
崎山蒼志という名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。10代半ばにして颯爽とシーンに現れたギター少年、唯一無二な声質の声質の個性的なシンガー、多くのタイアップにひっぱりだこの注目株......音楽好きであれば彼の熱心なリスナーでなくともこうしたイメージを抱いていることだろう。
そんな崎山蒼志が今、チャートにおいて強い存在感を示している。7月19日にリリースした「燈」が大きなヒットを巻き起こしつつあるのだ。アニメ『呪術廻戦』「懐玉・玉折」のエンディングテーマとして書き下ろされたこの曲はオンエア終了後も聴かれ続けており、MVが900万回再生を記録。Apple Musicでは圏外から、最高10位を獲得し、国内のみならず海外の Spotifyの「バイラルトップ50」にもランクインしている。台湾では2週連続1位、香港でも1位を獲得し、現在も上位をキープするロングヒット曲と言える。昨今はアニメ『【推しの子】』オープニング主題歌のYOASOBI「アイドル」はじめ、同じく『呪術廻戦』「懐玉・玉折」のオープニングテーマ、キタニタツヤ「青のすみか」など作品との好相性でヒットする楽曲が目立っており、「燈」もそうした流れの中で語れる楽曲だろう。
カバー動画なども増え、音楽ファン以外への知名度を大きく広げつつあり、崎山の代表曲になり得る「燈」。本稿ではこの曲の求心力、ひいては崎山蒼志の持つ限りない可能性について紐解いていこうと思う。
メジャーデビュー以降は徐々にポップスらしい楽曲も増えた崎山。「燈」もその強みを存分に活かしたバラードだ。しかし、そこにたっぷりと実験的な要素を組み込んでいる点が「燈」の持つインパクトに繋がっている。
まずはそのボーカリゼーション。崎山の大きな個性と言える声質と、予想外なほどに澄んだファルセットが細かく切り替わる繊細なアプローチのAメロ、一人でハモリを重ねて荘厳な印象を膨らませるBメロ、そして胸を締めつけるメロディをエモーショナルに届けるサビと、セクションごとに表現手法が次々と移り変わっていく。
また「燈」を単なる“温かみのあるバラード”ではないと思わせてくれるのが、サビ終わりのラップパートだ。トラップのように言葉をなだらかに並べ、心地よい押韻が楽曲構成に驚きを与えている。
「燈」には崎山蒼志の音楽における両極端な特性が調和し、耳馴染みの良さとともに何度でも聴き直したくなる“美しい異物感”があるのだ。これこそが「燈」の求心力の秘密と言える。