乃木坂46 、全員主役となって紡いでいく新しい物語 聖地・神宮で“歩み続ける決意”を示した『真夏の全国ツアー』

 「設定温度」へと至るまでの構成以外にも、今回の神宮ライブでは印象に残る演出がいくつもあった。例えば、バラードアレンジが施された「シンクロニシティ」を、久保や中村麗乃を中心にソロ歌唱で歌いつないでいき、曲終盤ではメンバー全員でアカペラ歌唱をする演出に。そこから観客のペンライトを消灯させて、ステージ上の炎の明かりのみでメンバー全員で歌う新曲「誰かの肩」へと続く流れは、グループ初期から大切にしてきた「歌や言葉を目の前にいる人に届ける」姿勢を受け継いだものだと認識している。先輩たちが大切に歌い継いできた「シンクロニシティ」と、現編成による新たな重要曲になりそうな「誰かの肩」を並べるあたりにも、そういった思いを感じ取ることができるだろう。

 この「誰かの肩」の曲中、中心に立つ井上のことを、温かく優しい眼差しで見守る久保や山下、遠藤や賀喜の表情も強く心に残っている。以前は末っ子的な空気感を放ち、先輩の齋藤や同期メンバーから守られてきた遠藤だが、この短期間で井上や後輩たちに対して「かつて自分がされてきたこと」を返している様を確認することができたのは、個人的には大きな収穫だった。そんな遠藤がパフォーマンス中に見せる表情も、強さや艶やかさ、繊細さがより際立つようになり、表現者としても飛躍的に進化していることが見てとれた。

 同じことは、4期生の松尾美佑、5期生の中西アルノなどからも感じた。最新アンダー曲「踏んでしまった」で初センターに抜擢され、今回の神宮公演では同曲をフルコーラスで披露。そのスピード感含め、高難度なパフォーマンスの中心に立って統率を執る松尾の姿や表情は、公演を重ねるごとに自信に満ち溢れるものへと変化していた。最終公演のMCではそのプレッシャーを口にして涙する場面もあったが、今は彼女が座長を務める次のアンダーライブが楽しみでならない。そして、中西も曲中柔らかな表情が目立つようになったかと思えば、自身がセンターに立つ「Actually…」では表情作りや歌唱において、さらなる成長を遂げたことを確認できた。同曲のクライマックスで聴かせる彼女の、叫びにも似たフェイクは圧巻の一言だ。

 もちろん、そういった変化や成長はほかの3〜5期生からも、(大小の違いはあれど)しっかり感じ取ることができた。自分たちが乃木坂46を守る、自分たちが乃木坂46の未来を作る……そんな自覚が個々に芽生えたことが、座長の井上がMCで語った「私ももっと誰かの期待に応えられるような人になりたいし、もっと希望を与えられるような人になりたい。この乃木坂46が誰かの頑張る理由になれるように、頑張ります」や、山下の「ここに立てていない子(メンバー)もいるんですけど、全員で乃木坂46。歴史をつないできてくださった先輩方にも感謝しつつ、皆さんと一緒に新たな歴史を紡いでいきたいです」というコメント、そして、公演の最後に梅澤が涙ながらに発した「この4日間を乗り越えることが大きな試練でした。怖さも不安もあったけど、確実に成長につながりましたし、先輩たちのあとをしっかり受け継ぐことができたと証明したと思います。私たちが乃木坂46です!」というメッセージにつながった。そう考えるのは、想像に難くない。

 かつて乃木坂46のファンだった少女たちが、今や憧れた先輩たちが誰もいなくなり、気づけば自身が乃木坂46を引っ張っていく側になっていた。先輩たちに認めてもらうこと、ファンに認めてもらうこと、いろんな困難を乗り越えた今、梅澤がどんな覚悟で「私たちが乃木坂46です!」の一言を“聖地”で叫んだのか。その言葉を涙しながら聞いていたメンバーたちは、どんな思いで観客と向き合っていたのか。その答えは今後の活動を通して、形となって現れてくることだろう。

 間違いなく、今の彼女たちこそが乃木坂46。そう強く思わせるだけの説得力を、筆者は神宮4日間を通してしっかり受け取った。これは「再生」でもなければ「リスタート」でもない。2011年8月21日から始まった乃木坂46という物語の、決して途切れることのない「続き」なのだ。この先も紡がれていく旅の続きを、とくと楽しもうではないか。

※1:https://realsound.jp/2023/03/post-1292711.html
※2:https://realsound.jp/2023/02/post-1268821.html
※3:https://realsound.jp/2023/05/post-1333658.html
※4:https://realsound.jp/2022/12/post-1217494.html

<セットリスト>
乃木坂46『真夏の全国ツアー2023』
2023年8月28日(月)明治神宮野球場
00. Overture
01. 裸足でSummer
02. ジコチューで行こう!
03. 好きというのはロックだぜ!
04. 太陽ノック
05. ガールズルール
06. 意外BREAK
07. Am I Loving?
08. 自惚れビーチ
09. 空扉
10. 他人のそら似
11. 君に叱られた
12. 僕は僕を好きになる
13. 夜明けまで強がらなくてもいい
14. 踏んでしまった
15. 錆びたコンパス
16. Hard to say
17. Never say never
18. シンクロニシティ
19. 誰かの肩
20. 絶望の一秒前
21. 4番目の光
22. 三番目の風
23. 設定温度
24. ごめんねFingers crossed
25. Actually…
26. 逃げ水
27. バンドエイド剥がすような別れ方
28. I see…
29. 僕が手を叩く方へ
30. おひとりさま天国
<アンコール>
31. 夏のFree&Easy
32. ダンケシェーン
33. 僕だけの光
34. 人は夢を二度見る
35. 乃木坂の詩

関連記事