s**t kingz、“見るバム”として作品を残す意義 三浦大知とのコラボやメンバープロデュース曲も収めた『踊救急箱』を語る
ダンスパフォーマンスグループ・s**t kingzがグループ2作目となる“見るダンス映像アルバム”『踊救急箱』を9月8日にリリースする。それに先駆け、7月26日には音源を先行配信リリース。これまでリリースしてきた数々のアーティストとのコラボレーション楽曲に加え、メンバーぞれぞれが1曲ずつプロデュースした新曲も収録されている必聴、必見のアルバムだ。ダンサーという表現者である彼らが先頭に立った楽曲が詰まった同作品について、本人たちに話を聞いた。(高橋梓)
三浦大知とのコラボ曲は“まだまだこれからも上に行くぞ”という気持ち
――アルバムタイトル『踊救急箱』にはどんな意味が込められているのでしょうか。
Oguri:9月からライブツアー『踊ピポ』をスタートするのですが、『踊ピポ』には「オドレナクナール」という宇宙光線が地球に降り注いで日本中の人々が踊れなくなってしまうというコンセプトがあるんです。今回のアルバムはそこに繋がっていて。絆創膏や消毒液が入っている救急箱って一家に一つありましたよね。そのイメージで、『踊救急箱』さえあればどんなときでも踊れますよという意味を込めました。
shoji:その時の気持ちに合わせて踊れる、いろんな楽曲が入ったスペシャルボックスだと思ってもらえたら。
――なるほど! 皆さんは楽曲を制作する際、最初にコンセプトをコラボアーティストに伝えるそうですが、アルバム全体のテーマは設定されていたのですか?
NOPPO:『踊救急箱』は、後づけですね。
Oguri:今回のタイトルは楽曲が全部出揃った後につけました。アルバムを作るという話し合いをしている時に出たキーワードや、「オドレナクナール」というようなツアーにまつわる言葉を合わせて、「さて、どうしようか」って。
shoji:このアルバムはツアーがある前提で作ったので、上手くリンクした感じですね。
――皆さんのアルバムはダンスに限らず、クリエイティブ面全てにメンバー4人が携わっています。s**t kingzにとってアルバムはどんな意味をもっているのでしょうか。
shoji:“見るバム”として曲の集合体を作ることというより、自分たちの作品を形に残すことに意義を感じています。見るバムを作るまで、僕らは既存の曲に振り付けを作っていたので、自分たちのものとして残せる作品がほとんどなかったんです。でも、この時代にs**t kingzがいたことを形としてちゃんと残して、何代も先の人たちが見た時に「こんな人達がいたんだ」って知ってもらいたいと思って見るバムを作るようになりました。なので、今回も自分たちが本当に踊りたいと思う曲を集めています。もちろん、YouTubeにアップして済ますこともできるんですけど、もしかするとYouTube自体がなくなることがあるかもしれない。だからこそ、人の手に残るものにしておきたいんですよね。
Oguri:初めて舞台をやった時も似た感じでした。それまではダンスイベントで5分くらいのショーを単発でやっていたんですね。それを見てもらえることはもちろん嬉しいんですけど、もっと一度にs**t kingzのことを知れる時間を作りたいよねという話になって。僕らがギュッと詰め込まれたものを作ることでいろんな側面を同時に見てもらいたい、という。見るバムにもそういった思いが詰まっています。
――そんな『踊救急箱』には新曲が5曲収録されています。そのうちの1曲が三浦大知さんとの「No End feat.三浦大知」。どういった経緯で三浦さんとのコラボに至ったのでしょうか。
kazuki:大知と曲を作りたいという話はずっとあって、去年の舞台『HELLO ROOMIES!!!』の時も大知にお願いしようかという話は出たんです。ただ、15周年のタイミングで、しかも武道館公演を控えている状態でやっと大知とコラボする方が熱いよねという話になって、今回お願いしました。
――そうだったのですね。
kazuki:大知も「まだかな」ってずっと思っていてくれたらしくて。だからこそ大事なタイミングにとっておきたい思いが強かったんですよね。今回改めてオファーをした時にも「今まで待たせてごめんね」という話をたくさんしました。そこからどういう曲にしようかとアイデアを持ち寄って打ち合わせをして、大知とs**t kingzの共通点を探りながら作っていった感じです。
――その共通点はどんなことが挙がったのですか?
kazuki:大知が言ってくれてハッとしたんですけど、新しいものを作りたい、世の中にないものを自分たちがやるんだっていう欲望が大知もs**t kingzも止まらないんですよ。しかも誰かに頼まれたわけじゃなくて、大変なのをわかった上で自分たちで勝手にやるっていう(笑)。「それって病気みたいな感じだよね」と大知が言っているのを聞いて、「たしかに!」って。普通にかっこいいだけじゃ気がすまなくて、「これは見たことがあるな、俺だったらこうやってやるぜ」って常に頭を動かしながら作品を作っているのが僕らの共通点だなって。お互いキャリアを積んできていますが、まだまだこれからも上に行くぞという気持ちを持っていたからこそ、こういう曲が出来上がりました。
――まさに〈ゴールなどはない〉ですね。やり取りの中で特に印象に残っていることはありますか?
Oguri:トラックを作るところからUTAさんのところにみんなで集まって、「そのイメージならこういう音を入れてみよう」って0から立ち会って作ったことがすごく印象的です。トラックが大まかにできたら大知がその場でなんとなくメロディを入れてくれて。「ガヤ的な声がほしいな。じゃあs**t kingzでちょっと録音してみよう」みたいな。みんなでああだこうだ言いながら音を足していったので、すごく愛おしい楽曲です。
――とてもクリエイティブな作業ですね。
Oguri:音楽に関しては素人なんですけどね(笑)。UTAさんが作ったトラックにミュージシャンの方がギターやベースを入れるレコーディングにも立ち会ったんですけど、普段は聞き取れないような微妙な音の違いやアレンジすら愛おしくなるんですよ。ミュージシャンの方がその場で生み出したプレイがそのまま乗っているので、細部まで愛せる楽曲になりました。
――楽曲制作に携わることで、音楽の聴き方は変わりましたか?
kazuki:音楽を作りたいという目線で聴くと驚きが多いです。「ここでこんな音が入ってくるんだ」とか「ここでギターの音がなくなるんだ」とか、細かな部分まで注意して聴くのは楽しくなりました。それに、なんでこんなアイデアが浮かぶんだろうっていうリスペクトも生まれましたね。自動車教習所に行きたての頃って全ドライバーをリスペクトしたくなると思うんですけど、それと同じ感覚……。
shoji:もうちょいレベル高いよ!
NOPPO:そんなもんじゃないでしょ!
kazuki:(笑)。でも、聴こえ方が変わるんだってびっくりさせられます。普通に聴いていたらわからないような音でもなくなると違和感があるとか、ちょっと音を足すだけで圧が増してかっこよくなるとか。面白いですね。
――ダンサーの方々って、「その一瞬の音に振りをあてるの!?」と思うくらい細かな音を拾うじゃないですか。そういったことをやっている皆さんでも、新たな発見があるんですね。
shoji:いっぱいありますよ。振りを作る時はそういう音を探すのが楽しいんですけど、趣味として聴いている時はなかなか意識しませんからね。自分たちが音楽を作る側になって毎回驚かされることがありますね。