Mrs. GREEN APPLEは愛の歌で世界を照らし続ける 歩んできた道のりと未来を祝福した初のドーム公演『Atlantis』
そしてライブ終盤に突入するが、ここでアトランティスの伝説を思い出したい。アトランティスは潤沢な資源を元に栄えた帝国だったものの、やがて人間の行いにより墜落・荒廃、最終的には神々からの罰=大地震と大洪水によって海中に沈み、滅亡した。つまりバッドエンドということになるが、はたしてミセスはこの物語を自身の表現にどう昇華させるのか。その点が今回のライブの鍵となっていた。
その上で重要な役割を果たしていたのが、深海へ潜る幕間映像のあと披露された「Loneliness」、「絶世生物」だろう。レーザー光線が飛び交う中での「Loneliness」はヘヴィでラウドな音像で、「絶世生物」では大森の半ば叫んでいるようなボーカルも、歌うたびに水が勢いよく噴出する演出も鮮烈。アトランティスを襲った災害を思わせる激しさだが、だとすれば、ここが物語の分岐点。神は人間の醜さに失望し、アトランティスを滅亡させた。しかしMrs. GREEN APPLEは人間を諦めない。「絶世生物」では〈墜落じゃない 少しばかり/やる気が亡くなっただけだろう?/そうだろう〉と歌い、〈奇跡と呼べる日を待つの〉と祈る。傷ついたり、悲しくなったり、諦めたくなったりすることがあっても、人は最終的に愛を求める生き物だと信じている。
深海から地上へと上がってくる映像を挟み、クライマックスへ。3人のダンスソロパート(若井はギターを構えながらダンスし、そのままギターソロを披露)が設けられた「ダンスホール」、火花も噴水も上がった「Magic」の大きな盛り上がりによって、本編はポジティブに締め括られた。「今日は一緒にいてくれてありがとう! 出会いに感謝します」(大森)と、アンコールで披露された「我逢人」はインディーズ時代から歌い続けている曲。笑顔で何度も観客に感謝を伝えていた3人の様子を見るに、〈貴方はその傷を/癒してくれる人といつか出会って/貴方の優しさで/救われるような世界で在ってほしいな〉という願いは、今この場においてきっと叶った。この幸福な景色を10年前の彼らが見たら何を思うだろう。大森から「若井、行ってこい!」と送り出された若井がギターソロを炸裂させるのはライブ定番のシーン。さらに次の曲「庶幾の唄」では、「りょうちゃん、行ってこい!」と送り出された藤澤がフルートを吹きながら軽やかな足取りで進む。
フィナーレには、「ここまでの道のりが愛らしく、今日が愛おしくて。これから先の日々を愛せるように、みなさんへの感謝と祝福を乗せて歌います。いつか必ず辿り着けると信じて」(大森)という言葉を添えた「ケセラセラ」。結局ミセスが描いたのはバッドエンドか、ハッピーエンドかというと、おそらくどちらでもない。幸と不幸が忙しく巡るこの世界でどうにか一緒に生きていこうと、同じ時代に生まれたリスナーに伝えたかったのだろう。全曲を届けたあとのMCでは、大森が「どうやらこのアトランティスは海の底に沈んでしまうようですね」と神話の内容に言及した上で、観客にこう伝えた。
「みなさんもこれから大きな荒波に呑まれて、気力を削がれて、それこそ気持ちが海の底に沈むような経験もされると思うんですけど、僕たちは“大丈夫”と高らかに歌いたいと思います。きっと誰かがあなたのことを見つけてくれます。あなたはいつか、辿り着きます」
そうして幕を閉じた『Atlantis』。新旧様々な曲を披露した結成10周年記念公演ということで、MCでは大森が、10年活動していると「あの頃がよかった」という声も聞くが、自分たちは変わっているのではなく「多面的になったし、なろうとしている」という感覚だと語るシーンもあった。また、「どの時代だとしても、僕らが歩いてきた軌跡を愛してくれるのなら嬉しい」とも。その上で「僕らが一番大切にし、愛さなければいけないのは今」とし、「これからも素敵なページをみなさんと一緒に作っていけたらと。今日は本当に素晴らしいページが刻まれたと思います」と充実感を言葉にした。
この壮大な祝典は片鱗に過ぎず、今後もっと様々な展開が待っているのかと思うとワクワクする。若井が10年を「いろいろなドラマがあったけど、ミセスを愛してくれるみなさんがいなければここまで来れなかったので、本当に感謝しかないですね」と振り返り、藤澤が「今日遊びに来てくれたみんなの顔を見て嬉しくなったし、楽しかったし、もっとみんなに喜んでもらえるようなものを届けたいなと思いました」と今広がる景色に未来を見出すなか、終演後の映像では、『Atlantis』の続編にあたる『BABEL no TOH』の制作が決定したと発表された。力強いイマジネーションで以って“在ってほしいもの”を“確かに在るもの”に変える(あるいは気づかせる)信念のエンターテインメントは、私たちの生きる世界を照らし続ける。
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