宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」レビュー:『BADモード』期から一歩進んだA. G. Cookとのスリルあるコラボ

 7月28日にリリースされた宇多田ヒカルのデジタルシングル、「Gold ~また逢う日まで~」。映画『キングダム 運命の炎』の主題歌であり、新宿で撮影されたMVも含めて話題を呼んでいる。

 アルバム『BADモード』以来となるシングルだが、きわめて印象的な展開を聴かせる1曲だ。アルバムのダンサブルな雰囲気を少し残しながら、一歩進んだ次の地点を感じさせる。

宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」Music Video

 アコースティックピアノの繊細な響きとコードワークにのせて、語るようなすこし歪なメロディがまず耳を惹く。それが、シンセベースやパッドによって徐々にサウンドが広がりだし、ビートが脈打ちだす。当初のアコースティックな響きは、スタッカートの効いたデッドで人工的な響きに入れ替わり、ディケイの極端に短いサウンドがざわめくハウシーな展開へともつれこんでいく。

 メロディの輪郭をおぼろげにたどりながら、ビートにあわせて力強く歩みだすようにリズムを刻みだすボーカルの存在感も素晴らしい。細かくレイヤーされたパーカッションに、ボーカルのハモり。決定的なクライマックスを迎えるかと思えたその瞬間にふっと曲は終わる。ビートレスな前半からダンサブルな後半へのなめらかな急展開に巻き込まれたまま、狐につままれたような気持ちでその余韻に包まれてしまう。

 追憶を先取りするように「いま」の別れの苦しみを飲み下そうとする前半から、来るべき悲劇を見据えながら未来に歩みだす転換では三連のフロウが印象的に用いられる。近年の宇多田ヒカルのドラマティックなソングライティングがここでも効果的に言葉に魔法をかけているように思える。そして、〈「世界中が君に夢中」〉というワンフレーズは、アルバム『BADモード』にも収録された楽曲「君に夢中」を思い起こさせる。

 奇しくも「君に夢中」は、「Gold ~また逢う日まで~」と同じくA. G. Cookが共同プロデュースに名を連ねた楽曲だ。A. G. Cookはレーベル・PC Musicの主宰者であり、のちのハイパーポップにも影響を与えた、2010年代に台頭したプロデューサーのひとりだ(ちなみに、PC Musicは今年10周年を迎えると同時に、年内で新譜のリリースを停止することが発表されたばかりだ)。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる