Anonymouzが“顔出し”に至った理由 wacci 橋口洋平提供曲「レッスン」で新たなスタートへ
Anonymouzが新曲「レッスン」をリリースした。
2019年よりYouTubeにてJ-POPの英語カバーをスタートし、その抜群の英訳センスと美しい歌声で注目を浴びてきたAnonymouz。顔を隠しながら活動を続け、今年2月には1stアルバム『11:11』をリリース。着々とその歌声は広がりを見せていたが、7月のワンマンライブから顔を出すという決断をし、新しいアーティスト写真ではしっかりと表情を明かしてカメラを見つめている。
そんな新たなスタートを切ったこのタイミングで発表した本曲は、wacciの橋口洋平が作詞作曲を担当。これまで英語詞をメインに歌ってきたAnonymouzの楽曲スタイルとは打って変わって、全編日本語詞によるJ-POP然とした作風が印象的だ。wacciの恋愛ソングを彷彿とさせる緻密なキャラクター設定と、思わず口ずさみたくなるようなメロディが癖になる一曲である。
これからは「等身大の自分を晒け出して歌っていきたい」というAnonymouzに、顔出しするに至った理由や、「レッスン」の制作エピソード、そして今後について話を聞いた。(荻原 梓)
顔出しの理由は「見た目と心との間で感じていたすれ違いがなくなってきた」
ーー初の顔出しライブとなった『Anonymouz Live 2023「Awake」~11:11~』の手応えはどうでしたか?
Anonymouz:もちろんドキドキな気持ちではありました。顔出しをする決意はあったんですけど、いざ本番を迎えると正直少し不安も残ってました。でも、拍手が大きかったり舞台に上がって幕が開けた瞬間から声援を送っていただけたことで、不安な気持ちも全部吹き飛ばしてくれて、お客さんへの感謝が募ったライブでした。
ーー最初から温かい空気で包まれていたんですね。
Anonymouz:はい。みなさんすごく温かくて、嬉しかったです。この決断をして良かったと思いました。
ーーそもそもなぜ顔を出していなかったんでしょうか?
Anonymouz:もともと見た目でイメージを決めつけられてしまうのがすごく嫌だったんです。自分の歌をもっと世界に広めていきたいと思った時に、大好きな歌を歌う時だけは自由な場所にいたいと思っていたので、まずは顔を隠して、声だけで聴いてもらおうという気持ちで活動を始めました。
ーー純粋に歌声だけを評価してほしかったと。
Anonymouz:そうです。自分の見た目と心の中にいる自分ってちょっと違うのかなって思っていて。そのすれ違いを感じていたので、そこから自由に心のままに歌いたかったんです。
ーーそして今回顔を出すことにしたのはなぜでしょうか?
Anonymouz:お客さんの前で歌ったり、たくさんの曲を書いたり、大人になっていくうちに見た目と心との間で感じていたすれ違いがあまりなくなってきて。逆に、つけていたアイピースが少し私の歩みをゆっくりにさせているというか。目を合わせるからこそ伝えられるメッセージが、今の私からは伝わってないんじゃないかという不安を覚えるようになったんです。今の私だったら、ありのまま顔を出して歌ってる方が合ってるんじゃないかなって。歌詞だったりメッセージだったり、表情を含めて伝えられることとか、聴いてくれる人に真っ直ぐ届けられるものがもっとあるんじゃないかなと思い始めたんです。それをライブとかの経験を重ねて徐々に考え始めて、今の自分に合わせてこの決断に至りました。
ーー顔を出すことに不安や怖さはありませんでしたか?
Anonymouz:最初はかなりありました。でも、新曲の「レッスン」だったり、新しいアー写の撮影だったり、制作を通していろんな人が関わってくれたんですけど、そのなかで自分の気持ちに耳を傾けてくれるスタッフに恵まれて、私の思いが隅々まで込められたMVや曲を作れたので、それが私の自信になったんです。だから、『Anonymouz Live 2023「Awake」~11:11~』のステージに立つ時には、あとはお客さんが受け入れてくれるかという不安だけでした。これからの新しいAnonymouzにはもう不安がなくなったので、今はすごく自信を持ってます。
ーー怖さよりも自信がついたという変化が大きかったんですね。
Anonymouz:この2年ぐらいAnonymouzとして活動してきて歌に対しての自信がついたので、顔を出しながらリハーサルしても本番で顔が隠れちゃうと、本当に実力を発揮できるのかという不安があったくらいで。それくらいみんなの前でパフォーマンスすることが楽しくなっていったので、今の自分に合わせた決断でした。“解放”という気持ちが大きかったです。
ーー顔を出さないと気づけなかったことはありますか?
Anonymouz:今までも伝えたいという気持ちで一生懸命ステージに立ってたので、お客さんの目を見て歌っているつもりではあったんですけど、いざ外してみると景色は全然違いました。みんなの目とか表情とか、細かいところまで確認できるので、そういう意味ではみんなを巻き込んだライブ作りが楽しくできるようになったり、すごくやりやすくなったと思います。それにみんなのことがちゃんと見えていることが私の歌にも影響してて、歌も真っ直ぐになったりとか、結構変わるんです。
ーー顔を隠している時とお客さんの反応は変わるんですか?
Anonymouz:違う気はします。みんなもより解放的になるというか。ちょうどみんなの声を聴けたのもこのライブが初めてだったので、みんなも私に伝えようとしてくれていたのが分かるライブでしたし、コロナ禍で活動を始めたので、本当にお客さんの声も聞いたこともなければ、最初は着席でのライブだったので、顔出しを境に楽しいライブができて嬉しかったです。
ーー最近は覆面アーティストも多いですが、顔出しの一つの成功例にアノさんがなったように思います。
Anonymouz:この活動を始めた頃の私は、顔を隠していないと人前でうまく歌えなかったり、自分の表現ができなくて、すぐ繕ってしまっていました。自分らしくいられなくて、かえって後悔することが多かったんです。その時の自分は匿名性に守られて自由だったんですけど、そのなかで積んだ経験が本当に自信になって、堂々とステージに立てるようになりました。顔を隠していた時代を経て、今の自分は、逆に顔を出したことで自由になれた気持ちです。
ーーさて、そんな心機一転のタイミングでリリースする新曲「レッスン」ですが、作詞作曲をwacciの橋口洋平さんが担当してますね。
Anonymouz:wacciさんの楽曲の英語カバーをさせていただいたことがあって、私自身ずっと大好きだったアーティストさんだったので、もし曲を書いていただけたらどれだけ幸せだろうと思ってたんです。それでオファーをしてみたところ、前向きなお返事をいただけました。
ーーこれまでたくさんのカバーをしてきたのでいろいろなメロディや歌詞に触れてきたと思いますが、そのなかでアノさんが思う橋口さんの書く曲の魅力とは何だと思いますか?
Anonymouz:メロディ面ではAメロやBメロがどことなくラップのような、特に英語に訳してみると本当にラップみたいな早口なところが多くて、そこからサビで一気に世界が広がるようなメロディになるので、そこはwacciさんの特徴かなと思います。あと歌詞が映像で浮かんでくるようなリアルな表現なのと、胸をぎゅっと掴まれるような切ない落ちサビも大好きです。
ーー曲を作るにあたって橋口さんにはどんなことを伝えましたか?
Anonymouz:まず依頼する時は、今までの自分の曲にはないものというのを意識してお願いさせていただきました。書いてもらいたい曲のビジョンはあったので、どんな男女が出会って、どんな風に付き合って、その間に男の子がどんな失敗をして、どんな風に別れてしまったのかとか、男の子の性格だったりを具体的に並べさせていただいたんです。それこそAメロは語り口調でBメロはエピソードたっぷりとか、サビは世界が広がるように、とか。
ーーかなり具体的に提示したんですね。
Anonymouz:結構いろんなリクエストをしてしまって、それが型になってしまったら嫌だなと思っていたんですけど、結果的にものすごく噛み砕いてくださって、橋口さん色に染まった物語が届いたのでとても嬉しかったです。
ーーむしろ具体的な方が書きやすかったのかもしれませんね。
Anonymouz:以前ラジオで共演した時に、橋口さんが“あるある”を並べるのが(曲作りにおいて)一番大変な作業だとおっしゃってたんです。今回はその“あるある”を私の方からたくさん提示させていただいたので、少しでも制作しやすいと思っていただけたのなら、良かったなと思っています。