石崎ひゅーい、出会いによって研ぎ澄まされたポップスの醍醐味 『宇宙百景』は10年分の想いを届ける手紙のような1枚に

石崎ひゅーい、手紙のような1枚

 槇原提供曲の「邂逅」は、日常風景をどのように切り取るか、その風景の中に主人公の心情をどのように映し出すかという点において秀逸であるとともに、「第三惑星交響曲」を彷彿とさせるフレーズが入っていたり、サビがそのまま今の石崎の心情を歌っているようであったりと、アニバーサリーにふさわしい内容だ。菅田とのデュエットソング「あいもかわらず」までの3曲は軽やかだが、ロックな「ワスレガタキ」によって空気が一変。〈この頭の中の熱狂に着火したならとんでもない所に/まだ飛んでもないのに着いてる/着いてもないのに飛んでる〉と歌われる逸る心はサウンドにも結びついていて、この疾走感がこれ以降の楽曲の広がりの布石となっている。

石崎ひゅーい - 邂逅 / Lyric Video

 その先に待っているのは、愛情の描き方が絶妙で、尾崎の着眼と描写の鋭さが光るラブソング「あたしは恋をしている」や、〈爆発の時だ〉という最初の一行の時点で抜群、長澤提供曲にもかかわらずメロディも言葉選びも石崎らしく、つまり石崎は確かに長澤の影響を受けていると思わせられる「スパノヴァ」、そして「虹」「ラストシーン」のセルフカバー。一方、石崎自ら書いた曲も存在感があり、ラップ的な譜割りが新鮮な「デュラ・デュラ」がアルバム中盤の濃密なゾーンの入り口を担っているのが頼もしく感じられた。後に別れへと繋がる伝えられなかった(伝えなかった)言葉の数々を、“飲み込む”という行為や、その背景にある思案も含めて美しい花束に見立てるバラード「花束」は、ボーカルもソングライティングも石崎の真骨頂と言うべき仕上がりだ。日々の生活の中で確かに訪れるがなんとも言い表しがたい感情・感覚に形を与え、音楽に落とし込むという点において、石崎はやはり優れている。

石崎ひゅーい - 虹 / OFFICIAL MUSIC VIDEO

 「スタンドバイミー」のセルフカバーによって、アルバムは締め括られる。〈君〉との出会いを祝福し、〈笑いながら生きていこう〉と歌う温かなバラードだ。〈いつも一つだけ足りないのはね/いつか二人で100にできるように〉という歌詞は「宇宙百景」にある〈たった一つの出会いの中に/僕は百の景色を見たんだ〉というフレーズとリンクするもの。筆を走らせながら音楽の届く先を想像する「宇宙百景」と、歌を飾らずに届けるアレンジの「スタンドバイミー」はそれぞれ“拝啓”と“敬具”のよう。この2曲が始まりと終わりに配置されることで、アルバム『宇宙百景』はリスナーへの手紙としてパッケージングされた。

 「スタンドバイミー」では〈君のかける魔法で あの大空を飛んでいく〉と歌われている。今作が描き出す豊かなイマジネーションとロマン、その源にあるのは“君”の存在だと伝える言葉だ。一つひとつの出会いが石崎ひゅーいという音楽宇宙を拡大させ、その音楽によって私たちリスナーの日々が彩られていく。時には、作り手すら想像していなかった新しい視点からそれぞれの楽曲が解釈される。『宇宙百景』はそんな広がりと未来をもたらす作品で、この無際限な世界こそがポップスの醍醐味だと楽しみながら挑む石崎の姿をリアルに感じ取れた。

※1:https://ananweb.jp/news/496482/
※2:https://realsound.jp/2023/07/post-1368724.html
※3:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/38005/2
※4・https://realsound.jp/2021/12/post-929740.html

石崎ひゅーい『宇宙百景』
石崎ひゅーい『宇宙百景』

■リリース情報
石崎ひゅーい
5thアルバム『宇宙百景』
2023年7月26日(水)発売
・初回生産限定盤(Blu-ray付き)/紙ジャケ仕様:¥5,500(税込)
・通常盤(CDのみ):¥3,300(税込)

DL&STREAMING
https://erj.lnk.to/GJ5H4z
CD購入
https://erj.lnk.to/uCbq71

<収録曲>
M1 宇宙百景
M2 邂逅 ※槇原敬之提供
M3 あいもかわらず 石崎ひゅーい×菅田将暉
M4 ワスレガタキ
M5 デュラ・デュラ
M6 あたしは恋をしている
M7 花束
M8 虹 ※2020年菅田将暉提供曲 セルフカバー
M9 スパノヴァ
M10 ラストシーン ※2021年菅田将暉提供曲 セルフカバー
M11 スタンドバイミー ※2022年矢部浩之提供曲 セルフカバー

<初回盤Blu-ray>
・石崎ひゅーい 10th Anniversary LIVE 『、』2022.7.25 in Tokyo Ebisu LIQUIDROOM
M1 第三惑星交響曲
M2 バターチキンムーンカーニバル
M3 夜間飛行
M4 メーデーメーデー
M5 1983バックパッカーズ
M6 カカオ
M7 ナイトミルク
M8 花束
M9 おっぱい
M10 ひまわり畑の夜
M11 天国電話
M12 花瓶の花
M13 さよならエレジー with 菅田将暉
M14 虹 with 菅田将暉
M15 あいもかわらず with 菅田将暉
M16 アンコール
M17 僕がいるぞ!
M18 ファンタジックレディオ
・特典映像:リハーサル&本番日オフショット映像

石崎ひゅーい 公式HP

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