THE BACK HORN、25周年にして初のビルボードライブ東京公演 “動かない”スタイルでも変わらないパフォーマンスの芯
「『KYO-MEIワンマンツアー ~REARRANGE THE BACK HORN~』ビルボード東京 第2部へようこそ」と山田将司(Vo)が告げて始まった、THE BACK HORN初のビルボードライブ東京公演。美味しいお酒や料理を味わいながらジャズやR&Bなどのライブを楽しむスタイルのこの会場で、彼らがどんなライブを見せてくれるのか、満席のオーディエンスも生配信で観ている人たちも期待に胸を膨らませていたに違いない。
彼らは結成25周年記念作として、厳選した12曲を新たなアレンジで録音、さらに新曲「Days」を加えた『REARRANGE THE BACK HORN』を6月14日にリリースした。本公演は、それを携えて7月8日の仙台Rensaからスタートした、全5カ所で2回公演を行うツアーの最終公演だ。ステージに用意された椅子に山田、菅波栄純(Gt)、岡峰光舟(Ba)が座り、後方の松田晋二(Dr)の隣にはサポートキーボーディストの曽我淳一が待機。山田はマーティンのビンテージ風アコースティックギター、菅波は愛用の赤いグレッチのエレキギター、岡峰もアコースティックベースを抱えたところは、アルバムに先駆けて公開されたMVと同じだ。幕開けはアルバムと同じく「冬のミルク」。ボサノバ調を踏襲しながらキーボードが入ったことでライブ用に新たなアレンジを施したようだ。
普段ならステージを所狭しと暴れまわるTHE BACK HORNが着席しているだけで新鮮だが、山田の丁寧な歌や穏やかで力強い演奏は、スタイルを持ち替えても変わらない彼らのプレイの芯を感じさせる。細かいことを言えば、いつもなら素足でステージに立つ菅波がスニーカーを履いているのも初めてのことではないかと思うが、終演後に聞いたらエフェクターが踏みにくかったそうだ。勝手の違うステージに不慣れな感じもありながら、動かないことで演奏に集中しているように見えた。また、ツアーを経たことでリアレンジがライブ用に消化されてきたことが感じられる。そんな思いを強くしたのが次の「幾千光年の孤独」。ジャジーな揺れに彼ららしい起伏が加わって山田が声を張り、緊張感のある間奏から後半をタイトに盛り上げた。
マイクを持った松田が立ち上がり「このツアーは今日がファイナル、この公演が正真正銘の最後。たっぷりと特別な夜を味わってほしいと思います。素晴らしい夜にしていきましょう」と来場者と配信視聴者に告げて、「ガーデン」へ。ドラムとベースがしっかりボトムを作る演奏が山田の声を引き立てて、菅波のギターソロを軽やかに乗せていく。いつもなら力技に出る菅波も抑えたプレイでこのセットを楽しんでいるようだ。山田の弾き語りから始まった「美しい名前」は、もう語り合えない相手の名前を呼ぶ悲しい曲だが、感情のこもった歌とその切なさを救うようなギター、心の奥の重さのようなベースの対比が印象的だった。
ベースが怪しく響きシタール風にキーボードが入ってサイケデリックに盛り上げた「幻日」が終わると山田と菅波が嬉しそうにアイコンタクトを交わし、ブルージーに仕立てた「ファイティングマンブルース」では菅波が文字通り表情豊かにソロを聴かせた。この曲の後のMCで岡峰が「ここから見てもいい顔でソロ弾いてる」と言葉をかけたのも、互いが見える着席でのライブだからだろう。そして松田の提案で、菅波の音頭で乾杯をすることに。前振りもなく「乾杯!」と水のボトルをあげた菅波に「情緒がない」と突っ込んだ松田だが「今回のアルバムは25年経ったからこそできる。ずっとこういうアルバムができればいいと思ってて、素晴らしいアルバムができた。こういうアレンジを聴くとまた原曲聴きたいと思うんで、行ったり来たりしながらこのアルバムを末長く聴いてくれたらと思います」と締めた。
松田が叩き出す落ち着いたビートと柔らかなギターでゆったりと歌を聴かせた「夕暮れ」。エレアコベースに持ち替えた岡峰がイントロを弾き感情を込めた山田の歌を導いた「羽根~夜空を越えて~」は、クリスマスを舞台にした曲なのでギターの合間に菅波がスレイベルを鳴らしたり、キーボードで教会の鐘のような音を入れたりと、菅波が音を重ねた『REARRANGE』バージョンに近づける工夫を凝らして、彼ら自身も楽しんでいたようだ。