花澤香菜が誘った日常で見られる“夢”のようなライブ 声優デビュー20周年、感謝の気持ちも伝えたワンマン公演

花澤香菜、“夢”のようなライブ

 花澤香菜が5月20日に埼玉・ウェスタ川越 大ホールにて、ワンマンライブ『HANAZAWA KANA Live 2023 “Not As Dramatic As…”』を開催した。

 今年4月からリオンエア中のTVアニメ『久保さんは僕(モブ)を許さない』では、主人公の久保渚咲役とオープニング主題歌「ドラマチックじゃなくても」を担当。自身としては声優デビュー20年にして、初の“主役&主題歌アーティスト”をダブルで務めた記念すべき作品となっており、今回のライブには英訳した主題歌のタイトルが冠されていた。

 冒頭はレトロゲームのドット絵による映像からスタートした。ベットで目を覚ました花澤が声優デビュー20周年を振り返る内容となっており、初めてのアフレコやレコーディング、アルバム制作や武道館公演、上海でのライブなどのエポックメイキングな出来事が描かれたあとで紗幕が上がり、レーベル移籍第1弾のアーティスト写真を思わせる月と星、雲が浮かんだステージに、画面上のピクセルアートと同じ白いワンピース姿の花澤が笑顔で登場。胸が高鳴るキラキラのラブソング「Moonlight Magic」で〈もう私は好きなんだけど〉に続くセリフパートで「川越のみんなは私とどうなりたい?」と呼び掛けると、客席からは大きな歓声が上がった。続いて、花澤は「みなさん、今日は声を出していいんですよ。やったー!」と嬉しそうに叫びながら、クラップや合唱で盛り上がる「運命の扉」や「ブルーベリーナイト」といった会場の一体感を高める楽曲を連発。〈それでも、まだこの世界は素晴らしい〉と高らかに歌い上げ、場内を幸福感で満たしていった。

 最初のMCでは、改めて、本公演が3年ぶりに声出しが解禁となったことに触れ、「コール&レスポンスができるセットリストになってます」と説明。アニメ『それでも歩は寄せてくる』のオープニングテーマ「駆け引きはポーカーフェイス」ではイントロからクラップが鳴り響き、ポルカドットスティングレイとコラボしたキャッチーなダンスポップ「SHINOBI-NAI」や切なくもエモーショナルなロックナンバー「ユメノキオク」では観客はジャンプしながら赤いペンライトを振り上げた。場内の熱気が一気に上昇する一方で、歌詞では“夢の続き”が歌われていた。楽曲としては、夢の中でしか会えなくなってしまった人への思いを歌っているのだが、この日は、声優や歌手、ラジオパーソナリティといった“夢”が叶った後や、ライブという夢のような時間が終わった後の答えを“日常”に求め、決してドラマティックではない日々の淡々とした暮らしを慈しむ感性を得たという彼女の実例を体現してくれているようにも感じた。

 ここで、オープニング映像を振り返り、「愛を感じるよね。私が声優デビュー20周年ということで」と語ると、観客からは「おめでとう!」の声と大きな拍手が贈られた。「あんまり実感がないんですけど、最初は声優業をこんなに続けられるなんて思っていなくて。とにかく思い切り頑張ってみようということで、武者修行のようにいろんな現場に行かせてもらい、鍛えていただいて。私は本当に環境と人とご縁に恵まれているなと思います」と続け、「とにかく毎日、アフレコが楽しいんですよ。この楽しい日々をできるだけ長く続くようにこれからも精進して頑張ってまいります」と柔らかな決意を表明。さらに、11年目に入った音楽活動については、「本当に私は幸せ者です。私にとってはご褒美のような時間なんですよ。役を介さない自分を表現できて、応援してくれるみんなに楽しんでもらえる貴重な時間なんです。本当に続けさせていただいてありがとうございます。みんなのおかげです」とバンドメンバーやスタッフ、ファンに精一杯の感謝の気持ちを伝えた。

花澤香菜(写真=KOBA [Sketch])

 中盤にはアコースティックギターと縦弾きのベースを基調にしたサウンドで、心をゆっくりと温めてくれてるような時間が設けられた。手を繋いで一緒に明日を歩んでいきたいというメッセージを込めた「ダエンケイ」、音楽を通したつながりを描きながら、夢の中へと誘っていく「あたらしいうた」のアコースティックバージョン。そして、再び紗幕が下りると、ホールはクラブのような空間に変化。変拍子のエレクトロ「眠るサカナ」では眠っているベッドごと深海へと沈んでいき、四つ打ちの「星結ぶとき」では宇宙へと上昇。そのままシームレスでディスコファンク「息吹 イン ザ ウィンド」につなぎ、バンドメンバーのソロ回しの間に花澤は着替えを済ませ、シースルーの衣装にチェンジ。ドラマ『俺の美女化が止まらない!?』のオープニングテーマに起用されている最新の配信シングル「Circle」を初披露すると、場内は今度はライブハウスのように拳とシャウトが上がり、「CALL ME EVERYDAY」では〈もしもし〉のコール&レスポンスが実現。「Groovy Mystery Train」ではミラーボールが回る中でピースサインが繰り出され、ライブではお馴染みの「無邪気なキミと真夏のメロディ」や「Eeny, meeny, miny, moe」でさらに観客のボルテージは高まり、「マラソン」では拳を上げた大合唱が沸き起こった。そして、グッドメロディのポップソング「恋する惑星」で観客の両手クラップとジャンプを引き起こした彼女は、「ドラマチックじゃなくても、特別なことをしなくても、あなたといれば大切な日になるというメッセージが込められています。過去の大切な時間を噛み締めながら、大切なひとを思い浮かべながら、楽しんでいただければと思います。私は今、この瞬間、目の前にいる大切な人たちに向かって歌いますので、ぜひ受け止めてください」と語りかけ、ライブのタイトルソングとなった「ドラマチックじゃなくても」に、今日一緒に口ずさんだメロディが、観客一人ひとりの心を豊かにする思い出になるようにという願いを込めて歌い、本編を締めくくった。

 アンコールの「雲に歌えば」では、ツアーTシャツに着替えた花澤と会場全体が踊りながら一体となると、前乗りした川越のホテルで「すね毛がもじゃもじゃで、剃っても剃っても生えてくる夢を見た」というエピソードを明かし、観客の笑いを誘った。寝ている時に見る夢、人生で思い描く夢、日常の中にある夢のような時間と空間、そして、様々な夢から醒めたあとに訪れる現実の“今、ここにある生活”に思いを馳せたライブの最後に歌われたのは、11年前となる2012年4月にリリースされたデビューシングル「星空☆ディスティネーション」のボサノヴァバージョン。「心がほぐれた状態でライブができてるのかなと思います。今日の楽しい時間をありがとうございました」と語った彼女の柔らかく優しい歌声と観客によるコーラスが重なる中で、ポップでカラフルでドラマチックでもあった、日常で見られる夢のようなライブは幕を閉じた。

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